第35話 決戦!ゴブリン・キング②
前回から引き続き、ゴブリンキング決戦回です。
顔の上半分を吹き飛ばされ、完全に息絶えたと思われたゴブリンキングだったが……
(……ナンダ……?ナニモ……見エナクナッタ……ソレニ何モ聞コエナイ……)
目と耳、またはそれを統括する脳を丸ごと失い、ゴブリンキングは五感のほとんどを失ってしまった。
(……ダガ、ソレデモ腹ガヘル……ナンナンダ……!?……ナニカ喰ワネバ……ダガ、カラダガ……動カナイ……)
そんなゴブリンキングをスキル〈暴食〉による飢餓感が襲い続ける。
(ナゼ、コンナニ腹ガヘル?オレガ何ヲシタ?……スベテガ……ニクイ!!!)
極限の飢餓感はいつしか、深い憎しみへと変わり、ゴブリンキングの心を醜く染め上げて行く。
(……ニクイ……スベテガ……ニクイ!……ニクイゾオオオオオオオオオオオオオ!)
その憎しみがゴブリンキングに有ってはならない奇跡を起こす……
(ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ!!!)
『スキル〈暴食〉による飢餓に起因する憎悪値が規定値を越えました。個体名〈ゴブリンキング〉の進化条件到達を確認……』
神から与えられたスキル〈暴食〉には隠されたトリガーが存在した。
偶然ではあるが、そのトリガーを解除してしまった〈ゴブリンキング〉に起こり得る事は……
『これより、個体名〈ゴブリンキング〉に対する進化を実行します……』
魔王達にとっては、絶望的なアナウンスが流れた……
(ニクイニクイニクイ!!!コロスコロスコロスコロスコロス!!!!!)
突然引き起こされた進化プロセスの影響で、わずかではあるが、機能を取り戻し始めた体を使用し、最初に取った行動は……
憎悪の全てを力に変えて放つ、スキル〈咆哮〉だった……
◆◆◆◆
死んだはずのゴブリンキングに対し、わずかではあるが違和感を感じ取った俺は、すかさず仲間に注意を促したが……
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
突然引き起こされたとてつもない威力の〈咆哮〉に全てをかき消され、吹き飛ばされた。
顔の上半分を吹き飛ばされ、そこにいた誰もが息絶えたと思っていた状態での、全く無警戒の所に不意に撃ち込まれた全力の〈咆哮〉……
〈ランド・インパクト〉程の衝撃は生み出せないが、油断仕切っていた魔王達に対しては甚大な被害をもたらした。
(ぐはっ……これはやばいな……他の皆は大丈夫か……?)
辛うじて体が動く事を確認した俺は、重たい体を無理矢理起こし、周囲を見渡す。
そこには、散り散りに吹っ飛ばされ、倒れ伏している仲間達が見えた。
ラセツも、リンネも、コダマも、オボロも、死んだように倒れており、ピクリとも動かない……
無事なのはどうやら自分だけの様だ……
他の皆と比べて一瞬でも早くゴブリンキングの異変に気付く事が出来た事、偶然ではあるが位置的にコダマやラセツが俺の盾になってしまう様な形になり、直撃を避ける事が出来た事……
この二点のおかげで何とか立っていられるが、自らも大ダメージを負っており、正にギリギリの状態と言えるだろう。
(一体……何が起こったんだ?確かにあいつを倒したと思ったのに……)
状況が理解出来ずにいた俺の目に飛び込んできたのは、体から見覚えのある様な光を放ち出したゴブリンキングの姿だった。
相変わらず顔の上半分を失った状態ではあるが、いつしか淡い光を放ち出し、少しずつ輝きが強まってきているように見える。
(……あの光は……まさか……進化しているのか!?)
光を放ち続けているゴブリンキングを見て一瞬で全てを理解した俺は、全身に寒気がする程、絶望を感じた。
「……ここに来て進化だと!?……これも神の差し金か?いくら何でもやり過ぎだろう!」
ゴブリンキングの現在のランクはBだ、一段階進化する事でランクAとなってしまったら間違いなく勝ち目など微塵も無くなってしまう。
パーティーはほぼ壊滅状態で現在動けるのは自分だけだ。その状態で更に強力になったゴブリンキングと戦うなんて考えるだけで気が遠くなる。
(……くそぉ!何とか進化する前に倒すしかないのか……しかし、間に合うのか?)
