第6話 黒幕との邂逅
目の前の魔法陣が放っていた黒い光が益々強くなっていく。
それと同時に魔法陣の中から、何かが勢いよく飛び出してきた。
「何だぁ貴様ら!一体何者だ!ここが私の領域だと知って侵入してきたのかぁ!」
魔法陣の中から飛び出してきたのは、人間の様だった。
頭から角を生やし、背中には黒い羽がある。
俺たちを見るや否や、怒りを隠さずに怒号を発している。
雰囲気的にはどこかで見た様な……
「あ、あれは……魔王様に似ている様な……」
リンネの言葉ではっとした。
そうだ、俺だ、確かに雰囲気的には俺にかなり似ている。
羽は無いが、角の形や顔色などが酷似しているのだ。
「ということは、あいつは……」
『魔王様の……お兄さん?』
「それは違うぞ」
シオンの戯言はさておき、あいつは恐らく俺と同族の様な立場なのだろう。
「何をこそこそ影で話しておるかぁ!この私が魔人、アシュタリテと知っての狼藉かぁ!」
「……あいつ、今魔人って言ったか?」
「はい、魔王様、私にもそう聞こえました」
「魔王殿、魔人といえば魔物を束ねる魔族のエリートの様なものだ。恐らくかなり強いぞ、油断なさるな」
俺たちが内輪で話をしていると――
「だからぁ!さっきから何を内輪でごにょごにょ言っておるのだ!貴様ら私をなめておるなぁ!ただではおかんぞ!」
とうとうアシュタリテとかいう魔人は本気で怒りだし、腰につけている剣を抜いた。
「……来るか!?皆気を付けろ!」
全員に注意を促し、武器を構えた瞬間にアシュタリテがあたりを見渡し何かを思い出したようだ。
「……ん?何だ!?スケルトンエンペラーはどうした!?姿が見えんぞ!」
「ああ、それならさっき俺たちが倒したところだよ」
「な、何ぃ!仮にも私が力を与えて強化した特別な魔物だぞ?貴様ら如き下等な人間に倒せるはずがないだろうが!」
……今あいつすごいこと言ったよな。
「なるほど……Cランクのダンジョンに何故Bランクの魔物がいるのか不思議だったが、お前が強化していたのか」
「そうだ!私たち魔族はこの辺りのダンジョンの魔物を強化し一斉に人間共に対して戦争を仕掛ける計画だったのだ!順調に準備を進めていたのに……様子を見にきてみればこれだ!貴様らぁ、許さんぞ!」
なるほどな、この辺りのダンジョンの魔物が強くなったり数が増えたりしていたのは、全部こいつのせいだったみたいだ。
これで理由がわかった。
後は、この情報をエレールたちに伝えれば依頼は達成だが、その前に……
「もっと情報を教えてもらおうか?」
こいつの情報は間違いなく、俺たちにとって役に立つ。
今はこいつからできる限り情報を搾り取るのが先決だ。
「いいだろう……とでも言うと思ったか?死ねぇ!〈ダークスフィア〉!」
そこまで馬鹿じゃなかったみたいだ。
いきなり闇魔法をぶっ放してきた。
「くそ!やはりだめか!コダマぁ!」
「我輩にまかせろ!〈樹霊障壁〉!」
コダマがすかさず障壁を張り防御する。
アシュタリテが放った〈ダークスフィア〉が障壁にぶつかり大爆発を起こした。
爆発による粉塵が舞うが、さすがコダマの障壁、俺たちは全員無事だった。
「何?私の闇魔法を人間如きが防ぐだと?そんな馬鹿な!?」
アシュタリテが自分の攻撃を完璧に防御されたことに驚愕の表情を浮かべている。
「……〈幻影手裏剣〉……」
その隙に死角に回り込んだオボロがスキルを放つ。
影で作られた巨大な手裏剣がアシュタリテの背後に迫り――
「ぬおおお!いつのまにぃ!?」
ギリギリで回避された、アシュタリテの頬に一筋の傷が入り、青い血が流れ出る。
「っく!よくも私の高貴な血を流させてくれたな!我らが崇高なる魔王様から頂いたこの体を傷つけるとは!もう許さんぞぉ!!!!」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
『ええ!?』
「…………!?」
アシュタリテの言葉に俺も含めた全員が驚いた。
……今こいつ、魔王って言ったな。
俺以外にも魔王がいるってことか?
ますますこいつから情報を得る必要があるな……
「……ちょっと今の話を詳しく聞かせてもらおうか?」
俺は本気を出すことにした。
「何が詳しくだぁ?その前に貴様らは全員私が殺すに決まってるだろうがぁ!」
怒号をあげながら、剣を頭上に掲げると剣に怨念の塊のようなドス黒いオーラが収束してくる。
「くらええ!〈暗黒灰塵剣〉!〉」
アシュタリテが剣を振りかぶり突っ込んでくる。
「いいや、お前はこれから俺に情報を残さず伝えるんだ、必ずなぁ!」
俺は剣を構えスキルを発動する。
「〈聖魔合一〉〈魔王剣〉〈魔王の盾〉、さあ、かかってこいやぁ!」
万全の態勢で正面から迎え撃つ。
「おおおおお!」
「っしゃぁぁぁぁ!」
アシュタリテの剣と俺の剣がぶつかり、激しい閃光が発生する。
その直後……
「がはぁ!」
アシュタリテが吹っ飛ばされて壁に激突した。
俺の全力の一撃にはさすがの魔人といえども耐えられず、反対側の壁にまで吹き飛ばされたのだ。
「く、くそぉ……これほどまでとは……」
「さて、お前にはまだまだ聞きたいことがあるぞ」
俺は剣を腰の鞘に納めながらアシュタリテの方へ向かっていく。
これから、あらゆる手段を使ってこいつから情報を得る必要がある。
……とその時、突然アシュタリテを中心に黒い魔法陣が出現した。
「これは!? 転送用魔法陣か!?」
「おお、これは!?ザルガデウスの奴か?有難い!これで助かる!」
「待てぇ!このまま逃がすとでも思ってんのか?」
「ふん、こうなったらお前たちでもどうにもなるまい!いいか!今日のところはこのまま引き下がってやる!今度会う時は、貴様らの町を根こそぎ焼き払ってやるかな!」
「何!?どういうことだ!?」
「ははは!人間共が万を超える魔物たちに蹂躙される姿を見れるのが今から楽しみで仕方ないわ!せいぜい足掻くがよいわ、下等な人間共よぉ!」
捨て台詞を吐きながら、アシュタリテがどこかに転送されていった。
最後の捨て台詞、とてつもなく不穏なことを匂わせていたな。
「……一体どういうことだ?」
アシュタリテが最後に伝えた言葉がいつまでも俺の心に重く圧し掛かっていたのだった。
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