第29話 魔王と女狐
結局あれから俺とローザはイストの村へは入らないことにした。
あの謎の鳥居のせいで何かトラブルに巻き込まれるわけにはいかないからだ。
まあ一回柱に触れちゃった時に反応してしまったが、それはまあ仕方がない。
わざとじゃないんだから、あまり責めるのも可哀そうじゃないか。
確かこの先には歓楽街のインヴェルノがある。
『NHO』では一時期ここのカジノに入り浸っていたこともある。
ローザに聞いたところだと、次元の揺らぎを感じた場所がちょうどその辺りということらしい。
はぐれてしまった仲間の内、一体誰がインヴェルノにいるのかはわからないが一刻も早く居場所をつきとめ、合流したいと思う。
『魔王様、私カジノ行きたいです!』
あの後、やっと機嫌がなおったシオンがカジノへ行きたがっている。
「いや、お前直接出来ないじゃん」
『魔王様がやっているのを自分だと思って楽しむんですー!』
「それって楽しいのか?」
そうこうしているうちにインヴェルノへ到着する。
イストとは違い、人通りがかなり多く居心地が悪い。
ローザもあまりの人の多さに面食らってしまったようだ。
「さてと、まずやるべきことは……」
『カジノですね!ポーカー!バカラ!スロットー!!!』
「宿探しだよ、ギャンブル依存コウモリめ!」
シオンが速攻カジノに行きたがっているが、まずは宿探しだ。
これだけの人の多さだ、まともな宿を探すのも一苦労だろうし、何よりローザが疲れ切っている。
やっとの思いで到着できたイストも鳥居のせいで入れなかったのだ。
とりあえず、宿屋を片っ端から回ることにした。
……しかし、案の定どこも満室だった。
インヴェルノは歓楽街だ、そのためベルンハイム中から人が集まってくる。
当然、条件の良い宿はすぐに部屋が埋まってしまうのだろう。
参ったなぁ……
困っていると、さっき断られた宿の店主が一つだけ心当たりを教えてくれた。
インヴェルノの外れにある【狐今亭】という宿ならば、多分部屋は空いているだろうとのことだ。
ここんてい、かぁ。
何か落語家みたいな名前だなぁ……
まぁとにかく行ってみるか。
宿の店主が教えてくれた通りの道を進んでいくと、一軒の宿が見えてきた。
他の宿とは違い、純和風といった様相を呈している。
店主が【東都・カムイ】の出身か何かなのかな?
そんなことを考えながら入り口から入る。
「いらっしゃいませ、ご宿泊ですか?」
「二部屋ほどお願いしたいんですが、空いてますでしょうか?」
「はい!もちろん大丈夫です!」
……良かった。
ローザと共に安堵の表情を浮かべる。
思えば強制転移でブレンダ山へ飛ばされてから碌な場所で寝ていない。
これでやっと、ゆっくり休めるな。
俺とローザはそれぞれ別の部屋へ案内される。
案内された部屋も純和風の作りだった。
床は畳だし、ベッドではなく布団が敷いてある。
転生前は日本人だった俺的には、まあまあ嬉しかったりはする。
今日のところは二人ともゆっくり休んで、明日から仲間の捜索を始める予定だ。
ローザによると、次元の揺らぎを感じたのも間違いなくこのインヴェルノ内らしい。
そうと決まれば早めに寝て明日に備えようかな。
俺は布団の中に入るとすぐに眠りについた……
◆◆◆◆
その夜……
ヤクモが眠っている部屋の天井裏で秘かに蠢く影が一体。
この影は忍者のような黒装束を纏っている。
そう、ヤクモを始末するように雇われた暗殺者である。
彼はこの宿に宿泊した対象の暗殺をたまに請け負っており、成功率は100%だ。
失敗したことなどない。
その暗殺者が天井裏からヤクモの暗殺の機会を伺っている。
対象は深い眠りについているようだ。
この条件ならば今までの経験からいって間違いなく暗殺は遂行できるだろう。
よし、それでは天井裏から飛び降りつつ刀で一突きにしてやるか……
今まで何人もの依頼対象を葬ってきた彼の得意の殺し方だ。
彼は背中に背負った刀の柄に手を掛け、精神を集中するために深呼吸をする。
……さあ行くか。
そう決心した瞬間――
「よう、お前一体何者なんだ?」
背後から殺気に満ちた声が聞こえた。
「……な!?」
驚嘆しながら振り向こうとした彼の顔面を何者かが鷲掴みに、そのまま下に叩きつける。
天井裏にいた彼らはそのまま天井を突き破り、部屋の中へ落下する。
落下しつつも、顔面を掴んだ手は離れなかった。
鷲掴みにされたまま畳の上に敷かれた布団の上に豪快に頭を打ち付けられ失神してしまった……
「いやあ、せっかく良い部屋に泊まれたのに、ずっとこいつの気配が気になって全然寝れねえわ」
暗殺者を仕留めたのはヤクモだった。
暗殺者も決して弱くはないが、いくつもの死線を潜り抜けて成長した彼とは次元が違う。
こんな小細工で倒せるわけがないのだ。
そして、そのことは暗殺者を仕向けた張本人も十分理解している。
「……で?あんただろ?こんなことを仕組んだのは」
ヤクモは部屋の外へ向かって声を掛ける。
「はあ……嫌やわぁ。これで倒されてくれたら楽やったのになぁ」
そう言いながら和装の着物を着込んだ女性が姿を現した。
「お前は一体何なんだ?俺に何か恨みでもあるのか?」
「いいや、全然。でもうちの仕事に邪魔そうやから早めに始末しとこうかと思ってなぁ」
その女性は一見物腰柔らかに見える。
先ほどから話し続けている京都言葉の柔らかな感じも相まって、親しみやすさすら感じてしまう。
だが、俺からすればこの女性からは底知れない恐怖を感じてしまうのだ。
それが何かはわからない。
それでも決して心を許してはいけないと、警戒心が全力で警鐘を鳴らし続けている。
「ええと、お名前聞かせてもろてもええかな?」
「ふん、まずは自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないのか?」
「レディーに向かってそんな言い草かますなんて失礼なやっちゃなぁ。まあええわー、私の名前は【玉藻】。この宿のオーナーや」
謎の女性は自らの名前を【玉藻】と名乗った。
「玉藻か……俺の名前はヤクモ、冒険者だ」
「ヤクモはんやな、ええ名前やなぁ、今後ともよろしゅうに」
「ああ、よろしく頼む……それで一つだけ質問させてもらっても良いか?」
「ええよー、うちとヤクモはんの仲や、何でも聞いとくれやす」
「わかった、それじゃあ遠慮なく……」
俺はさっきから気になっていたことを質問する。
「こんなところで魔物が何をやっている?」
俺の質問を聞いた途端、玉藻が嬉しそうにニコリと微笑むのが見えた――
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