第21話 狙われたリンネ
思えばリンネが〈大迷宮〉の中にいたのは、バルバロッサの命令で探索に来たからだった。
リンネは生前、ベルンハイム第三騎士団にソフィアとして所属していた。
そのリンネをベルンハイム王国領内で連れ回せば、こうなることも予測できただろう。
俺としたことが迂闊だった……
バルバロッサに指を刺されたまま震えるリンネ。
「ま、待て!一体何故だ!」
「何故だと?この小娘が第三騎士団に所属していたソフィアだということは、とうに知っている。我が騎士団の団員を連れ戻そうとすることの何が悪いのだ?」
「違う!その子はリンネだ!ソフィアなんかではない!」
「ふん、世迷言をほざくな。詳細は王都で聞く。とにかく一緒に来てもらおうか」
……くそ!
このままではリンネが連れていかれてしまう!
ここは抵抗するしかないな!
「シオン、転送用魔法陣の準備だ!」
『はい、わかりました!』
シオンにワープの準備を促す、とりあえず〈大迷宮〉まで逃げるしかない。
奴らに転送用魔法陣の存在を知られるのは正直防ぎたかったが、この状況でそんなことは言ってられない。
「ラセツ、コダマ、オボロ、ガオウは時間を稼いでくれ!頼むから無茶はするなよ!リンネは転送用魔法陣が発動次第、すぐに飛び込むんだ!」
俺は矢継ぎ早に指示を出しながら、剣を構える。
何せ相手はバルバロッサ、世界最強の剣士だ。
「ほう、やはり逆らうか、良かろう我が剣の錆びにしてくれるわぁ!」
バルバロッサの獰猛な笑みが更に深くなる。
俺たちのことは獲物程度にしか考えていないのだろう。
「シオンは出来る限り急いでくれ!恐らく長くは持たないぞ!」
『それが……さっきから準備をしているんですが、全く発動しなくて……」
「そんな!?一体どうして!?」
シオンが転送用魔法陣を発動出来ない時点で俺たちの負けは決まってしまう。
一体どういうことだ。
その時、俺は目にしてしまった。
バルバロッサの隣に陣取るローザが、何やら怪しげな魔力を発動させている。
「そ、それはまさか!?」
「ふん、やはりここから転移で逃げる算段だったようだな。残念ながらこのローザの魔力で転移自体を妨害している。逃げることはあきらめるんだな」
ちくしょう、そんなことまで出来るのかよ!
「くそぉ!コダマぁ!頼む!」
「わかったぁ!〈樹霊障壁〉!!!」
シオンの転送用魔法陣による転移が封じられた以上、何とかリンネが逃げる時間を稼ぐしかない。
悪足掻きになるかもしれないが、コダマの〈樹霊障壁〉で目の前に防壁を張る。
「よし、リンネは今すぐに逃げろ!俺たちは時間を稼ぐぞ!〈魔王剣〉〈聖魔合一〉〈魔王の盾〉!!!」
何とかこの場から逃れるべく、必死で走り出したリンネの姿を確認した後に、スキルをフルに使用し何とか一矢報いようと身構える。
「負けるかぁ!〈闘気解放〉〈鬼王剣〉!」
ラセツもスキルを使用しバルバロッサを迎え撃つべく体勢を整えた。
こちらにはオボロとガオウもいる。
いくら九大英雄だろうと、ステータス差が倍以上あろうと、そう簡単にはやられないはずだ。
……するとバルバロッサはおもむろに大剣を振り上げたかと思うと。
「愚かな……〈サウザンドブレイド〉!」
凄まじい速度で振り下ろした。
数十、いや数百を超える剣閃が物凄い速度で飛び掛かってくる。
「ぬううううん!!!!」
コダマが〈樹霊障壁〉で受け止めようとするが、剣閃の一つ一つの威力が異常過ぎる。
すぐに障壁にヒビが入り、粉々に砕け散ってしまった。
障壁を砕いても全く威力が落ちない剣閃が乱れ飛んでくる。
「うおおおおおおおお!!!!」
俺は〈魔王の盾〉と〈魔王剣〉で片っ端から剣閃を叩き落として行くが……
数が多過ぎるのと、剣閃の速度に追い付けずに徐々に捌ききれなくなっていき、体中の至る所が切り裂かれていく。
それはラセツやコダマ、オボロにガオウも同様に、体中に傷を負いながらも必死で踏ん張っていた。
いつしか、剣閃の雨は止んだが、その頃には全員が無視できない量のダメージを負ってしまっていた。
「……一瞬でこのダメージかよ、反則だろう」
やはり、このまま戦闘を行っても勝てるわけがない。
何とかリンネは逃がせたみたいなので、その点だけは安心できるが……
「ほう、今の攻撃を耐えるとはな、あながち口だけではないということか」
バルバロッサが二撃目を放つべく大剣を再び振り上げる。
……次にもう一回同じ攻撃を喰らえば間違いなくやられてしまう!
