33.魔術師の塔と王宮騎士団
「実に有意義な時間だった」
ジェラルド様が満足そうに笑って言った。
「珍しいユニーク魔術を二つも見ることができたしね。……マティルド嬢、ありがとう」
まばゆい王子様スマイルを向けられた。
「いえ、そのような! わたしこそ、炎の剣を手にすることができたのは、王太子殿下のお言葉があったからです。ありがとうございます」
あの無茶ぶりのおかげで、子どもの頃の憧れが叶ったのはたしかだ。そこは感謝している。
驚いたことに、ユニーク魔術で作った炎の剣は、ずっと炎の効果を持続させても魔力を消費しなかった。
どうやらわたしの炎の剣は、「剣に炎の効果を付与された」ものではなく、最初から「炎の剣」という状態で存在しているため、いくら剣を振るっても魔力が減らないらしい。
すごい。スーパー省エネ魔剣だ。しかも「炎の剣の収納ってどうしたらいいんだろ?」と思った瞬間、炎の剣が消えたのだ。ユニーク魔術で作られた炎の剣は、わたしが「必要だ」と思っている間だけ存在するらしい。鞘いらずで便利!
ジェラルド様が王宮に戻るというので、わたしも屋敷に帰ることにした。ジェラルド様の見送りだろうか、ルーディガー様とナタリー様も魔術師の塔を出た。
すると塔の前に、サヴィニー伯爵が立っていた。
ひょっとしてわたしを探してここまでいらしたのか!? と思ったら、サヴィニー伯爵は王太子殿下に気づき、サッと顔色を変えた。
「これはこれは王太子殿下、お久しゅうございます。……ユニーク魔術の使い手とわかるや否や、マティルド嬢に接触されるとはさすがですね」
にこやかだけど、なんか棘を感じる。
「サヴィニー伯は、魔術師の塔に一歩遅れをとったようだな。マティルド嬢は師団長の助言を受けて、憧れの炎の剣を作り出したよ。君の手助けは必要なさそうだ」
王太子殿下もにこやかだけど、なんかなんか……。
「ほう」
サヴィニー伯爵は片眉を上げ、わたしを見た。
「そうか、炎の剣を。マティルド嬢、良かったね」
「え、はい、あの……、すみません……」
二人の険悪な雰囲気に、なぜか謝罪してしまった。
「君が謝るようなことじゃない」
サヴィニー伯爵がにこやかに言った。
「私を出し抜こうと姑息に動き回る輩が悪いだけだよ」
「なんですって!?」
ナタリー様が目を吊り上げた。しかし、
「なんだエドガー、おまえもマティルドのユニーク魔術を見たいのか?」
ピリピリした空気をものともせず、ルーディガー様がのんびり言った。
「珍しいな。おまえはあまり魔術に関心がないと思っていたが。さすがにユニーク魔術は特別か」
「ルーディガー」
サヴィニー伯爵は毒気を抜かれたようにルーディガー様を見た。
ルーディガー様とサヴィニー伯爵は親戚だから、幼い頃から関わりを持っている。ガブリエル様の父方の叔父がルーディガー様、母方の伯父がサヴィニー伯爵だ。
そのため、親戚ではあるけれど血は繋がっていない。見た目もまったく違っている。どちらも美形だけど、闇の魔王と光の貴公子って感じ。
「……おまえも王宮騎士団と争うつもりか?」
「なんのことだ?」
「マティルド嬢のことだ!」
サヴィニー伯爵が怒ったように言ったけど、ルーディガー様はまったく気にした様子はない。
「マティルドは私の弟子だ」
「そうなのか!?」
サヴィニー伯爵が驚いてわたしを見た。
「マティルド嬢、君は魔術師の塔に入るつもりなのかい?」
「別に塔には入らなくてもいいぞ。私の弟子であればそれでいい」
「師団長!」
ナタリー様が慌てて言った。
「そのような事をおっしゃられては困ります! ユニーク魔術の使い手を騎士団にとられてもいいのですか!」
ルーディガー様は肩をすくめた。
「所属が塔だろうが騎士団だろうが、そんなのはどうでもいい。大事なのは、マティルドがユニーク魔術を極め、どんどん新しい魔術を生み出すことだ」
おお……、魔術オタクの心意気を見ました。
ルーディガー様は魔術師の塔と王宮騎士団の競争とか、まったく関心がないみたい。権力も金も、どうでもいいって感じ。
興味があるのは、ただ魔術だけ。ある意味あっぱれだけど、部下は苦労するだろうな。




