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弐:勇者視点

 俺の姿をしたヴェンデルは遠くを見つめると、少し寂しそうな顔で話し始めた。


「私は生まれた瞬間に魔王スキルが発動した。あっという間に担ぎ上げられ、魔王に君臨した……だが、魔力が強すぎるあまり、本音を話せるような仲間もできず、ずっと孤独だった……だからお前のように、本音で語り合える仲間がいるのは、とても羨ましい」

「あの側近は? 綺麗な魔族の女がいたじゃん」


 俺とヴェンデルが入れ替わった直後に粉塵を吹き飛ばした魔族の女。

 黒髪に紫の瞳、細めの二本角が印象的な、なかなかの美女だった。

 魔族は獣っぽい体の特徴を有している奴も多い中で、かなり人間っぽい姿をしていたから、余計に記憶に残っている。


「ああ、イーダか。彼女はとても優秀な側近だ。だが、彼女もまた、私に忠誠を誓うと同時に私を畏れている」

「ふぅん? あんまりそうは見えなかったけどなぁ……」


 思わず首を傾げる俺に、ヴェンデルは首を横に振った。


「その姿でいればすぐにわかる。皆、私を畏れて、ろくに目も合わそうとはしない」

「そうかぁ……それは寂しいな」


 俺はそもそも人が好きだ。だから、ヴェンデルのように崇められるだけで心を打ち明けられる人が身近にいないのは、とても悲しいことに思てしまう。


 このままだとろくでもないことを口走ってしまいそうで、俺は話題を変えることにした。


「……それにしても、この入れ替わった状態、いつまで続くんだろうなぁ……」

「まずは原因を探らねばならんが……勇者一行がずっと魔王城に滞在するという訳にもいかんな」

「そりゃそうだよ。停戦した以上、まずは国王に報告しないといけないし……」


 できれば国に帰る前には元に戻りたい。


「……誰かに話して協力を仰ぐとか?」

「正直に話したところで、こんな突拍子もない話など誰も信じまい。それに、要らぬ混乱を招くのは互いに本意ではあるまい」


 ヴェンデルの言葉に、俺は口を噤んだ。


「仕方ないか……俺たちで何とかするしかないな」

「うむ」


 意見が一致した俺たちは、とりあえず勇者一行が滞在する二日間で、元に戻る術を模索することにした。


 が、結果として俺たちの入れ替わりが解けることはなかった。


 そうこうしている間に、勇者一行は国王へ停戦協定の報告をするため、勇者の姿をしたヴェンデルが俺の仲間を引き連れて凱旋帰国することになってしまった。


 一方俺は、当然ながら魔王ヴェンデルの姿で、魔王城に留まることになってしまった。


 二日間、時間が許す限り俺とヴェンデルは自身の話をして、様々な情報をすり合わせした。

 人間の国での立ち振る舞いやマナーなんかもある程度教え込んだが、そもそも人間と魔族じゃあそもそもの常識や概念がかなり違うから、心配だ。


「……魔王様?」


 魔王城の門前で勇者一行を見送ったところで、側近のイーダが怪訝そうに俺を見てきた。


 イーダ・アバロン。ヴェンデルの話じゃ、最古参の魔王軍幹部で、魔王に次ぐ強さだとか。

 魔王に心からの忠誠を誓っており、魔王の花嫁の最有力候補とされていたが、肝心のヴェンデルは、忠誠心で結婚を受け入れるような相手とは結婚できないと言ってそれを突っぱねたそうだ。


 だが、魔王の中に入った俺の目線では、イーダはヴェンデルが大好きなんだよな。

 何て言うか、視線がさ。他の奴を見る目と明らかに違うんだ。

 色んな女から言い寄られる経験を何度もした俺がそう思うんだから間違いない。


「あ、いや……君たちも疲れただろうし、城の修繕作業は明日からにしようか」

「君たち……?」

「っ! お、お前たちも疲れただろう? 城の修繕作業は明日にしよう」


 うっかり普段の口調で話してしまい、イーダに不審そうな顔をされてしまったので、大慌てで取り繕う。


「少しばかり勇者と話し過ぎたようだ。口調がうつってしまった」


 こほんと咳払いをすると、彼女はようやく納得してくれたらしく、視線を魔王城に移した。


「そうですか……では、本日は修繕の計画を詰めることにしましょう。被害範囲は既に確認済みですので、修繕スケジュールが決まり次第資材の確保を行います」


 宴をした広間がある下の階は無事だが、玉座がある上部が、あの爆発で屋根が吹っ飛んでしまったのだ。

 本来なら大至急修繕すべきだろうが、俺自身もまだ魔王の立場に慣れていない。

 あまり焦るとぼろが出そうなので、それらしいことを言って先送りにする。


「うむ、頼んだぞ」


 魔王っぽい立ち振る舞いを意識して、俺は城内の私室に向かった。

 部屋に入り扉を閉めたところで、ほぼ無意識に溜め息を吐く。


「……っはぁ……魔王って疲れるな……」


 まぁ、それは俺がバレないように気を張っているせいなんだけど。


 いや、俺よりも、俺の姿でいるヴェンデルが妙なことをしていなければいいんだが。

 俺は密かに、ヴェンデルの無事、ひいては勇者の立場の無事を、魔王の姿のまま神に祈るのだった。

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