さらなる攻撃に備えるべく再び構えるが……
瞬間、目の前に先程と同じような魔力の渦が発生し始めた。
先程と同じく、魔力の中心の渦が大きくなっていき、人が通れるほどの大きさになる。
「何!?まだ何か来るのか!?」
この現象もローザの仕業だろうが、次は何が出て来るのか想像もつかない。
最大限に警戒をする。
「バルバロッサ様、お待たせしました。第一騎士団長ハーディス、ご命令の通り小娘を捕らえ、馳せ参じました」
中から出て来たのは、銀色の甲冑に身を包んだ騎士と、拘束されたリンネだった。
「……リンネ!大丈夫か!?」
「……申し訳ありません、魔王様、逃げた先に待ち伏せされていました……」
リンネは抵抗をしたがどうしようもなく捕まってしまったのだろう。
俺たち同様、体中に傷を負っているようだ。
最悪だ!
何とかリンネだけは逃がせたかと思っていたが、甘かった。
最初から誰一人逃がすつもりなど無かったんだな。
「ふん、後は貴様らを始末するだけだな。一瞬で葬ってくれるわ」
俺たちに止めを刺すべく大剣を持つ手に力を込める。
……もはやこれまでか。
さすがにここから逆転の目は見い出すことは難しい。
満身創痍の体を引きずりながらバルバロッサの方に向き合う。
「ちくしょう、悔しいなぁ……」
無意識に本心を呟いたその瞬間……
不意に俺の胸元の〈封印の首飾り〉が光り出した。
その光は徐々に強くなり、いつしか辺り一帯を照らし出す様な光を放ち始める。
「な、何だ!?」
「貴様……この期に及んで何をしようとしている」
バルバロッサも訝しげにこちらを睨みつけるが、何が起こっているのか俺にもさっぱり理解できない。
「シオン!これは一体なんだ!?何が起こってる!?」
『魔王様!私にもわかりません!ただし、この光から凄まじい力を感じます!』
シオンも何が起こっているのかわからないみたいだ。
しかし、俺はこの瞬間、この現象というかこの光に関しては似たような光を最近見たのを思い出していた。
「……まさかなぁ」
俺が考えている可能性が当たっているならば、この絶体絶命に状況に何らかの救済はあるのかもしれない。
ただし、こちらもただでは済まないだろうことは容易に想像できる。
そのため、自分たちが助かる可能性が出て来たことに対して、手放しでは喜べない自分がいるのも事実だ。
俺は一抹の不安を胸に抱きながら、その名を呟いた。
「ひょっとして、お前……神か?」
『ご明察!よくわかったね!放っておいたら間違いなく死んじゃいそうだったから仕方なく来ちゃったよ』
やはり、俺の想像は当たっていた。
神の登場により、この状況がどう転んでいくのか、誰にも全くわからなくなったことだけは間違いがないだろう。
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