第42話 起死回生の一手
私生活が少し忙しく、更新遅くなりました。
第二章も佳境に入ってきました!
どうぞご覧ください!
「おい!大丈夫か!?」
今俺の目の前には、アシュタリテに胸倉を掴まれ、頭上高く持ち上げられているローザと、その足元に倒れピクリとも動かない玉藻の姿がある。
玉藻の姿をよく見ると脇腹の辺りに血痕が滲み出ており、ここに斬撃を受けたのは明白だ。
「や、ヤクモさん!玉藻さんが!」
「あん?もう来たのか……待ってろ、今すぐこいつを殺して次はお前らの番だ」
左腕で頭上高くローザを持ち上げているアシュタリテの右腕にはヴァラクが握られており、その切っ先はローザの喉元へ突き付けられている。
今まさにその切っ先をローザに突き立てようと右腕に力が込められようとした瞬間――
「〈妖尾炎〉……」
突如として足下に倒れたままの玉藻から炎が放たれアシュタリテに燃え移る。
「ぬうう!?」
アシュタリテは驚いた拍子にローザの胸倉を掴んでいた左腕を放してしまった。
すかさずガオウが飛び出しローザをキャッチする。
「貴様ぁ!」
炎を振り払ってしまったアシュタリテがヴァラクを振りかぶりローザを抱えたままのガオウを狙う。
「〈ダークアロー〉!」
振り上げられたヴァラクへピンポイントに狙いを定めた〈ダークアロー〉を放つ。
ガキィンと鈍い金属音と共にヴァラクが撃ち落とされる。
その隙をついてガオウが玉藻も抱きかかえ、こちら側に戻ってくる。
「〈魔王砲〉!!!」
すかさず、ヴァラクを撃ち落とされて戸惑うアシュタリテに向かって全力で〈魔王砲〉を放つ。
ヴァラクに気を取られていたアシュタリテはまともに喰らってしまい、派手に吹っ飛んでいく。
「大丈夫か!?」
「いやぁ……見ての通り全然大丈夫じゃないんよぉ……」
玉藻の腹部からは血がドクドクと流れ続けている。
恐らく相当深い傷が入っているんだろう。
相変わらず軽口を叩いているように見えるが、話しぶりは相当苦しそうに見える。
「ヤクモさん!玉藻さんは、私をかばって……!」
そういうことか……
こうなったら何が何でも玉藻を助けないとな。
しかし、現実問題としてどうすれば良い?
ここには回復魔法が使えるものがいない。
インヴェルノのどこかにはいるだろうが、こんな深手を負ってしまった玉藻を連れて、目の前のアシュタリテから逃れるのは不可能に近い。
……リンネがいれば。
リンネさえいれば、こんな傷は立ちどころに治してくれるだろう。
「……シオン、何か良い手はないか?」
『魔王様……一つだけ玉藻さんを救う手段はあります……しかし』
シオンが何かを言いたそうにしているが、俺はその手段に関して心当たりがあった。
「……魂の共有……か?」
『はい、玉藻さんを眷属化すれば傷も治すことができます……ただしそのための時間を稼がないと……』
魂の共有を使えばその時点で眷属化と進化が始まる。
今までの例からすると、俺と玉藻はその瞬間に意識を失うことになる。
目の前にいるのはAランクへと進化を遂げた魔人アシュタリテだ。
そんな俺たちを見逃しておくほど甘い相手ではないだろう。
しかし、それをやらなければ玉藻は助からないことだけは確かだ。
「……ガオウ」
「おう、時間を稼げば良いのか?」
ガオウは俺が言いたいことをすでに察知してくれていた。
「……頼めるか?俺は今からしばらく動けなくなる。その間の時間を稼いでほしいんだ」
「どれくらいだ?」
「恐らく5分程度……」
「それだけで良いのか?ならば……朝飯前だなぁ!!!」
「上等!!!」
ガオウの心強い返事に胸が熱くなる。
次は玉藻だ。
俺は玉藻に駆け寄り声を掛ける。
「玉藻……今からお前に眷属化のスキルを使用する。お前が助かるにはもうそれしか手段はないだろう。お前はそれを受け入れてくれるか?」
「はあ……はあ……やっぱりそうなるんかぁ……めんどくさいなぁ……」
「そんなことを言っている場合じゃないだろう!助かりたければ……いや、頼むから受け入れてくれ!俺はお前を助けたいんだ!」
「……はあ、せやなぁ……そこまで言うんやったら……考えたってもええかなぁ……」
セリフこそいつもの軽口だが、かなり息も荒くなり、話すのも辛そうになってきた。
一刻も早く魂の共有を使用しなければ、玉藻の命が危ない。
その時、少し離れた場所でドガァンッ!!!と派手な音が響き、黒雷が天に昇り、その勢いで大量の瓦礫が空に向かって舞い上げられる。
「貴様らぁ!!!いい加減大人しく殺されやがれぇ!!!!」
アシュタリテがヴァラクを振り回しながらブチ切れている。
「……よし、頼むぞガオウ!!!」
「おおう!やってやるぜぇ!!!!」
こちらを睨み付けるアシュタリテと俺たちの間にガオウが仁王立ちをする。
ここから数分、ガオウに時間稼ぎをしてもらわなければならない。
「玉藻、心の準備は良いか?」
「……はあ……はあ、いつでもええよ」
「わかった、行くぞ!魂の共有!!!」
俺は玉藻に向かって魂の共有を使用する。
『魔王ヤクモが魂の共有を使用しました。名称〈炎狐〉に対して眷属化を実行しますか?〈眷属化成功率100%〉』
「ああ、実行だ!早くしてくれ!!!」
『只今より眷属化を実行します』
俺と玉藻の体が輝きを放ち始め、魂の共有が開始された。
後は、玉藻の進化が終わるまでガオウが耐えきってくれることを祈るしかない!
「ああん!?またおかしなことを始めやがったなぁ!俺がそんなことを許すわけがないだろうがぁ!!!」
アシュタリテが羽を広げ、こちらに向けて突進を開始する。
凄まじい速度でヴァラクを振りかぶりながら突っ込んでくるが……
「させるかぁ!〈獣魔咆哮覇〉!ガアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ガオウが凄まじい咆哮と共に闘気を放出する。
アシュタリテは俺に向かって一直線に突進していたが、その側面からまともにガオウの攻撃を受けて弾き飛ばれていった。
「くそがぁぁぁ!!!!」
きりもみ上に吹っ飛ばされながらも、何とか地面に着地しすぐに体制を立て直すアシュタリテ。
怒号を吐き出すと同時にその体から真っ赤な闘気が噴出し始める。
怒りの上昇と共に〈憤怒〉が発動しているようだ。
「ふははは!!!魔王様から託されたこの5分!命を賭して守って見せようぞ!!!」
ガオウが胸の前で両拳を激しく打ち付け気合を入れる。
俺たちの命運を掛けた命がけの時間稼ぎ――
ガオウに委ねられた短いようでとてつもなく長い5分間が、今始まった。
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