頼れる仲間達が倒れ、残っているのは満身創痍の自分だけ、そんな状況で果たしてゴブリンキングに止めを差し切れるのかは、甚だ疑問が残ってしまうが……
「……だが……あきらめる訳にはいかないよなぁ!!!」
しかし、こんな所であきらめる訳にはいかない。
ここであきらめたら、今までの努力が全て無になってしまう。
異世界転生をしてまで、新たな人生を歩み始めた自分にとって、あきらめるという選択肢を取る事だけは、有り得なかった。
痛む体を無理矢理動かし、剣を取り何とかゴブリンキングに向かって行く。
そうしている間にも、ゴブリンキングの体から発せられる光は強さを増して行き、少しずつ体の傷も再生し始めている。
最早、一刻の猶予も無かった。
「……何とか〈魔王剣〉を撃てれば……」
МPにはまだ幾分かの余裕があったが、ダメージを受けて満足に動かせない体で全力の〈魔王剣〉が撃てるかと言われれば、さすがに無理があるだろう。
しかし、その無理を通さなければ勝ち目が無い、そんな絶望的な戦いにこれから身を投じなければならないのだ。
重たい足を引きずりながらゴブリンキングの下へ向かっていると……
「……魔王様ー!大丈夫ですかー!?」
……どこからか聞き覚えのある声が響いてきた。
シオンが凄まじい速さで羽根をバタつかせて向かってくるのが見える。
そのまま、俺の肩に乗り、いつにない真面目な声色で話し始めた。
「……魔王様、よく聞いて下さい。今から私がある力を発動させます。そうしたら、私の言う通りに行動して下さい。 ……そうすれば、勝てます……」
「何だと!?それは一体どういう事だ?」
「詳しい話は後です。今は、私の言う通りにして下さい!ラセツさん達を助けるにはもうそれしかありません!」
悲壮感を感じる程に声を張り上げるシオン、今の俺にはその言葉を信じるしか道は残されていなかった。
「……わかった……俺は何をすれば良い?」
シオンは一瞬、はにかむ様な微笑みを見せると、すぐに精神を集中し始め……
「接続用魔法陣発動!」
シオンが新たな魔法陣を発動させる。
転送用魔法陣の青白い光と違い、禍々しい赤黒い光を放つ魔法陣が、俺を中心に展開されていく。
「……良いですか、魔王様。これからこの魔法陣を通してとてつもない力が魔王様へ流れ込んできます。気をしっかり持って、私と意識を同調させる様に意識して下さい!」
シオンが唐突に驚くべき事を説明し始めたが、最早悩んでいる暇は無い。
やがて、魔法陣が更に禍々しい光を放ち出すと、シオンの言う通り、凄まじい力の奔流が俺の体を駆け巡り始めた。
「うおおおおお!?何だこの力は!?」
「……接続完了……後は、私の意識と同調できれば、準備は完了です!」
「同調とか……急に言われてもどうすれば!?」
「私と意識を一体化させる様にイメージして下さい!早くしないとあいつの進化が終わってしまいますので、出来るだけ急いで下さいね!」
俺は溢れ出る力の流れを感じながら肩に乗せたシオンへと意識を集中させる……
(シオンと意識を一体化させるのか……この世界に来て初めて出会ったのがシオンだったな。それからどこへ行くのにも一緒で……色んな事があったな……)
意識を同調させるために集中していたが、いつしかシオンとの様々な想い出が浮かんでくる。
玉座の間での初めての出会い……
初めての探索……
各フロアボス戦……
思えば転生以降、一番苦楽を共にしたのが、このシオンだった。
そのシオンと、一番のピンチにこうして肩を並べている……
これも……一つの縁と言えるだろう。
(……きつかったけど……まあ、楽しかったな……俺は……これからも仲間達や、シオンと……冒険をしたい!)
その瞬間、シオンの意識が自分の中に溶け込んできた様な、奇妙な感覚を覚えた。
『……繋がりました!』
シオンと意識を同調させる事に成功した瞬間だった。
頭の中にシオンの心の声が響いてくる。
「……妙な感覚だな。シオンの考えが頭に入って来る……後は、何をすれば良い?」
『えへへ、魔王様と同調出来て私は嬉しいですよ。……後は、私の言う通りに詠唱をして下さい』
「……詠唱だと?一体何をするつもりだ?」
俺の疑問に応える様に、シオンが詠唱について説明を始めた。
『詠唱とは、今魔王様に流れてきている力を制御し、スキルに昇華させるための手段です。 ……どうか、私を信じて……付いてきて下さい!』
シオンが張り詰めた声で俺に訴える……
「ああ……わかった、俺はシオンを信じて付いていく!」
頭の中でシオンが詠唱を開始する……俺は覚悟を決め、その詠唱を復唱する様に口にする。
「〈我は闇を束ねし魔王なり〉」
詠唱を開始した瞬間、魔法陣の光が更に激しく迸り始めた。
「〈我はその闇を使役し、大いなる災禍を齎らさん〉!」
魔法陣の中央より漆黒の闘気が大量に吹き上がり、フロア中に渦巻き始める。
「〈闇よ、我の下へ集え〉!」
闘気が俺の周囲に収束してくる……凄まじい密度の力量だ。
「〈闇よ、禍々しく猛り狂え〉!」
闘気は収束したまま、荒々しく輝きを増して行き……
「〈今こそ我が刃となりて、仇敵を滅ぼさん〉!」
頭上に剣を掲げ、闘気を纏わせる。
恐ろしい程に凝縮され、巨大化した漆黒の闘気剣が完成する。
「〈轟き……斬り裂け〉!!!」
標的のゴブリンキングを見ると、未だ進化の途中の様だ。
(思えば、転生後に初めて敗北したのがお前だ……短い付き合いだったが、お前の事は……忘れないよ!)
