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第34話 決戦!ゴブリン・キング①

 シオンの魔法陣で地下50階へ転送され、ゴブリンキングが待ち構えていると思われている最深部まで向かっている途中、シオンが口を開いた。


 「……何か変じゃないですか?」

 「どうした?」

 「いやぁ、以前来た時には地下50階にも多数のゴブリン達が徘徊してたのに、今回は全く出会わないなぁって……」

 「そう言われると確かに、前回と比べると嫌に静かだな」


 以前偵察に来た時には、この辺りにもゴブリン達が配置されていた。

 だが、今回は全くと言って良い程遭遇しないのだ、ゴブリンキングと戦うまでに戦力を温存出来てラッキーだとは思うが、その反面何かが起こっている様で不気味ではある。


 「まあ……先に進めば何が起こってるかはわかるか……」


 違和感を感じながらも、警戒をしながら先に進む事にした。


 (……どれだけ進んでも全くゴブリンの気配がしない、これはさすがに何かあったのか?)


 疑問が確信に変わりつつある……そんな時に、一際広大な場所に出た。


 周囲の壁面には松明が飾られており、辺りを照らしている。

 中央部には祭壇の様な物があり、動物の骨等で悪趣味な装飾がされている。

 その祭壇の中央にそいつはいた……


 (ここが地下50階の最深部か……こいつに会うのは久しぶりだな……)


 祭壇の中央部で胡坐をかいて座り込んでいたそいつはこちらに気付いたらしく、脇に置いてあった巨大な斧を手に取りながらゆったりと立ち上がり、こちらを睨み付けながら……


 「グロロロロォォォォ!!!!」


 凄まじい音量の咆哮を上げた。

 〈大迷宮〉地下50階のフロアボス、ゴブリンキング……

 間違いなく過去最強の敵が満を持して出現した瞬間であった。



 「やっぱりかなりのプレッシャーですね、今までの魔物達とは桁が違います」


 リンネが杖を構える。


 「だが、こちらも準備は万端、間違いなく我らの勝ちだろう」


 ラセツが大剣を抜き、力強く勝利を宣言する。


 「我輩も同感だ、奴の攻撃は全て防いでみせよう」


 コダマが盾とランスを付き合わせながら、ラセツの言葉に同意する。


 「……俺に任せておけ……」


 オボロが静かに……だが力強い言葉を放つ。

 四天王達は、ゴブリンキングのプレッシャーに全く負けていない、本当に心強い仲間達だと実感していたその時……

 

 「……喰ワセロ……」


 唐突におぞましい言葉が聞こえてきた。


 「……何だと?」


 聞き間違いじゃなければ今の言葉はゴブリンキングが発したものだ。


 「……喰ワセロ、喰ワセロ……喰ワセロォォォォォ!!!」


 ゴブリンキングが凄まじい音量で怨念の様な言葉を吐き出した。


 「まさか!?あいつ話せたのか?シオン、どういう事だ!?」

 「私にもわかりません!前回遭遇した時は、間違いなく言葉なんて発してなかったのに!」

 「どういう事だ……?」


 ……ふと一つの可能性が頭をよぎった。


 「まさか……そんな、まさか」


 今までの経験上、今頭に浮かんでいる可能性が一番現実的だが、考えられる中で最悪の可能性と言える。

 答えをはっきりさせるために、なすべき事は一つだ。


 「間違いであってくれよ……〈鑑定〉」


 ゴブリンキングに〈鑑定〉を使用した。


 名称:ゴブリンキング

 ランク : B

 HP  : 3348/3348

 MP  : 2320/2320

 攻撃力 : 3483

 防御力 : 2456

 魔法力 : 998

 素早さ : 2428

 スキル : 咆哮

       斧術〈Lv8〉

       HP自動回復〈Lv8〉

       暴食


 暴食 : あらゆる物を食べることにより、自らの能力を上昇させる。このスキルを獲得した者は常に飢餓状態となり、永遠に腹が満たされる事は無い。


 (……やはり、予想が当たってしまった……最悪だ!)


