第6話 帰還からの居住スペース案内
見事地下10階のフロアボスを倒した俺たちは玉座の間に戻ってきた。
「さすがに疲れたなぁ」
「…………そうですね」
「距離をとるな、距離を」
ストーンフロッグの溶解液を喰らった影響で、身体からはすごい悪臭が漂っている。
自動回復スキルのおかげでダメージは回復したが、臭いまでは取れないみたいだ。
「魔王様、やっぱり臭いです。どこか遠くへ消え去って欲しいくらいです」
「さすがにそれはひどくないすか?」
「……でも、本当に洒落にならない臭いがしてますよ、良かったら一度お風呂に入って臭いを落とされたらどうでしょうか?」
「そうだな、俺も蛙が吐いた液が掛かりっぱなしじゃ気持ち悪いしな……だけどお風呂なんてどこにあるんだ?」
「はい、こちらにありますよー!」
シオンがパタパタと飛びながら案内した先は、俺が座っていた玉座の間裏の壁面だった。
よく見ると、扉がある。
「こんな所に扉があったのか、この先に風呂があるのか?」
「はい、あの扉の向こうは、魔王様の居住区だと思って下さい、浴室以外にも食堂や寝室が完備されていますので」
そんな場所があったのか、想えば転生してから、ひたすらダンジョン探索ばかりでほとんど休憩していなかったな。玉座の裏側にこんな場所があるなんて全く気付かなかった。
シオンと共に扉を開けるとそこには大きなロビーが用意されていた。ロビーには、テーブルやソファー、シャンデリア何てものも存在している。見る限り、他にも部屋がいくつかある様だ。居住するには十分な空間と言える。
「ここが俺の住む場所になるのか?」
「はい、恐らく暮らしに必要な物は全て揃っているはずです」
一通り居住区を探検してみたが、シオンの言う通り暮らして行くためには十分過ぎる空間だった。
大きな浴室、大きな食堂、大きな寝室……どこの宮殿だ?と言いたくなるレベルだ。
仲間が増えた時のためなのか、大小様々な大きさの個室も何部屋もあった。
「俺の転生前の家より何百倍も豪華なんだけど……」
「仮にも魔王を名乗るならこれくらいの住処は用意しないとですねー」
シオンが自慢気に胸を張った。どうしてこいつがこんなに得意気なんだろう……
「とりあえずお風呂に入ろうかな、何故かお湯も張られてたし」
「はい!浴室の準備は常に完璧な状態をキープされています、原理?そんなものはわかりませんとも!」
「胸を張って言うことじゃない!」
神の力か何かか?有難いけど何か怖い気もするな。
「お風呂が終わったら食堂で何か食べられたらどうですか?」
「食事?そう言えば転生後、何も食べてないからお腹も減ったな……って何を食べたら良いんだ?食材も何もないだろう?」
「はい!食堂で食べたい物を好きなだけ食べられるシステムです、調理は専属の料理人を用意してます、え?食材はどこからかって?知りませんとも!」
「お前は何を言ってるのかわかってるのか?」
……恐らく神の力だろうが、浴室はともかく食材までこっちの思う通りになるなんて、出来過ぎてるな。
「ちょっと居住区の待遇が手厚すぎて怖いな……本当に何も知らないのか?」
「原理は本当にわからないんですけど、恐らく神様は魔王様に本業の方に専念して欲しいんだと思います。食事やお風呂の準備だとかで無駄なエネルギーを使って欲しくないんじゃないでしょうか」
そう言われるとそうだな、こんなゲームと同様の異世界を創造できる様な奴だ。こんな雑用は些細な事なんだろう。
……よし!こうなったら思いっ切り有効活用してやる!
