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第38話 シオンの秘密

 『……シオン? ……ああ、あのお供につけたコウモリか、そんな事のために貴重な最後の質問を使っても良いのかい?』

 「まあ、これだけ苦楽を共にしたら気になる事も多くなるのは当然だろう? ……あいつは一体何者なんだ?ただのお供って訳じゃあないんだろう?」

 『どうしてそう思う?僕はただの使い勝手の良い、使い魔的なポジションで用意したんだけどな』

 「……嘘をつくな。ゴブリンキングとの戦いの最後の一撃、あれは間違いなくシオンのサポートあっての一撃だった。あんな凄まじい力をただの使い魔が使役できる訳が無いだろう」


 ゴブリンキング戦で最後に放ったあの〈魔王神滅煉獄剣〉だったか……

 ゴブリンキングを跡形もなく消し去る程の威力を誇ったあの一撃……

 シオンが展開した謎の魔法陣のサポートが無ければ発動する事は間違いなく出来なかった。

 あの魔法陣から溢れ出して来た莫大なエネルギーをどこから持ってきたのか?

 神の言う通りのただの使い魔には明らかに無理な芸当なのである。


 『へー……やっぱり結構鋭いんだね。いや……申し訳ない。この情報も今は明かすつもりは無かったけど、敬意を表して教える事にするよ』

 

 俺が感じた違和感は核心を突いていた様で、観念したかの様に神が話し出した。


 『あの子は元々、この異世界に存在していたとある魔物の一種でね。人類側からしたら伝説的に恐れられる存在だったんだ。それこそ〈九大英雄〉レベルとも張り合う程のね。……だが、ある戦闘でひどく傷付いてしまって自らの存在を維持するのも困難になってしまった。そんな時に僕と出会ってね……命を助ける代わりにとある条件を出したって訳さ、その条件は……君ならわかるかな?』

 「……その条件が……お供役として俺に仕える、ということか……」

 『そういう事だね。さすが話が早くて助かる。あの子の本体は今は別の所に封印されている。今のコウモリの姿は云わば思念体ってやつだね。転送用魔法陣(ワープポイント)なんかの最低限のサポート能力やこの〈大迷宮〉の知識を与えて君のお供として仕える存在、これが君たちが〈シオン〉と呼んでいる存在の正体だよ』


 ……なるほど、今のシオンは思念体で本体は別の所にあるって事か。

 だから食事や睡眠を必要としなかった訳だ、やっと合点がいった。


 「あの接続用魔法陣(コネクトポイント)と言ったか?ゴブリンキング戦で使用した魔法陣もお前が与えた物なのか?」

 『いーや、それはそうでもないんだよね。僕はあんな能力を与えた覚えが無い……あれは恐らく彼女が自ら編み出した能力だろう。僕が与えた転送用魔法陣(ワープポイント)の能力を自らの知識で改竄してしまったんじゃないかな?』

 「な!?それじゃあ、あの魔法陣から溢れてきた力は……」

 『間違いなく彼女の本体からの力だろうね。いやあ、あの子にまだそんな事が出来るなんて本当に想定外だったよ。しかもスキルの名前が〈魔王神滅煉獄剣〉だろう?神を滅ぼす……だなんて酷いネーミングだよねぇ。僕はあの子を助けただけなのに、恨まれる筋合いは無いはずなのにねぇ』


 ねちっこく恨み言を述べる神は放っておくとして……

 シオンに関する神の情報は、衝撃的だった。

 ただのうるさいコウモリじゃないとは思っていたが、想像よりも何倍も重い存在だった。


 「シオンの本体は今はどこにあるんだ?」

 『それは教えらえれないね……まあ、一つだけ教えて上げようかな、あの子がお供の任を背負っているのはこの〈大迷宮〉に関してのみなんだ。という事はこの〈大迷宮〉をクリアすればあの子に与えた条件は達成される……』

 「そうすれば……晴れて自由の身って事か」

 『まあそうなるね、本体の封印なんかも〈大迷宮〉をクリア出来る頃ならばある程度詳細がわかってるんじゃないかな、とにかくあの子に関してもっと情報を得たいなら〈大迷宮〉を攻略する事だね』


 神の言葉を纏めると……

 シオンは元々は、この異世界で恐れられてい程の魔物だったらしい。

 何者かとの戦闘で死にかけていた所を神に拾われ、俺のお供となる事を条件に命を助けられた。

 彼女は今は思念体の状態で本体はどこかに封印されている。

 本体の在り処や封印の解き方なんかは〈大迷宮〉を攻略すればわかるって事か。


 「……わかった、色々と聞けて良かった。助かったよ、ありがとう」

 『いえいえ……君にお礼を言われるとは思わなかった。少しはお役に立てた様で僕も嬉しいよ。 ……さて、これで約束の三つの質問については答えられたと思う。後は君達に役立つアイテムに関しては、また後で手配させてもらうね。 ……今回はここまでかな。また君達と会えるのを楽しみにしているよ』


