34.勧誘合戦
帰りは、ナタリー様だけでなくサヴィニー伯爵にルーディガー様まで、馬車に同乗してわたしを屋敷まで送ってくださることになった。なぜ……。
「マ、マティルド……。その御方は……」
出迎えたグレース伯母様が、卒倒しそうな表情でわたしを見た。
そりゃそーだ。先触れもなくいきなり魔術師の塔の事務方トップと師団長、王宮騎士団の副団長様揃い踏みで現れるなんて、ありえない話だよね。驚かせてすみません。
「失礼、私は王宮騎士団副団長を務めるエドガー・サヴィニーと申します」
サヴィニー伯爵が優雅に一礼する。ヒッとグレース伯母様が息を呑んだ。
「マティルド……、今日は魔術師の塔にお邪魔したはずでは……」
「すみません、グレース伯母様。サヴィニー伯爵とは帰りがけにお会いしたんです。それで、ご親切に屋敷まで送ってくださることになって」
「マティルド嬢は才能豊かなお嬢さんですから、学院を卒業したら王宮騎士団に入らないかと勧誘しているんです。……そうだ、もうすぐ建国記念祭がありますが、王宮騎士団が大通りをパレードしますので、よければ是非、おいでください。見学席をご用意します」
「まあ!」
グレース伯母様が目を輝かせた。
「お恥ずかしい話ですけれど、わたくしはまだ建国記念祭のパレードを拝見したことがございませんの。それはもう大変な人出で、なかなか見学席の予約が取れないと伺いましたが、よろしいのでしょうか?」
「心配ご無用です」
サヴィニー伯爵がキラキラの笑顔で言った。
「マティルド嬢は、将来有望な騎士見習いですからね。それくらいの便宜をはかるくらい、どうということもありません」
「サヴィニー伯爵! そちらのほうがよほど姑息な振る舞いじゃありませんか!」
ナタリー様が目を吊り上げて怒ったが、
「こちらはマティルドの伯母上だな」
ルーディガー様もサヴィニー伯爵にならい、優雅に一礼した。
「先ほどは失礼した。マティルドは私の弟子となったので、よろしく頼む」
「弟子!?」
グレース伯母様は胸を押さえ、よろよろと壁にもたれかかった。
「伯母様、大丈夫ですか?」
「え、ええ……、大丈夫です。弟子……」
わたしは三人を振り返って言った。
「申し訳ありません。伯母の具合が悪いようですので、これで……」
「それはいけないな」
サヴィニー伯爵が心配そうに言った。
「後ほど、体に良いと評判の薬草茶を届けさせよう。わが騎士団が南部に派遣された際、手に入れたものでね、王都ではなかなか手に入らないんだよ」
「魔術師の塔からは、師団長が調合された秘薬をお届けいたしますわ!」
ナタリー様がサヴィニー伯爵を押しのけて言った。
「師団長は薬師としての腕も国一番と言われておりますから! 効果のほどもわからないどこかのお茶より、よほど信頼できますわ!」
「……お二方とも、ご厚意いたみいります……」
「マティルドの顔色も悪いな。今日は疲れたか? 早めに休め」
疲れたのはあなたたちのせいだよ、と思ったけど、お茶や薬などの気遣いはありがたい。ありがとうございます、と頭を下げると、
「疲れると魔術の成功率も落ちる。体をいとえ。ではまた明日」
「明日!?」
わたしは思わず飛び上がった。
「明日は授業があるんですけど!」
「学院なんて辞めろ。マティルドは私の弟子なのだから、学院に通う必要などない」
「そういうわけには……」
この人の部下は苦労しそうだと思ったけど、弟子はもっと苦労しそうだ。
魔術師の塔には入りたいけど、弟子は遠慮したい。
「師団長、さすがに学院を退学させるのはやりすぎかもしれません。ルブラン伯爵からも抗議されるかもしれませんし」
父上が魔術師団長に抗議するとは思えないが、ナタリー様の言葉にルーディガー様は「ふむ」と考え込んだ。
「面倒だな。学院など通ったところで何にもならんと思うが」
「マティルド嬢、王宮騎士団は君に学院を辞めさせたりはしないからね。君の卒業を待って入団してもらうから、心配いらないよ」
「魔術師の塔も同じです! マティルド嬢、師団長の言うことは気にしないでください!」
グレース伯母様の顔色がますます悪くなった。
三人とも、もう黙ってください。




