第31話 玉藻の正体
「いやぁ、こんなところで魔王様と再会できるとは!世の中わからないものだなぁ!」
今、俺たちはインヴェルノの宿【狐今亭】の地下で隣同士の牢屋に入れられている。
ガオウは隣の牢屋に入れられているのが俺だとわかった瞬間、上機嫌になった。
俺と再会するまでは相当心細かったらしいが、あの豪快なイビキは俺の聞き間違いだろうか?
「転移した先で言われるがままに賭け事に興じてしまい、身ぐるみはがされ、挙句の果てにこの地下牢に入れられてしまった時はどうなることかと思ったが、まあ何とかなるもんだな!」
「ガオウって百獣の王だよね?ギャンブルとかにはまっていいのか?」
ガオウはこんな牢屋など、いつでも抜け出せるほどの強さを誇る。
しかし、ギャンブルで借金まみれになったがために、律儀にここに留まっていたんだそうな。
百獣の王のプライドってやつらしい……
じゃかましいわ!
それなら最初からギャンブルなんてするんじゃないよ!
「ま、まあ無事で良かったよ……」
「ううむ、俺の勘違いだったら申し訳ないが、さっきから魔王様のテンションが少し低いような気がするんだが……」
ああ、一応わかるのか。
何だろうか、合流できて嬉しい気持ちはもちろんあるんだがなぁ……
ギャンブルで借金まみれ状態のガオウだとは思ってなかったんだよなぁ。
「ほらほら!せっかく再会できたんだから、もっと元気出して行こうぜ!俺みたいになぁ!ガッハッハッハッハ!!!」
俺の気持ちを知ってから知らずか、豪快に笑い飛ばすガオウ。
何とかしてローザを救出する手段を考えなければならないのに、さっきからうるさすぎて考えがまとまらない。
ちょっと静かにしてもらいたいなぁ、なんてことを考えていると階段の方から足音が聞こえてきた。
どうやら誰かがこの地下牢に降りてくるようだ。
一体誰がきたんだ?俺とガロウは自然と息を潜めて様子を伺う。
地下牢に降りてきたのは、玉藻だった。
「あららー、まさか二人とも知り合いとはなぁ?ていうか、あんた今、この人のこと魔王とか呼んでなかったか?」
「……盗聴か!?」
まずい、さっきの会話を聞かれていたのか?
「まああんたらがしている手枷にちょっとした仕掛けをなぁ。うちはそういうの得意やさかいに、あんたらのここでの会話もばっちり聞かせてもろたわ」
「……そうか、でも魔王とは?一体何のことだ?」
俺が魔王であることはもちろん秘密だ。
こんな人間たちが暮らしている町のど真ん中に魔王がいるなんてわかったら、どんな騒ぎが起こるかわからない。
はっきりと聞かれてしまっているようなので、無駄かもしれないが、ひとまずわからないフリをしてみることにした。
「いやいやぁ、それは無理があるわぁ、この耳でしっかりと聞かせてもろたさかいなぁ、あんたは間違いなく、こいつに魔王って呼ばれてたで」
うぐぐ、やはりこいつは抜け目がないな。
どうしたもんかな、正直に話すわけにもいかない、かといって玉藻相手にとぼけ切るのも難しそうな気がするし……
『魔王様、恐らくですけど……この人には言ってしまっても大丈夫な気がします』
「……そうなのか?どうしてそう思うんだ?」
『いや……なんとなくというか、この人も恐らく魔物です』
「……!?そ、そうなのか?」
『巧妙に偽装していますが、さっきからわずかに魔物の気配を感じるんです、間違いなくこの地下にガオウさん以外の魔物がもう一人います、となるとこの人しかいません』
シオンに気配探知能力なんてあったのか?
