23.王都に戻って
翌日、王立学院の使者御一行がお帰りになった。
すごい強行軍だと思ったが、考えてみれば王宮騎士団の副団長に魔術師の塔の事務次官、それに王立学院の副学院長という、本来ならわたしなんかがお目にかかるのも難しいお三方だ。忙しい中、無理やり時間を作っていらしてくださったのだろう。そう思うと、別にこっちが頼んだわけではないが、申し訳ないような気もする。
「マティルド嬢、次の休日にはもう王都に戻っているのだろう? 王宮騎士団の皆に紹介したいから、予定を空けておいてくれないか?」
「何を言うのです。マティルド嬢は、魔術師の塔にいらっしゃると決まっています」
最後の最後まで揉めるお二人に、わたしは引きつり笑いで応えた。
「それでは次の休日は、王宮騎士団と魔術師の塔、二つを見学させていただきますね。とても楽しみです。それは皆さん、お気をつけて」
二人とも信じられないくらいの熱量で勧誘してくださっているが、今はまだ魔術師の塔と王宮騎士団、どちらに就職するのか決めかねている。
とりあえず学院一年目は魔術と剣術の授業をとり、二年目にどちらの専門課程に進むのか、あらためて考えるつもりだ。
コレット様の侍女にならなくて済みそうでちょっとほっとしているが、どうせならより自分に合った職場に就職したい。
魔術師の塔と王宮騎士団か……。あらためて考えると、すごい二択だな。ありがたい話だけど、わたしに務まるんだろうか。
いや、できるできないの話ではない。できなければ死ぬのだ。やるしかない。
王都からの使者ご一行が帰られてから、すぐにわたしも王都に戻ることになった。しかしその前に、お母様から憂鬱なお話を聞かされた。
「リヴィエール侯爵からお手紙をいただいたのですけど、マティルド、卒業まで引き続き、コレット様の学友として学院に通ってほしい、とのことでした」
「しかし、わたしは将来、コレット様の侍女にはなりません。魔術師の塔か王宮騎士団か、どちらかに就職するつもりです」
わたしはビクビクしながらお母様に反論した。
「いずれケルテス辺境伯領に一緒に行く侍女が必要なのですから、学友も同じ方に頼まれたほうがよろしいのでは」
「……あなたが将来魔術師の塔に入るかもしれない、とわかったからこそ、侯爵は引き続き、あなたにコレット様の学友を務めてほしいと望まれたのです。あなたがユニーク魔術を使ったことは、恐らくほとんどの貴族が知っているでしょう。そのあなたが学友を務めたという事実は、コレット様にとっても名誉なことと受け止められますから」
そうくるか~。たしかにわたしも自分のことでなければ、ユニーク魔術の使い手なんてすごーい、と思っただろうけど。
しかし、これで学院卒業まではコレット様と縁が切れないことが確定した。
せめて卒業後は、なんとしてもコレット様の侍女にならぬよう、全力で逃げなければ。絶対に魔術師の塔か王宮騎士団に就職するぞ!
「姉さま、もう王都に行ってしまうのですか?」
ブライアンの寂しそうな表情に後ろ髪を引かれる思いだ。
「またすぐ帰ってくるわ。年末には冬休みがあるし」
ただ、年末のルブラン領は雪がすごいんだよねえ。一応街道もあるけど、馬車で帰ってこられるくらいの積雪量なのかが問題だ。
「なに、いざとなればあのユニーク魔術で帰ってくればいいじゃないか」
お父様が明るく言う。そんな簡単に言わないでください。
それから一週間ほど馬車の旅を経て、ようやく王都に着いた。タウンハウスに到着した時は、本当にほっとした。うん、年末はユニーク魔術『逃走』でルブラン領に帰れるよう、練習しよう。一度あの便利さを知ってしまうと、馬車で何日もガタゴト揺られて移動するなんて耐えられないよ。
「マティルド、あなた本当にルブラン領にいたのね!」
グレース伯母様が目を丸くして出迎えてくれた。
「あなたがユニーク魔術を使ってルブラン領に転移した、と学院から知らせを受けた時は、まさかと思ったのだけれど。本当だったのね!」
両親と同じく、グレース伯母様も大興奮している。
「まさかルブラン家からユニーク魔術の使い手が出るなんて! なんて素晴らしいことでしょう! ……あなたが王立学院に入学すると聞いた時は、正直、あまり良いことだとは思えなかったけれど、わたしの考えが間違っていました。学院に入っていなければ、あなたの才能は埋もれたままだったでしょうからね」
自室に戻ると、伯母様が何やら書類を持ってきてくれた。
「来週中に履修登録を済ませなければならないのでしょう? それで、リヴィエール侯爵家からコレット様の時間割をわざわざ届けてくださったの。あなたは魔術などの授業を受けなければいけないけれど、それ以外はなるべくコレット様に合わせてほしいそうよ」
うわあ……。そうだった、学友は続けるから、授業もなるべく一緒に受けなきゃいけないんだ……、ううう、嫌だよう……。
コレット様の時間割は、芸術や地理、宗教学等で埋められていた。ちょっとだけ行政学と経営学、それに薬草学もあるけど、うーん……、薬草学以外、興味を惹かれる授業がない。困ったなあ。
「伯母様、コレット様に合わせると魔術や剣術の授業を受けられないのですが」
「まあマティルド、あなた剣術の授業も受けるつもりなの?」
もちろん。剣術だけではなく、馬術や体術も受けるよ!
驚く伯母様に、わたしは王宮騎士団のサヴィニー伯爵から勧誘を受けたことを伝えた。
「まあ! それは本当なの!? あのサヴィニー伯爵から直々に!?」
「ええ。……あ、でも魔術師の塔からも、事務次官のナタリー・ラクロワ様がいらっしゃいました」
「なんてこと!」
伯母様は両手で頬を押さえた。
「ああ、マティルド、素晴らしいわ! あなたを誇りに思います!」
「お母様は当初の予定どおり、コレット様の侍女になってもいいようなことをおっしゃっていましたが……」
「あら」
グレース伯母様は考え込みながら言った。
「まあ……、エリーズにとってあなたは可愛い娘ですから、魔術師や騎士になって危険な目に遭わせたくないのかもしれませんね。しかし、これほど名誉なことはありませんよ。……あなたが嫌ならしかたありませんが……」
「いいえ!」
わたしは慌てて言った。
「わたしはコレット様の侍女ではなく、将来は王宮騎士団か魔術師の塔か、どちらかに就職したいと考えています!」
グレース伯母様は満足そうに頷いた。
「それでこそルブラン家の娘です。……授業については、あなたが必要だと思うものを受けなさい。万が一、コレット様から何か言われても、気にすることなどありません。いかに侯爵家とはいえ、魔術師の塔と王宮騎士団に文句をつけることなどできませんからね」