 神が約束の三つの質問に答え、満足気に場を締めくくろうとしている。

 俺も今回の話の中でたくさんの収穫もあったので、概ね満足出来ている。


 『……ああ、少し気分も良いのでサービスで教えておくね。君達がこれから探す事になる新たな資質スキル持ちの魔物だが……今の所僕がスキルを与えた魔物はこの異世界に四体存在している。居場所までは言えないが、外の世界に二体、この〈大迷宮〉の深部に二体、僕がこいつだ!と感じた魔物に与えてある。まあ、今後の参考にしてくれ……それじゃあそろそろお暇させてもらおうかな。』


 ……自分でも言っていたが、かなり気分が良かったんだろう。

 聞いてもいないのに自分から、とてつもなく有益な情報を提供してくれた。


 「ああ、今の情報は有難く参考にさせてもらう」

 『……良かったよ、それじゃあまたね、楽しかったよ』


 最後に別れを告げながら黄金に輝く光の球は独りでに消えていく。

 ……と同時に仲間達と分け隔てられていた光の壁も消滅し始めた。


 完全に光の壁が消えると同時に仲間達が一斉に駆け寄って来る。


 「魔王様!?大丈夫でしたか?変な事されませんでした!?」

 「我輩達一同、心配で心配で居ても立っても居られなかったであるぞ!」

 「我も、主があんな得体の知れない輩と一緒に隔離される等と、生きた心地がしなかった……」

 「…………」


 よっぽど俺の事が心配だったのか、それぞれの想いを述べてくる。

 オボロは無言で俺の肘の辺りを掴んでいる……心配してくれている事だけはひしひしと伝わってきた。


 「皆、心配を掛けて悪かったな。俺は大丈夫だ、別に何もされてないよ――ぐはぁっ!」


 俺が話し終わらない内にシオンが顔面目掛けて飛び込んできた。

 全力のボディアタックを喰らい、悶絶していると……


 「魔王様ぁ!!!今度こそはもう駄目だと思いましたどんだけ心配を掛けてくれてるんですかほんとにもー!!!!」


 あまりに心配し過ぎたのか、息継ぎも忘れて声を発し続けるシオンを見て、張り詰めていた気持ちが緩んでいくのを感じた。


 「本当に心配したんですからね――うわっとぉ!」


 必死でどれだけ自分が心配していたかを訴えているシオンを両手で捕まえ、そっと肩に乗せる。


 「……心配かけて悪かったな、神に色々と話してこの世界の事も見えてきた気がする、お前の事も全部ではないけど教えてもらったよ」


 俺の言葉にシオンが目を見開いて驚いている。


 「お前は俺に正体を知られたくなかったのかもしれないけど、これだけは言っておくぞ……正体を聞いたとしても、お前に対する態度や気持ちは一切変えるつもりはないからな。だから、お前もいらん事は考えるなよ。思った事があるなら何でも遠慮なく話してくれ。……俺達は、仲間なんだから」

 「魔王様……はい……ありがとうございます」


 シオンが泣きそうな顔をしながら頷く。


 「魔王様……あのね、そこまで私の事を知ってくれているなら、そろそろ言えるかな……以前にオボロさんを探し出したら何でも一つだけ言う事を聞いてくれるって話を覚えてますか?」

 「ん?あ、ああ、もちろん覚えているとも」

 「ちょっとだけ返事が怪しいですねぇ……まぁいいや。そのお願いなんですけど、ずっと自分の中で魔王様にお願いしたい事があったんです。……でも魔王様に正体を知られたら嫌われるんじゃないかと怖くて言えてなかったんですけどね……」

 「……そうか、でも俺はさっき言った様に、お前の正体が何だろうとそれだけでお前に対する態度は変えない……それは約束しておくぞ。だから、言いたい事があるんなら今ここではっきり言ってくれ!」


 未だ決心が付かずにモジモジしているシオンに、再度俺の想いを伝える。

 シオンも俺の言葉で決心が着いた様で、意を決して言葉を発した。


 「私のお願いは、私を自由にして欲しい、そして改めて私を魔王様の置いて欲しいんです!」


 それはシオンの心からの願いなのだろう。

 ずっとずっと以前から、心に抱いていたその願いは、俺の心に重く響いた。


 「……ああ、わかった。俺はお前の体の封印を解き、自由にする。そして改めて俺の仲間として迎え入れる。ここで確かに約束させてもらうよ」

 「……魔王様、良かった、本当に……良かったです!私嬉しいです!」


 満面の笑みを浮かべてパタパタと周囲を飛び回るシオンを見て、仲間達も笑顔を浮かべている。


 俺にとって、この異世界で生きる意味が一つ増えた瞬間であった。

 

やっとシオンに関して少し過去を描くことができました。

次回、一気に進化する回です。


作品をご覧頂きありがとうございます。


現在、第一部終了まで書き溜めてあるので、しばらくは毎日更新を続けさせて頂きます。

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