 ステータスが軒並み跳ね上がっている。

 また、前回に無かった〈暴食〉というスキルが追加されている。

 恐らく、この〈暴食〉スキルのために飢餓状態となったゴブリンキングが周囲のゴブリンを残らず食べてしまったのだろう。

 このフロアからゴブリン達が一匹残らず消えてしまった事もそれが原因に違いない。

 ゴブリンキングのステータスが上昇しているのは、その食事の結果なのだろう。


 

 ……これが何を意味するか……魔王ヤクモにはすぐに理解出来てしまった……


 「上方修正されてやがる……」


 『NHО』でも何度か経験し、その度に辛酸を味わされた「上方アップデート」、通常は調整のミス等で想定よりも弱くなってしまった魔物を正しい難易度に導くために適用されるのだが……


 「それだけはやっちゃだめだろうが!」


 今回は、完全に神の気紛れだろう。

 大方、俺達の成長が予想より上手く行き過ぎたがために、調整を入れたのだろう。


 ……俺達をより苦しめるためだけに……


 「あわわわ、魔王様!どうするんですか!?ただでさえ強力なゴブリンキングが……より強化されてしまったなんて!」

 

 シオンが慌てふためいてパタパタと周囲を飛び回る。


 「ちくしょう……これがお前のやり方かよ……俺は完全に…………頭に来たぞ!!!」


 さすがの俺も堪忍袋の緒が切れた。


 「あーもう、マジでむかついた!見てろ神よ!お前の目論見なんて余裕で越えてやるからな……この糞運営が!」


 神をこの世界の運営とするならば、自分の気紛れでころころ難易度をいじってしまったら間違いなく運営失格だ。

 運営はあくまで中立公正であるべきだ、少なくとも『NHО』の運営は間違いなくその辺りを理解出来ていた。


 (お前、この世界は『NHО』を参考にしたって言ってたよな……)


 転生前に自らの時間の大半を費やす程にハマった神ゲー『NINE (ナイン) HEROES(ヒーローズ) ОNLINE(オンライン)』、そのゲームを再現したこの世界だからこそ、俺にも譲れないものがあり、許せないことがある。

 

 (俺が愛した神ゲーに……そんな運営がいてたまるかよ……)


 「侮辱するのも……いい加減にしろぉぉぉ!!!!」


 かつてないほどの怒りを見せた魔王に他の全員が戦慄を覚える。


 「皆、行くぞ!想定とは違うかもしれないが、問題無い!目に者見せてやるぞ!」

 「「「「おおう!」」」


 ラセツ、コダマ、リンネが俺の檄に呼応する。

 オボロは既にゴブリンキングの死角へと移動している。


 「ガアアアア!オマエタチヲ喰ワセロォォオォォ!!!!」


 ゴブリンキングが斧を振りかぶりながらこちらへ突進を始めた。


 「来たぞ!コダマは何とか攻撃を防いでくれ!その隙に俺とラセツは左右から攻撃!リンネはフォローを頼む!いつも通りやれば必ず勝てる!やるぞ皆ぁ!!!」

 「任せよ!〈ハイ・プロテクト〉〈エリア・ガード〉〈樹霊障壁〉!!」


 コダマが〈守護魔法〉と〈樹霊障壁〉を同時に使用し、防御力を大幅に上昇させる。


 「ゴアアアアア!!!」


 ゴブリンキングがそこへ闘気を纏った斧を叩きつけてきた。


 「負けるかぁぁぁ!!!」


 ゴブリンキングの斧スキル〈ハード・アックス〉とコダマの〈樹霊障壁〉が激しく衝突する。

 

