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第18話 激震のアランドラ

 俺達は〈大迷宮〉から再びアランドラへ向かう。


 一度行ったことのある場所はシオンの転送用魔法陣(ワープポイント)で移動可能なので、一瞬で到着してしまった。

 とはいえ、街の中に直接ワープしてしまうと何らかの騒ぎとなる可能性が高い。


 そこで、アランドラから少し離れた場所にワープし、そこから歩いて向かうことにした。


 街の城門へ向かい、正々堂々と街へ入るつもりだ。


 アランドラの街の周囲には、スタンピードで倒された魔物たちの死骸で溢れていた。


 〈大迷宮〉の中とは違い、外界で倒されたモンスターは粒子化しない。


 数千体もの魔物を一掃してしまえば、当然こうなる。

 今はまだ満足に救援が行き届いてないため、放置されている状態だ。


 所々で冒険者たちが使える素材を探して魔物の死骸を漁っているのが見える。


 「いやはや、凄い光景だな……」


 街中に被害が及ばなかったのは素晴らしいことだが、街の外は凄まじいことになっている。

 この辺りも全てクリアされてこそ、本当の復興が達成されるということだろう。


 そんなことを考えながら城門へ向かうと……


 「あっ!あんたら……ヤクモさん御一行だな!待ってたよ!」


 いつぞやの門番のおじさんがこちらに気付いて走って来る。


 「あんたらアランドラを救ってくれた英雄だってなぁ!グライフさんから聞いたよ!ありがとうよ!」


 おじさんは握手を求めながらお礼を述べてくれた。

 

 どうやら、俺たちがスタンピードを率先して食い止めたということは、ある程度は知れ渡っているらしい。


 「いやいや、冒険者として当然のことをしたまでだよ、エレールやグライフは中にいるのかな?」

 「ああ、エレールさんもグライフさんも街の中にいる」

 「そうか、じゃあ街の中に入れてもらおうか」

 「いや、それがちょっと今は無理なんだ」

 「……どういうことだ?」


 門番のおじさんに街の中に入ることを拒否されてしまった。

 正体がバレたわけでもあるまいし、一体どういうことだ?


 「いや、実はエレールさんたちにあんたらここに現れたら街の中には入れずに、自分たちを呼んで欲しいと言伝をもらっていてな……ちょっと知らせてくるからここで待っててくれるか?」

 「エレールが?……なるほど、そういうことならわかった、ここで待つことにするよ」


 理由はわからいないが、俺たちを今のタイミングでアランドラに入れたくないらしい。

 あのエレールがそういうなら仕方がない、ここで門番のおじさんがエレールたちを呼んでくるのを待つ事にした。


 

 ……しばらく経つと、エレールが走ってこちらに向かってくるのが見える。

 隣にはグライフも一緒だ。


 「待ってたよ!やっと戻ってきたんだな!」

 「ああ、それより一体どうしたんだ?」

 

 エレールに訳を尋ねると、少し間を置いて神妙そうな面持ちで応え始めた。


 「まず、アランドラを救ってくれた君たちにこんな対応してしまって申し訳ない。ギルドのリージョンマスターとして謝罪する」

 「ああ、それは訳ありだろうからな、理由を聞かせてくれるか?」

 「実は、君たちがどこかへ行った後に、ベルンハイム騎士団が到着してな、街の復興なんかも手伝ってもらってるんだ」

 「良いことじゃないか、騎士団が来たならもう安心だな」

 「それはそうだが、問題が一つあってな。何故か騎士団が君たちに何らかの嫌疑を掛けてるようで、身柄を探しているらしい」

 「何だって!?」

 「何か仕出かしたのか?とにかく、そういう理由で君たちを街の中に入れるのは良くないと判断させてもらった次第だ」


 ベルンハイム騎士団が俺たちを探しているだと!?

 一体何故だ?

 心当たりは今のところ全く無いんだが……

 まさか正体がバレたのか?

 ……いやいやそれこそ有り得ない話だ。


 今ここでベルンハイム騎士団と揉めるのは得策ではない。

 かといって、捕まってしまうのはもっと良くない。

 アランドラに入ってしまい、騎士団と遭遇したら何が起こるかわからない。

 街の中へ入るのを止めてくれたエレールの判断は大英断と言えるだろう。


 「一体何故ベルンハイム騎士団が俺たちを探しているんだ?」

 「それは私たちには正直わからない、だが君たちを血眼になって探しているのは間違いない」

 

 ここまで聞いてしまえば、アランドラの街の中に入るわけにも行かないな。

 ちょっと名残惜しいが他の場所を当たるしかないか……


 「わかった、正直言って俺たちが何の嫌疑を掛けられているのかは全くわからないが、今アランドラに入るのは辞めておいた方が良いな、このまま他へ向かうとするよ」

 「ああ、私もその方が良いと思う、アランドラの恩人にこんなことしか出来なくて本当に申し訳なく思うよ」


 エレールと並んでグライフまでも頭を下げる。

 二人の表情から俺たちに対して本当に申し訳なく思っているということが伝わってくる。


 「エレールたちが悪いわけじゃないから謝らなくても良いよ、よし、そうと決まればさっさと移動してしまおうか」


  俺の言葉に仲間たちも頷く。

  そういうことなら移動は早い方が良い、どこへ向かうかは後で考えるとして、とりあえずここを離れるのが先だろう。

  踵を返して移動しようとしたその時……


 「〈ファイアアロー〉!」


 どこからともなく炎の矢が放たれ、こちらに向かってくる。


 「むう!?何者だ!?」


 コダマが盾を構えて炎の矢を防ぐ。

 方向的に〈ファイアアロー〉は城壁の方から放たれたはずだ。

 魔法が放たれた方向を見ると……


 城壁の上には騎士団の面々が装備を構えた状態でずらりと並んでいた。


 ……遅かったか。

 どうやら俺たちがここにいるのを気付かれてしまったらしい。


 騎士団たちの中央に、一際体格が大きい男性が陣取っている。

 装備も他の騎士たちより豪華に見える。

 ひょっとしてあの男性が騎士団長だろうか?

 

 「我らは誇り高きベルンハイム第二騎士団なり!私は騎士団長、ジョルジュ!〈剣帝〉バルバロッサ様の命により、貴様らを拘束させてもらおう!」

 「ば、バルバロッサだと!?」


 思い掛けない名前に一瞬戸惑ってしまう。


 騎士団長ジョルジュはその隙を見逃さず、騎士団へ号令を掛ける。


 「騎士は最速で突っ込んであいつらを捕らえろ!魔法職は遠距離攻撃で援護だ、良いか殺すなよ!……ベルンハイム第二騎士団……掛かれぇ!!!!」


 団長の号令が出た瞬間、騎士団の面々が一斉に動き始める。

 よく訓練されているのだろう、その動きには寸分の狂いも迷いも見受けられない。


 「来るぞ!構えろぉ!」


 思いも掛けない場所で始まってしまった突然の戦闘に、戸惑いながらも仲間たちと迎え撃つべく準備を命じる。



 アランドラの城門前で突如として始まった、俺たちとベルンハイム第二騎士団との戦闘は、これから風雲急を告げる出来事の、ほんの序章に過ぎなかった……

 

 

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