「〈魔王〉!!!」
俺は歯を食いしばり、ゴブリンキングの背丈を余裕で越え、今や天井にまで届こうかという闘気剣を思い切り振りかぶる。
「〈神滅〉!!!」
必死で集中していないと、力が暴走してしまいそうだ……
俺は最後の力を振り絞り、全力でゴブリンキングに向かって剣を振り抜きながら、スキル名をあらん限りの声で叫んだ。
「〈煉獄剣〉!!!!!いっけええええええええええええ!!!!!!」
その瞬間、振り抜かれた剣から解放される様に、一気に溢れ出した漆黒の闘気が、巨大な斬撃と化しながら、弾ける様に飛び出して行く……
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
余りに巨大な斬撃には、最早斬ったというよりは、呑み込んだという表現がぴったりだろう。
進化途中だったゴブリンキングは、正真正銘最後の断末魔を上げながら、斬撃に呑み込まれ、
……跡形も無く消滅した。
幾度となく強大な敵として立ち塞がって来た、地下50階のエリアボス、ゴブリンキングの正真正銘の最後であった。
「……はあ……はあ……やったの……か?」
消滅したゴブリンキングを確認し、そのまま後ろに倒れ込んだ。
今のスキルで全МPも使い果たし、文字通り全ての力を使い果たしてしまった様だ。
「魔王様!やりましたね!とうとうゴブリンキングを倒しましたよ!」
シオンが、喜びの声を上げながら飛び込んで来る。
「……ああ、とうとうやったな……シオンがいなければ倒せなかった……本当にありがとう」
天井を見上げながら感謝の意をシオンの捧げる。
「えへへ、やっと戦闘で魔王様のお役に立つことが出来ましたね」
シオンと喜びを嚙みしめていると……
『魔王ヤクモによるランクB以上の魔物の討伐を確認、魔王ヤクモの進化条件達成を確認しました』
『魔王ヤクモの進化条件達成により、個体名〈ラセツ〉〈リンネ〉〈コダマ〉〈オボロ〉に魂の共有による共有が適応されます。個体名〈ラセツ〉〈リンネ〉〈コダマ〉〈オボロ〉の進化条件達成を確認しました』
「……ちょっと情報量が多すぎて付いていけないって……」
唐突に流れ出した怒涛のアナウンスを仰向けに倒れ込んだまま聞くことになった。
相変わらず体が動かないが、そろそろ他の皆の様子も気になる。
何とか動き始めねば……と考え始めたその時……
『いやぁ……実に面白いものを見せてもらったよ!正直感動しちゃったなぁ!』
フロア全体に、謎の声が響き出した。
『でも、皆ボロボロだね……よし!とりあえず皆で玉座の間に戻ろうか!』
謎の声がそう言い終わった瞬間、フロア中に黄金の光が溢れ出し何も見えなくなった。
(何だこれは……?こんな事が出来るのは……まさか!?)
……気付いた時には、玉座の間に瞬間移動していた。
体も普通に動く……HPもМPも全回復している様だ。
俺は、玉座に腰かけており、目の前には皆が立っており、どうやら、皆も俺と同じ様に、全回復しているらしい。
「何だと……!?一体何が起こった……?」
俺が驚きを隠せないでいると、突然玉座の間の中央に黄金の光の球の様なものが出現した。
『やあ、ここでならゆっくり話せるかな?皆のダメージも回復しておいたよ』
「おまえは……まさか……」
『ああ、君の予想通り……僕は……神だ』
俺をこの世界へ転生させた張本人……即ち『神』との初めての邂逅だった。
長い長い戦いがやっと終わりました。後数回で第一章も終わりです。
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