「よっしゃ!それじゃあまずは一風呂浴びてくる!それから食堂で腹一杯食べてやる!」
そう言って、俺は浴室に向かった。俺が人生で入った風呂という風呂の中で間違いなく一番大きな大浴場だ。脱衣所で生まれたばかりの姿になった俺は、何故か用意されているタオルを手に持ち、脱衣所を出る。
そこには見たことも無い大きさの見事な浴槽があった。もう泳ぎ放題だ、泳がないけど……
とりあえず、置いてあった木桶でお湯を掬い、身体に浴びタオルで体の垢を落とす。
……準備万端だ。そうして浴槽に身を沈めると……
「ふぉぉぉぉぉ!」
思えば転生前も病気のため碌に入浴出来ていなかった、最後にまともに入浴したのがいつか全く思い出せない。
「体中に染み渡るなこれは……」
戦闘で溜まった疲労が全て抜く感覚がする。やっぱり風呂は良い物だ。
また次の探索が終わったら入りに来よう。
蛙の溶解液の悪臭も洗い流し、綺麗さっぱり癒された。
ちなみにやっぱり泳いでしまった……
「やっぱり風呂は最高だな」
風呂上りに何故か用意されていた浴衣を着こなし食堂へ向かう。ここも今まで見た事が無いくらいに大規模な大食堂だった。
何百席はあろうかという食卓の一つに着いた。
すると、食堂の奥にある調理場から誰かやって来る、あれは……ロボットか?
『魔王様、ヨウコソイラッシャイマシタ、何カオ召シ上ガリ二ナラレマスカ?』
「しゃべったぁ!?ここの料理人はロボットなのか?」
『ワタシハ、魔王様ノ食事ノ世話ヲ担当シテオリマス、ゴーレム二ナリマス、食ベタイ物ヲナンナリトオ申シ付ケ下サイマセ』
ロボットじゃなくてゴーレムだったか、まさか調理担当ゴーレムとはな、さすがにこれくらいの事ではそうそう驚かないが、本当に料理が出来るのか俄かには信じがたいが……
「食べたい物は何でも良いんだな。それじゃあ…………カレーはどうだ!」
『カシコマリマシタ、カレーデスネ、シバラクオ待チ下サイマセ』
あっさりと了承し、ゴーレムは料理場に引っ込んで行った。
待つこと20分程度でゴーレムはお盆の上に料理を載せて戻ってきた。
お盆の上には紛れもなくカレーライスが載っていた。
『オマタセシマシタ、魔王様』
「ああ、ありがとう……すごいな、神の力って」
目の前には盛り付けもビシッと決まったボリュームたっぷりのカレーライスが置かれた。
俺は感動を抱きながらカレーを一口食べてみたが……うめぇっ!何だこの味!?転生前でもこんなの食べたことねえわ!
夢中で貪っていると、どこからかシオンがパタパタと飛んできた。
「魔王様、楽しんでますねー、臭いも消えてやっと普通の感情で話せます」
「今までどんな感情を抱いてたんだよ」
シオンと話しながらカレーを平らげた。
「ご馳走様、最高だったわー」
空いたお皿はゴーレムが下げてくれる、正に至れり尽くせりである。
「あはは、それにしても美味しそうな物を食べてましたね、すごい良い匂いがしてましたよ」
「いや、あのゴーレム良い腕してるわ、シオンも何か食べたらどうだ?」
「いえいえー、私は何も食べることが出来ないんですよ、だから遠慮しときますね……」
「何も食べれないって蝙蝠なのに?何か理由があるのか?」
「あっ、いえいえーお気になさらずー」
「……怪しい」
「乙女の秘密を探るなんてデリカシーの欠片もないおぶ……魔王様ですね」
「お前まだ俺の事汚物って思ってる?」
冗談はさておき、シオンの物言いに少し引っ掛かりを覚えたが、何か事情があるのだろう位にしかその時は感じなかった。
食事も終わり、シオンに案内された寝室へ移動する。
とりあえず戦闘の疲れを取るために、一度休むことにした。これまた今まで見た事が無いくらいの巨大なベッドの真ん中で寝ることにした。
……いやいや今日は色んな事が起こり過ぎたな。何とか付いて行けてる自分をとりあえず褒めよう。
何てことを考えている内にすぐに眠りに落ちてしまった。
転生魔王の初日はこうして終わりを迎えた。
作品をご覧頂きありがとうございます。
現在、第一部終了まで書き溜めてあるので、しばらくは毎日更新を続けさせて頂きます。
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