 ……すると〈樹霊障壁〉にわずかではあるが、ひびが入りコダマが片膝を付いてしまった。


 「ぬぐぅ!さすがに無傷とはいかんか! ……しかし止めたぞ!今の内に攻撃を!」

 「まかせろ!リンネはコダマを回復してくれ、行くぞラセツ! 〈ダークエナジー〉〈聖魔合一〉〈魔王剣〉!」

 「承知した主よ! 〈ソードエナジー〉!!〈鬼王剣〉!!」


 俺とラセツが通常スキルと必殺スキルを同時に使用する。

 この一週間のレベル上げの間に覚えたスキルも総動員し、自らの攻撃力を最大限まで高めた上で必殺スキルを放つ。

 初手から全力で攻撃するという強い意志の表れだ。


 〈ハード・アックス〉での一撃をコダマに防がれ、一瞬ではあるが隙を作ってしまったゴブリンキングの懐に飛び込み、2人同時に斬撃を放つ。

 俺は縦一文字に、ラセツは横薙ぎに、2人の斬撃が十字を描き、ゴブリンキングの胸元で交わる。


 「グロロォォォォォ!!!」


 同時に放たれた必殺剣をまともに受けてさすがにダメージを受けたのか、後ろによろめき動きが鈍くなる。


 「……〈幻影操術〉……」


 すかさず、死角に回り込んでいたオボロが〈幻影操術〉を発動する。

 影を自在に操る事が出来るオボロの必殺スキルだ。

 周囲の影が幾重にも別れながらゴブリンキングに向かって行き、体中に纏わりいていく。

 影の力で動きを拘束するのが狙いだ。


 「良いぞ!〈魔影鎖縛〉!」


 すかさず、動きを完全に拘束してしまうために漆黒の鎖を放つ。

 オボロの影と俺の鎖で雁字搦めにされたゴブリンキングは完全に動けなくなってしまった様だ。


 「恐らく、長くは持たない!今の内に追撃だ!」

 「オオオオオオ!!!」


 ラセツが鬼王剣の効果を保ったまま、更にゴブリンキングに斬りかかる。

 1撃、2撃と動く事が出来ないゴブリンキングに連撃を入れ続けている。


 「俺達も行くぞオボロォ!」

 「……〈火遁の術〉、〈雷迅の術〉、〈土遁の術〉……」


 ラセツから斬撃を受け続けているゴブリンキングの背後からオボロが連続で忍術を放つ。

 炎がうねり、雷が走り、地面が隆起しながらゴブリンキングへ襲い掛かった。


 「グウウウウウ! ……イタイ、イタイゾォォォォ! コロシテヤルゥゥゥ!!!」


 体を拘束されている状態で前後から好き勝手に攻撃されているゴブリンキングの口からは激しい怨嗟の声が響いている。


 「うるせえよ…… 〈ダークスフィア〉」


 俺は新たに習得した〈闇魔法〉を発動した。

 両手を上に上げ、意識を集中すると闇の魔力が集まりだし、収束し始めた。

 いつしか凄まじい量の闇の魔力が濃密に圧縮され、直径1メートル程の球体を作り出した。

 その様子を見てラセツとオボロが素早くゴブリンキングの近くから離脱する。


 「いっけぇぇぇ!」


 その状態で両手を前に向けた瞬間、漆黒の球体が凄まじい勢いで飛び出して行き、ゴブリンキングの顔面と捉え、大爆発を引き起こした。

 〈闇魔法〉のスキルレベル8で習得可能な〈ダークスフィア〉は、発動に時間は掛かるが、他の〈闇魔法〉とは一線を画す威力を誇る。

 その〈ダークスフィア〉を無防備な状態でまともに受けたゴブリンキングもさすがにただでは済まないだろう。


 「はあ……はあ……どうだ、やったか?」


 爆発による土煙で様子は見えないが、手ごたえは十分だ。

 倒せないまでにしても相当の深手は負わせたはずたが……


 「…………ロス……」


 土煙の向こうから、聞き覚えのあるおぞましい言葉が聞こえた瞬間……


 「コロスコロスコロスコロス!!! キサマラゼンイン喰イコロシテヤルゥゥゥ!!!!」


 今までで一番の怨嗟の声と共に巨体が土煙の中からこちらに向かって飛び出してきた。


 「しまった!皆回避しろぉぉぉ!」


 不意を突かれた俺達は当然、対応仕切れていない。

 その中でゴブリンキングが狙ってきたのは……俺だった。

 物凄い速度で斧を振りかぶりながらこちらに突っ込んで来る。


 「くそぉ、〈魔王の盾〉!」


 咄嗟に〈魔王の盾〉を発動するが、反応が遅れてしまい、防御しきれるか微妙なタイミングだ。


