第25話 魔王と次元魔導士
打倒バルバロッサを果たすために、新たな闘志を抱いたのは良いが、まずは離れ離れになってしまった仲間たちと合流しなければ話にならない。
「さあて、どうしたもんかなぁ……どうすれば良いと思う?」
『いやぁ、ちょっとわかんないですねぇ』
シオンにダメ元で聞いてみたが、やはり駄目だった。
ゼロ回答が返ってきてしまった。
「……あの、ひょっとして散り散りになってしまったお仲間を探してるんですか?……だったら少しはお役に立てるかもしれないです」
「本当か!?」
何と、ローザに心当たりがあるらしい。
これは棚から牡丹餅、瓢箪から駒、いやなんでも良いや、とにかく有難すぎる!
「はい、私のジョブは〈次元魔導士〉と言います。このジョブの特殊スキルの一つに〈次元感知〉というものがありまして、これは転移などが使われた際に、次元の揺らぎが起こった場所がわかるというものです。転移などは全て封じられていますが、この〈次元感知〉は何とか使用可能でして……」
「じゃあローザは転移が起こった場所がわかるってことか?」
「はい、今回の大規模転移で引き起こされた次元の揺らぎで私が感知できたのは全部で五つでした。一つはあなた、三つはかなり遠いところで感知しました。そして、比較的近くでもう一つ、次元の揺らぎを感知することができたました、方角もある程度わかっています」
「それなら、そっちの方角へ向かえば……」
「お仲間と合流できる可能性は高いですね」
これで少しは光明が見えてきただろうか。
一時はこの国中を何の手掛かりも持たず、しらみつぶしに探して回らなければいけないのと、近くに一人でも仲間がいる可能性があるという手掛かりがあるのとでは、天と地ほども違う。
こんな山の中でローザに出会えたことは本当に偶然だが、その偶然がもたらした恩恵は殊更大きいと言えるだろう。
「いやぁ、本当にローザに会えて良かったよなぁ?」
『…………………』
「……シオン?」
『はい?』
「お前に言ってるんだぞ?」
『……ああ、そうだったんですか?』
「……何か怒ってる?」
『……何がですか?』
「いや、反応がちょっといつもと違うからさ」
『…………ぷいっ!』
怒っとるなぁ!
まあさすがに怒ってる理由も何となく想像はつくが……
「まあ、あれだろ、自分が全く手掛かりを掴めなかったのに、同じような能力を持つローザのおかげで手掛かりを得られそうなのが気に入らないんだろ?」
『全部わかってるんじゃないですか!』
やはりな、シオンの心の中など御見通しだ。
さすがに付き合いも長くなってきたからな。
「まあまあ、シオンには他の役割もあるし、いじけてる場合じゃないだろう」
『いや、でもねぇ、あんなポッと出てきた小娘に私の出番を減らされるなんて……』
「何かすごいこと言ってるなお前」
シオンの怒りはそのうち勝手に収まるとして、とりあえずこの山から脱出しないといけないな。
「ローザ、次元の揺らぎを感じたのはどっちの方角なんだ?」
「はい、あっちです」
ローザが指差したのはちょうど、山道を下って行った先の方角だった。
「よし、それじゃあさっさと山を抜けてしまおうか、グズグズして日が落ちても面倒だ」
そう言って空を見上げると、微かに夕焼けがかってきているようだ。
……まずいな、このままじゃ野宿だぞ。
「ローザ、急ごう、本当にこの山の中で一晩明かすことになってしまう」
「はい!わかりました」
ローザと共に、山道を下っていく。
途中でまた何度かゴブリンや山に巣食う魔物が襲撃してきたが、俺が瞬殺していった。
しかし、まだもう少し山道が続きそうなところで、残念ながら日が完全に落ちてしまい、タイムアップとなってしまった。
おっと……やっぱり野宿になってしまったか。
「ローザ、もう周囲も暗くなってしまった。これ以上は危ないからここで野宿にしよう」
こくりと頷くローザと共に野宿の準備に入る。
薪の代わりとなるように、周囲の木々を剣で切り倒し、燃やしやすい大きさにまでカットする。
そして仕上げに〈ダークフレイム〉で火を付けて焚火の完成だ。
ローザと焚火を囲むように座り込む。
食料は、山道で襲ってきた魔物を焼いて食べようかな。
ちょうど、野生のウサギのような魔物が襲ってきたので、今日はこの魔物を夕食にすることにする。
調理はローザがしてくれた。
持っていた小型のナイフで丁寧に捌き、周囲の樹木を加工して作った串に刺して焚火で焼いて食べるとかなり美味しかった。
「さて、俺が見張ってるからローザは先に休んでくれ」
「そんな、私だけ寝るなんてできませんよ」
「いや、明日も長距離を移動することになるのは間違いないからローザは体力の回復に専念して欲しい、俺は一晩くらい寝なくても十分活動できるし、その方がむしろ有難いかな」
これは偽りざらなる正直な気持ちだ。
俺とローザでは体力に歴然とした差がある。
そのため、体力が落ちているローザを伴って行動すると、著しく行動量が落ちてしまう可能性が高いのだ。
それならば、俺が寝ずの番をしている間にローザにしっかりと休息を取ってもらった方が、遥かに効率が良くなるのは間違い無いだろう。
「……わかりました。それではお言葉に甘えて先に休ませて頂きます」
「ああ、しっかり休んでくれ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
羽織っていたローブを地面に敷き、横になるローザ。
やはり相当疲れていたのだろう。
すぐに寝息を立て始めた。
「よし、寝てくれたか……」
『……魔王様、気付いてましたか?』
「……ああ、さっきからずっと付いてきているよな」
俺たちが休んでいる場所から数十メートル離れた先は闇夜で全く見えないが……
さっきから危険な気配をビシビシと感じている。
「この気配からして、この辺りの魔物のボスってところかな?」
『まあそうでしょうね、多分夜行性なんじゃないですか?」
せっかく休んでくれたローザを無駄に起こすことはない。
俺はおもむろに立ち上がると剣を抜き、気配のする方向へ向かっていく。
「さて、せっかくローザが寝てるんだ。起こすなんて野暮なことはしない。一瞬で排除してやるぞ」
相手の動向を探りながら進んでいく、そして気配の主との距離が数メートルとなった時に初めて相手の姿をはっきりと認識できた。
その魔物は巨大な植物のような姿をしていた。
大きさは5メートル程だろうか、中央の太い幹の頂点には、大きな口のような器官を付けた果実のようなものが見える。
幹の周囲には触手が音も無くうねうねと動いている。
「……こいつは、〈ゴブリンイーター〉か?」
『NHO』にも出現する魔物のボスの一体でもある〈ゴブリンイーター〉、その名の通り、ゴブリンを好んで捕食する食人植物系の魔物だ。
ゴブリンを食べるということは、もちろん人間も捕食する。
ゲーム内では山の中や、森林のエリアで出現し、音もたてずに接近し秘かに獲物を捕食するというとてもやらしい生態をしている魔物だった。
……確かにこの辺りはゴブリンもそこそこの数が生息しているみたいだし、食糧事情的には丁度良いのだろう。
〈ゴブリンイーター〉のランクは確かCとかだったはず。
現状の俺の敵ではない。
それでは、ローザが眠っている間にさっさと倒してしまおうか。
俺が放つ敵意を感じ取ったのか、〈ゴブリンイーター〉が大口を開けながら触手をウネウネと動かし始めた。
「……よし、行くぞ」
ノルマはローザを起こさずに倒すこと。
俺は心の中で確認し、〈ゴブリンイーター〉へ向かって行った。
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