28.対応が大変だ
その日、帰りの馬車の中で、わたしはグレース伯母様に今日あったことを伝えた。
「おまえがどうしてもと言うなら、もう一度、おまえと婚約してやってもいい」という、シモン様のふざけた言葉も。
「ケルテス辺境伯は何をお考えなのでしょう。シモン様は、「父上に言われたからしかたない」とおっしゃっていました。まさかケルテス辺境伯は、本気でコレット様からわたしへ、シモン様の婚約者を変更なさるおつもりなのでしょうか?」
グレース伯母様は難しい表情でわたしを見下ろした。
「……実をいうと、今日あなたが学院に行った後、ルブラン家から早馬で知らせが届きました。……婚約について、ケルテス家からお申し出をいただいたそうです。あなたが望むなら、またシモン様の婚約者になることができると……」
えっ!? と驚くわたしに、グレース伯母様がため息をついた。
「たしかに元々、あなたとシモン様は婚約していました。しかし、あのような形で婚約解消しておきながら、マティルドに魔術の才ありとわかるや否や、このように手の平を返してくるなんて……」
「伯母様」
わたしは必死に言った。
「わたしは、シモン様の婚約者にはなりたくありません! わたし、学院を卒業したら魔法騎士になりたいんです!」
「まあ」
グレース伯母様は驚いたようにわたしを見た。
「マティルド、あなた魔法騎士になるつもりなの?」
「ええと、なれればですが。……でも、どちらにしてもわたしは魔術師の塔か王宮騎士団に就職するつもりなので、シモン様の婚約者にはなれません」
シモン様はケルテス辺境伯家の跡継ぎだ。その妻が北部に戻らず王宮勤めってありえないだろう。
と思ったのだが、
「どうも今回のことは、ケルテス家の長老たちが言い出したことらしいの。マティルドがユニーク魔術の使い手だと判明したせいで、なぜルブラン家からリヴィエール家に婚約者を変えたんだ、とだいぶ騒がれたようよ」
あああ、ケルテス辺境伯家の長老たちか! ちらっとしか見たことはないけど、たしかに意思が強そうな強面ぞろいだった記憶があるよ!
五歳になり、初めてケルテス家を訪問した時、ケルテス辺境伯夫妻の後ろにずらっと並んでいたお歴々の面々……。あれが長老たちだろう。
「だから、マティルドが学院卒業後に北部に戻らず、王宮勤めになったとしても、それを認めるようケルテス辺境伯に働きかけたそうなの」
グレース伯母様がため息をついた。
「正直、このなさりように思うところもあるけれど、ルブラン家として考えれば悪い話ではないわ。だからあなたのお父様も、『あなたが望むなら』とおっしゃっているのよ」
一ミリも望んでいません!
わたしの顔を見て、グレース伯母様が苦笑した。
「ええ、あなたのお父様もお母様も、あなたがこのお話を嫌がるだろう、とお考えでした。……まあ、あなたがユニーク魔術の使い手である以上、何もケルテス家との縁談に固執する必要もありませんしね」
いや、でもそれってどうなんだろう。
つまりわたしは、ケルテス家以上の名家の男性をつかまえるよう、プレッシャーをかけられるってことなんじゃない?
そんなのイヤだ! ……けど、シモン様と再婚約するのはもっとイヤ。ていうかそんなことになったら命の危機だ。わたしがシモン様の婚約者になったりしたら、冗談じゃなくコレット様に殺されてしまうよ。
それに、懸念がもう一つ。
「……それからグレース伯母様、今日も食堂で昼食をとってしまいました……」
うなだれるわたしに、グレース伯母様が慰めるように言った。
「気にしなくていいのよ。昼食を一緒に摂るのは、コレット様の学友として必要なことです。あなたのお父様も、当然その点はご承知ですから」
それはそうなんだろうけど、お金が飛んでいくのは変わらない。
シモン様との婚約断固拒否、魔法騎士としての鍛錬、それから金策か……。
考えることが多くて大変だ。




