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勇者と魔王が入れ替わったら世界が平和になった件  作者: 遊瑕 かす
第一章 逆転の序曲
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参:魔王視点

 私は魔王、ヴェンデル・センチュリー。

 魔族を統べる魔国の王だ。


 魔族と人間は、長いこと敵対していた。

 欲深い人間共が、魔国を領地にしようと幾度となく武装して我が国に攻め入ってきた。

 その度に、我ら魔族は人間共を撃退し続けていた。


 そして今回、勇者レオンハルト率いる人間の連合軍が魔王城まで到達し、最終決戦となるであろう激闘の最中さなか、どういう訳か勇者と私の中身が入れ替わってしまった。


 入れ替わったままではどちらが勝っても困るので、急遽停戦協定を結んだはいいが、結局元に戻る術は見つからず、私は勇者の身体のまま、停戦協定締結の報告をすべく、人間の国へ向かうことになってしまった。


 勇者が魔王城に滞在した二日間、レオンハルトにはみっちり人間の国の基本を教え込まれた。

 口調と態度はくれぐれも気を付けろと言われたが、私に言わせればアイツの方が危なっかしい。


「レオン、どうかした?」


 馬に乗って進む私の顔を、隣につけた馬上から覗き込んで来たのは、エルフの弓使い、リセリア・サイノス。レオンハルトは彼女を年齢不詳と言っていたが、私の眼で見る限り齢は二百歳といったところだ。エルフとしてはまだ若い。


「いや、少し考えごとをしていただけだ」

「レオンが考えごとなんて、雨でも降るんじゃないのー?」


 茶化してきたのは、反対隣を馬で進む獣人の女戦士、名はアデリナ・ラッシュ。

 褐色の肌に赤い髪から覗くのは猫のような黒い耳。黄金の双眸に、やたらと露出の高い服を着ている。


「む、そうか……?」


 魔王としての私なら「無礼な」と切り捨てるところだが、今は勇者だ。

 当たり障りなく返したつもりだが、私の言葉を聞いた彼女は驚いたような顔をした。


「……なんか、レオン変じゃない?」

「そ、そうか? 普段通りだが……」

「なんか、あの魔王っぽい」


 妙に勘の鋭い娘だ。

 何と誤魔化そうか考えていると、彼女の後ろに乗っていた聖女マリー・ナディアが口を開いた。


「アデリナ、それはきっと、魔王の言葉遣いがうつったのでしょう。二日間、随分意気投合して話し込んでいたようですし」


 丁寧な口調で柔らかく話す、金髪碧眼のいかにも聖女という風貌の彼女は、優しく諭す。


「あー、なるほど! 魔王の言葉遣いを真似したら、自分も硬派な感じになれるって思ったってことか!」


 何だか妙な方に誤解されてしまったが、そういうことにしておけば、今後口調などで疑問を抱かれたりはしないだろう。

 そう判断して反論はしないでおく。


「……それにしても、魔王が話し合いに応じたのは意外だったわね」


 そう呟いたのはリセリアの後ろにいたフィーネ・カルディナ。

 レオンハルトの想い人である。


「ええ、思っていたよりも、ずっと紳士的だったわね」


 そう言いながら、ほう、と溜め息を吐くリセリア。


「あらー? リセリアは魔王に一目惚れでもしちゃった?」

「まさか! 思っていたよりも丁寧な人だったのが意外だっただけよ!」


 アデリナに揶揄われて、リセリアが即座に否定する。

 そこまで拒絶されると複雑な気分になるが、今はレオンハルトの姿なので何も言えない。


「まぁ、惚れたところで、魔王相手じゃ色々違い過ぎて手は届かないしねぇ」


 アデリナがのほほんと言い、会話が途切れる。

 なんだか妙な沈黙だ。


 そんなこんなで、所々フィーネの転移魔法を使い、往路ではひと月掛かったという道のりを、僅か五日で踏破した。


 出立前にフィーネが魔法で手紙を飛ばしたので、既に国王には簡単な経緯は報せられている。

 そのため王都の門を潜った瞬間、大々的な喝采が響き渡った。魔王に停戦協定を取り付け、無事に帰国した勇者を一目見ようと、王城へ続く直線の路が市民で溢れ返っていた。


「すごいわね……」


 リセリアも感嘆の声を漏らすほどの光景だ。

 

 まさか、魔王である私がこんな光景を目の当たりにするとは思わなかった。

 これは、本来なら私ではなく、レオンハルト自身が見るべき光景だったのに。


 なんだか申し訳ない気持ちになりつつも、ゆっくりと王城へ向かった。


 城門を潜り、城へ足を踏み入れた瞬間、目の前に誰かが飛び出してきて私に抱き付こうとしてきた。

 咄嗟にそれを躱して相手を見る。

 危ない。うっかり反射的に殺してしまうところだった。


 オレンジ色の髪に濃い青の瞳をした、派手な装束の女だった。

 誰だ、勇者に突然抱き付こうとしたこの礼儀知らずは。


「カサンドラ殿下!」


 私の周りにいた面々がすっと一礼する。

 その名前を聞いて、レオンハルトに聞いた王族の存在を思い出す。


 カサンドラ・イスト・ディヴェサグロ。レオンハルトが住まう国、ディヴェサグロ王国の第一王女だ。

 レオンハルトからは、彼女にはくれぐれも気を付けろと言われていた。

 カサンドラは、国の英雄と結婚したくて仕方がないらしいのだ。


「まぁ! レオンハルト様ったら、そんなに照れることございませんのに!」


 彼女はわざとらしく照れた様子で頬に手を当てて微笑む。

 人間の中ではおそらく美しい部類に入るであろうが、私に言わせればイーダの方が美しい顔をしている。


「わたくし、レオンハルト様のお帰りをお待ちしておりましたのよ! さぁ、お父様がお待ちです! 玉座までご一緒しましょう!」


 私の腕を無遠慮に掴もうとするのを、マリーとアデリナ、リセリアがさっと割って入って制する。


「失礼、私たちは先を急いでおりますので」

「レオンは私たちと一緒に行くんですっ!」

「殿下、未婚の貴方が、夜会でのエスコートでもないのに未婚の殿方と自ら腕を組もうとするのは、流石にはしたないですよ?」


 口々に言う三人に、カサンドラは忌々し気に眉を顰めた。


「わたくしにそんな生意気な口を利いて、許されると思っているのっ?」


 彼女が癇癪を起したところで、国王の側近と思しき男が案内にやってきたので、私たちは彼について玉座に向かうことにした。

 カサンドラは父である国王が待っていると聞かされ、渋々引き下がり、不満そうにしつつも私の後ろをついてきたのだった。

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