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「わたしのために死んでちょうだい」と言われて殺されるモブ令嬢に転生しましたが、生き延びるため魔法騎士を目指します  作者: 倉本縞


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26.新しい時代


「シモン様、どうしてこれまで会ってくださいませんでしたの? 週末もお顔を見ることさえできませんでしたわ」

 席につくなり、コレット様が恨みがましく言ったが、

「ごちゃごちゃうるさい。忙しいって言っただろ」

 シモン様はけんもほろろに言い放った。

 ……本当にコレット様は、なんでこんなヤツを好きなんだろう。趣味を疑うよ。


「マティルド、ルブラン領はどうだった?」

 ランドール様はギスギスした空気をまったく気にせず、わたしに話しかけた。メンタルが強い。

「みな元気でしたわ。弟のブライアンの剣の腕が、だいぶ上がっていたので驚きました」

「ブライアンか。最近はなかなか会えないが、元気にしているようでよかった」

 ブライアンはランドール様にとても懐いていた。またランドール様に剣の稽古をつけてもらったら喜ぶだろうなあ。


「ランドール様、ケルテス領に戻られた時、お時間がありましたら一度、弟の剣を見ていただけませんか?」

 ちょっと図々しいかなあと思ったが、ランドール様はすぐ頷いてくれた。

「わかった。冬季休暇でケルテス領に戻ったら、折を見てルブラン家に顔を出そう」

「ありがとうございます!」

 わたしがニコニコしていると、

「ハッ。剣のスキルもない素人に、剣術を教わったところで何になるって言うんだ」

 シモン様が嘲るように言った。


 おのれ。シモン様は何かにつけてランドール様をディスるけど、前世の記憶がよみがえった今となっては、さらに腹立たしさが増す。

 あー、今ここでランドール様の本当のスキルを言えたら、どんなにスカッとするだろう。言えないけど。


 イライラしていると、四人分の食事が運ばれてきた。

 今日のおすすめメニューは、白いパン、大牙イノシシのステーキにキノコなど旬の野菜の付け合わせ、ベリーのコーディアルの水割り、イチジクの甘煮だった。大牙イノシシのステーキをのぞけば、ルブラン家ではお祝いの席でもなければ食べられないご馳走ばかりだ。

 ルブラン家でもコーディアルは作られていたけど、高価な砂糖をこんなにたっぷりとは使えない。イチジクの甘煮も同じだ。前世の記憶からすると甘すぎるけど、マティルドとしてはちょうどいい。ふだん甘味に飢えているから、この強烈な甘さが嬉しいのだ。


 喜んでコーディアルの水割りを飲んでいると、視線を感じた。

 ランドール様が目を細めてわたしを見ている。なんだろう。

「……よければ、これも食べるか?」

 ランドール様が、イチジクの甘煮の皿をすっと差し出した。

「え、でも」

「俺はあまり甘味が好きではない」


 たしかにマンガでも、ランドール様は辛党という設定だった。子どもの頃、ケルテス家を訪れた時もよくお菓子をくれたし。

 でも、いいのかなあ。

 おずおずとランドール様を見ると、じっと見つめ返された。

 子どもの頃も、もらったお菓子を食べている時、こんな風に見つめられていた気がする。


「じゃあ、代わりにお肉をどうぞ」

 大牙イノシシの肉は、ルブラン領でもよく獲れるから、いつでも食べられる。お皿を差し出すと、ランドール様はステーキを切り分け、少しだけ自分の皿に移した。食べ盛りなんだからもっと取っていいのに。


「料理を分け合うなんて、まるで平民の作法ね」

 コレット様が馬鹿にしたように言う。

 うぬう。ここはひと言、言っておかねば。

「北部では厳しい冬を乗り切るため、領主も領民も獲物を分け合い、同じ皿の料理を食べますの。王都にはない作法かもしれませんが、料理を分け合うこともありますわ」


 六年後、コレット様は北部のケルテス辺境伯家に輿入れするのだ。北部には王都とは異なる風習や文化がある。それを知っておいてもいいだろう。と、思ったのだが、

「北部の風習は、古臭く領主の威厳を損なうものばかりだ。領民と同じテーブルにつき、同じ皿から料理を食べるなんて、そんなことをやっている貴族は王都には一人もいない。僕が領主になったら、そうした時代遅れの習わしはすべて禁止してやる」

 シモン様が鼻息荒く言った。

「そもそも、領民が領主と同じテーブルにつくこと自体、間違っている。領民には、身の程をわきまえさせなきゃいけないんだ」


 そう言えばシモン様は、身分を重視しない北部特有の考え方を嫌っていたっけ。

 たしかに王都のほうが北部よりも洗練されていて、文化的にも進んでいると思う。

 しかし、北部には北部の良さがある。収穫祭や冬至祭などのイベントで、領主と領民が身分の垣根を越えて食卓を同じくし、食べ物を分け合うのは、厳しい食糧事情のためだけではない。魔獣の脅威に共に立ち向かう一体感を育てるためだ。


 王都と北部は、その成り立ちからして違っている。王都は北部と比べて魔獣の被害が少なく、有力貴族であっても北部のように大規模な騎士団を抱える家門は少ない。北部の民なら子どもの頃から魔獣と戦う術を親から叩き込まれるが、王都では魔獣と戦うどころか、その解体すら満足にできない者も多くいる。


 王都の文化がいかに優れていても、それをそのまま北部に持ち込んでうまくいくとは思えない。いたずらに領民の反発を招くだけだ。

 と思ったのだが、


「さすがシモン様ですわ」

 コレット様はうっとりした眼差しをシモン様に向けた。

「古い因習を壊し、洗練された新しい文化を領地に広めるのですね。……わたくしも、ぜひそのお手伝いをさせていただければと思いますわ」

 コレット様の言葉に、シモン様はふんと鼻を鳴らしてわたしを見た。

 なんかヤな感じ。コレット様みたいに褒めろって思ってるんだろうか。「さすがですわ! さすシモ!」とか? 絶対言わない。


 シモン様がケルテス家の跡を継いだら、北部は変わるんだろうな。新しい時代の到来ってやつか。

 ただ、新しければ何でも良いってわけじゃないと思う。

 シモン様は北部のことを考えて変革をもたらそうとしているわけではない。あくまで主体はシモン様自身で、領地や領民のためではないところが問題だ。


 早いところランドール様がケルテス家の本当の後継者だって判明しないと、北部は大混乱に陥るだろう。当然、その余波は我がルブラン家にも及ぶ。

 ランドール様のスキル覚醒のためだけではなく、ルブラン家の今後のためにも、何とかしなきゃいけない……けど、どうすればいいんだろう。


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