〈魂封じの首飾り〉の中でもそんな感知ができるなんて、まさかシオンも何らかの能力が成長してきているのか。
それはわからないが、この場はシオンの言うことを聞いても良いような気がしてきた。
シオンの言う通り、玉藻の正体が魔物であれば、魔王である俺とは同類ということになる。
一か八か名乗ってしまっても良いのかもしれないな。
「さっきから何をブツブツ言うとるんや、さあさっさと白状しいなぁ」
「……わかった、正直に言おう、俺は……魔王だ」
「な!?ち、違うぞ!この人は魔王なんかではないぞぉ!!!」
ガオウが必死で弁解するが、時すでに遅しだ。
俺の言葉を聞いた玉藻がしばらく考え込んだ後に、ニヤリと笑う。
間違いなく何かを企んでいる時の笑顔に違いない、そう思えるほどに卑しく利己的な笑顔だったのだ。
「ほお、面白いなぁ。こんなところで魔王に会えるなんてなぁ」
「だから違うと言ってるだろうが!こんなところに魔王がいるわけないだろうがぁ!!!」
「あんたは黙っといてくれるかぁ?うちは魔王はんと話があるさかいになぁ!〈妖尾炎〉!!!」
瞬間、玉藻の目が怪しく光る。
玉藻の腰の辺りに突然大きな尻尾が出現したかと思うと、尻尾が激しく燃え始める。
玉藻がガオウへ向かって手をかざすとその炎がガオウを包み込んだ。
「うおおお!!!」
瞬時に火だるまになり牢の中を転げまわる。
「今の炎は……やっぱりお前は!?」
「ああ、うちも魔物やねん。改めてよろしくなぁ、魔王はん」
今の玉藻は尻尾の他にも頭には獣のような耳が生えている。
やはりシオンの推理は当たっていたようだ。
「おらぁ!獅子旋風掌ォォォ!!!」
炎に包まれていたガオウが体術スキルを使用し、炎を吹き飛ばす。
その勢いで地下牢の鉄格子も破壊してしまった。
「貴様ぁ!いきなり熱いではないかぁ!許さんぞこらぁ!」
「へえ?今の炎喰らってもまだピンピンしとるんやなぁ、これはちょっとあんたらの実力読み違えとるんかいな?」
怒りのままに今にも襲い掛かりそうな勢いのガオウを見て目を丸くする玉藻。
「ガオウ!気持ちはわかるが、玉藻には色々と聞きたいことがある、ちょっと我慢してくれ!」
話を聞く前に倒されてしまっては元も子もない。
ガオウは、口惜しそうにチッ!と舌打ちをして構えを解いた。
「まあ、そういうことだ、お前も魔物ならば俺たちの強さも少しはわかるだろ?」
俺はそう言いながら鉄格子を掴み力一杯左右に引っ張ると、まるで飴細工のように形を変えていく。
牢から出るのに十分な大きさの隙間が出来たので、間を潜り牢屋を出る。
「まあなぁ、あんたら相手じゃ勝てへんやろなぁ、せや一回うちのステータスでも見てみるか?」
「お前のステータスは以前〈鑑定〉を使ったが見れなかったがな」
「ああ、それはうちのスキルの一種でなぁ、〈鑑定〉を妨害することができるんや」
……やはり持ってたか。〈鑑定〉妨害スキル。
「じゃあお言葉に甘えてステータスを見せてもらおうかな、どんなもんなのか少し興味がある」
なぜ玉藻が自らのステータスを急に見せる気になったのかはわからないが、俺自身玉藻のステータスには非常に興味がある。
何故なら、さっきから玉藻に対しての一つの疑念がどうしても拭えない。
その疑念を確認するためにも、是非ステータスを〈鑑定〉させて欲しいのだ。
「わかったわぁ、それじゃぁスキルを解除して……と、よっしゃ今なら〈鑑定〉できるでぇ」
玉藻がスキルを解除した瞬間、俺はすぐに玉藻に〈鑑定〉を使用した。
名称:炎狐
ランク:C
HP : 820/820
MP : 934/934
攻撃力 : 340
防御力 : 330
魔法力 : 1272
素早さ : 410
スキル : 狐火〈Lv7〉
結界魔法〈Lv7〉
鑑定阻害
炎王の資質
眷属化成功率 : 100%
やっぱりそうだった。
思った通り、こいつも王の資質持ちの魔物だ。
この玉藻の恐ろしいまでの人間臭さ、用意周到ぶり、これら全てが並みの魔物ではないということを示している。
神から王の資質持ちのスキルを与えられたことにより、新たな力を手に入れた結果が今の玉藻ということなのだろう。
……さて、玉藻のスキルに気付いてしまったからには、どうしても聞かなければならないことがある。
俺は、真っすぐに玉藻の方を見て、他の仲間たちの時と同様に言葉を投げ掛けた。
「よし……俺たちの仲間にならないか?」
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