第23話 転移したその先は……
ヤクモたちが神の介入によりベルンハイム王国のどこかに転移させられた直後、アランドラ周辺では、黄金の魔法陣が放った閃光が天に向かって放出され続けていた。
しかし、その周辺ではバルバロッサの放った一撃による甚大な被害が巻き起こっており、辺りにはあまりにも凄惨で残酷な光景が存在していた。
瓦礫の下から這い出てきたエレールはその光景を見て絶句する。
アランドラの城門の周囲には門番や通りすがりの一般の冒険者や商人もいた。
また、ベルンハイム騎士団に至ってはヤクモたちを捕らえるためにかなりの戦力が投入されており、人数的にも多数の騎士たちが配備されていただろう。
それらが全て巻き込まれ吹き飛ばされてしまったのである。
間違いなく死者数もかなりの数に上るだろう。
「……こ、こんなことが、あの平和なアランドラで起こって良いのか!」
せっかくスタンピードをヤクモたちの協力を得て退けられたのに……
ベルンハイムの王の手によってそれ以上の被害がもたらされてしまったことに、エレールは激しい怒りを覚えた。
「え、エレール様……これは?」
何とか生き残ったグライフも目の前の光景が信じられないようだ。
「グライフ……すぐにガルガノの本部へ連絡だ……」
エレール自体も体中に少なくない量の傷を負っており、すぐにでも治療を受けなければならないが、血にまみれた手を激しく握り込み、震える拳で地面を叩く。
「くそう!許さんぞ、バルバロッサぁ!!!この報いは必ず受けさせてやるからなぁ!!!」
この日、アランドラで起こった出来事は後に〈アランドラの惨劇〉と呼ばれることになり、死者、行方不明者数が百名を超える大惨事となった。
特に爆心地周辺にいたベルンハイム騎士団側の犠牲者が大多数となっている。
事件に関わった張本人である〈剣帝〉バルバロッサと、ヤクモたちは軒並み転移によって行方不明となっているため、真相が明らかになるのはまた後日となる。
この事件がきっかけとなり、ベルンハイム騎士団と冒険者ギルドの間での軋轢は決定的となり、泥沼の抗争を繰り広げていくことになるのだが、それもまた別の話となるのであった……
◆◆◆◆
『魔王様、魔王様ぁ!そろそろ起きてくださいよ!』
「…………うわっとぉ!どうした!?どこだここはぁ!?」
俺はシオンの声で飛び起きる。
『はあ、やっと起きてくれた。このま一生起きないかと思いましたよー』
「……ああ、そうだな。俺はどれくらい気を失っていた?」
『まあ大体半日くらいですかね?』
「そ、そんなに時間が経っているのか!?……というかここはどこだ!?」
周囲を見渡す限り、どうやらどこかの山奥のようだが……
まさか半日も眠っていたとは……
まあバルバロッサとの激闘ではかなりのダメージも負ってしまったから仕方がないか。
とりあえず、大急ぎで〈大迷宮〉に戻らなければならない。
「シオン!転送用魔法陣を頼む!急いで〈大迷宮〉へ戻るぞ!」
『いやー、それがさっきからまた転送用魔法陣が使えないんですよねぇ……さっきの妨害を受けてる時とはまた違う感じで……おかしいなぁ?』
シオンが不思議そうにしているが……
それは大問題だ。
今自分がどこにいるのかわからない以上、シオンの転送用魔法陣だけが頼りだったのに!
そうなると、自力で〈大迷宮〉を目指す必要が出てくる。
『しかし、何で使えなくなっちゃったんでしょうねぇ?あの女の子の妨害魔力は今は完全に無くなっているのになぁ……』
「何とか原因がわかれば対策も打てるのに……本当によりによってこんな時に使用不可になるんだよ!」
俺は苛立ちを隠さずに吐き捨てる。
すると、再び〈封印の首飾り〉が金色の光を放ち出した。
ただし、さっきまでの激しい光ではなく、もっと弱々しく淡い光だ。
『やあやあ、無事で何より……さっき言い忘れたんだけど、僕の魔法陣の力は物凄く強すぎてね。使用した後は、同様の魔力に関しては過剰に干渉して打ち消してしまうんだ。だからしばらくは、この国一帯で転移系の魔力は使用できないだろうから気を付けてねー』
……言いたいことだけ言うと光はすぐに消えてしまった。
「ちくしょう!それをもっと早く言えよ!!!」
やはり神の黄金の魔法陣の影響でシオンの転送用魔法陣は封じられてしまったらしい。
「はああ……となれば自力で〈大迷宮〉を目指すしかないじゃないか。かなりのタイムロスになってしまうな」
早く仲間たちと合流しなければならないのに……
気ばかりが焦ってしまう。
駄目だ、こういう時こそ冷静にならないと。
俺は一瞬目を閉じて深呼吸を行う。
これから最優先で実行しなければならないことは、仲間たちとの合流だ。
そのためには、〈大迷宮〉を目指さなければならない。
そして、今自分がいる場所はベルンハイム王国領内のどこかの山の中だ。
……よし、少しは頭が冷えてきた。
まずは、この山を脱出して現在地を確定しよう。
「シオン、出発するぞ、俺はこの山を出る」
『はい!魔王様、行きましょう!』
見る限り、かなり深い山奥に飛ばされてしまったようだ。
俺はしっかりとした足取りで木々を掻き分け進んでいく。
しばらく進むと、山道のようなところに出ることが出来た。
「よし、この調子だな、次はこの山道を下っていくか」
山道を辿って下へ向かえば、いつしか山を脱出できる。
そうすれば人に出会うチャンスもあるだろう。
そこで初めて自らの現在地もわかるというものだ。
千里の道も一歩から、仲間たちと合流するためには、地道に一歩一歩進んでいく他ないだろう。
……そこから1時間程度、山道を下っただろうか。
まだまだ人はおろか、下山の目途も立っていない。
たまに、魔物が出現したので憂さ晴らしに瞬殺させてもらったりはしたが……
「はああ、かなり歩いたが、まだまだみたいだなぁ」
『はい、ちょっと同じような景色ばかりで少し飽きてきちゃいましたねぇ』
シオンがうんざりしながら、欠伸をしているようだ。
気楽なものだよなぁ……
かくいう俺もいつまでも変化が無い景色に飽きてきたのも事実。
そろそろ何か起こらないかな?と考えていた時に、遠くから悲鳴のような声が聞こえてきた。
『魔王様!今の聞こえましたか!?』
「ああ、聞こえたぞ!確かに悲鳴だった。急ぐぞ!」
飽き飽きしてきていた現状の中、突如起こったイベントに若干テンションを上げつつ急行する。
どうやら、若い女性の悲鳴が少し離れた場所から聞こえてきているようだ。
全力でダッシュしていくと、やがて悲鳴の主が見えてきた。
悲鳴の主は何者かに追われているようだ、声を聞く限りは少女なのだろう。
追いかけている方は集団でギャアギャア騒ぎながら少女に迫っている。
……ていうかゴブリンじゃん。
醜悪なゴブリンたちに追いかけられている少女という構図だ。
少女の方は、黒っぽいローブをたなびかせ必死で逃げている。
俺は当然少女を助けるべく急加速して集団に追い付いた。
「グギャァ!?」
追い付き様にゴブリンの一匹に対して、剣を叩きこむ。
突然現れた襲撃者に、他のゴブリンたちは目を丸くして驚くが、その隙をついて一瞬で他のゴブリンたちも始末してやった。
少女は長い間ゴブリンたちから逃げ続けていたのだろう。
自分が助かったとわかった瞬間、その場にへたり込む。
息も絶え絶えで、限界ギリギリの状態で逃亡していたことがわかる。
「大丈夫か?」
俺は地面にへたり込んでいる少女を助けに向かう。
そこでローブに付いているフードがはらりと落ちて、少女の顔が露わになった。
「……え?」
その顔には見覚えがあった。
というか、つい最近、敵として遭遇した相手だ。
黒いローブを羽織り、幼さが残る顔でこちらを怯えるようにして見つめる少女は……
〈異界送り〉のローザだった。
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