 「主!受けるな!避けろぉ!」

 「間に合えぇ!〈ハイ・プロテクト〉!」

 「…………!!!」


 ラセツ、コダマ、オボロがこちらに飛び込んで来る。

 コダマは〈守護魔法〉を俺に向かって飛ばしたが、恐らくタイミング的に間に合わないだろう。

 〈魔王の盾〉で防ぎきれるか、一か八かだが、やるしかないだろう。


 ……そう覚悟を決めた瞬間、ゴブリンキングの斧が目の前の地面を捉えた。

 凄まじい轟音と共に周囲の地面一帯が爆ぜ、俺達は吹き飛ばされる。

 〈斧術〉のスキルレベル8で習得可能な〈ランド・インパクト〉だ。

 強力な斧の一撃で地面を砕き、周囲一帯に大ダメージを与える恐ろしいスキルである。


 俺達は、まともにそのスキルを受けてしまい、全員が吹き飛ばされてしまった。

 後方に待機していたリンネでさえも衝撃に耐えられずに吹き飛ばされている。


 不幸中の幸いか、〈魔王の盾〉を構えていたため、直撃は免れたが、かなりの距離を吹き飛ばされ、少なくないダメージを負ってしまった。


 (……くそっ!……他の皆は大丈夫か?)


 素早く体勢を立て直しながら、仲間達の無事を確認しようと辺りを見渡すと……

 向かって右の壁際にラセツが倒れこんでいる。どうやら壁面に叩きつけられたらしく、まだ起き上がれていないが、わずかに動いているのが確認出来る。


 コダマは俺の後方で片膝を付いており、その更に後方ではリンネが何とか起き上がる所だった。

 3人共、何とか無事の様だ。


 ……後はオボロだが……姿が見えない。


 「……オボロはどこだ!?」


 皆が一斉に辺りを見渡し、必死で探すが周囲には見当たらない。

 いつしか、〈ランド・インパクト〉により引き起こされた土煙が晴れていき、爆心地にいたゴブリンキングの姿が露わになった。

 ……その巨大な左手に胴体を掴まれたオボロと共に……


 「まずい!リンネ、皆に回復魔法を!ラセツ、コダマは俺とオボロを助けに行くぞ!」

 「わかりました!〈エリアハイヒール〉!」


 すかさず、リンネの〈エリアハイヒール〉が発動される。

 〈回復魔法〉スキルレベル8で習得可能な、辺り一帯の味方のHPを大幅に回復出来る、非常に強力な回復魔法だ。

 俺達はもちろん、ゴブリンキングに掴まっているオボロに至るまで、先程の〈ランド・インパクト〉によるダメージが回復されていく。


 「〈ダークアロー〉!」

 「〈鎌鼬〉!」


 俺とラセツが遠距離攻撃で何とかゴブリンキングの気を引こうとするが、そんな事はお構いなしに大口を開けながら、左手のオボロを口元に運び込んでいく。


 「あいつ!オボロを食おうとしてやがる!」


 ……そんな事が許されてたまるか、3人共に、ゴブリンキングの下へ全力で向かって行く。


 ……しかし、焦る俺達を無視し、ゴブリンキングは大口を開けたまま、左腕を口の中に突っ込み、オボロを食べようとして……


 「〈忍法・爆炎陣〉!」


 口の中で大爆発を起こした。

 スキルレベル8で習得可能な〈忍法・爆炎陣〉、自分を中心に周囲に大爆発を起こす強力な術だ。

 さすがのゴブリンキングの口中で爆発を起こされたら堪った物ではない、思わず尻もちを付きながら天を見上げて悶絶している。

 ……その隙に口の中からオボロが飛び出してきた、どうやら無事の様だ。


 「あいつ、静かだと思ったら爆炎陣を発動するために集中してたのか!」

 「さすがだな、オボロ殿!我輩は信じておったぞ!」

 「後は任せろ、〈魔王剣〉!」


 俺はすかさず必殺スキルを発動しながら、ラセツ、コダマと共に動きが止まっているゴブリンキングへ突っ込んでいく。


 未だに天を仰いで無防備状態でしゃがみ込んでいるゴブリンキングへ向かって飛び込みつつ、顔面目掛けて〈魔王剣〉を放った瞬間……


 放心状態だったゴブリンキングの目が突然見開き、素早い動きで攻撃を避けようとした。

 ギリギリの所で頭部への直撃は避けたが、片方の角に直撃し、激しい音を立てながら砕け散った。


 「グルルルゥゥゥ!?」


 ゴブリンキングは正気に戻ったばかりで、少し混乱していた様だが、自らの片角を砕かれたショックで完全に目を覚ました様だ。


 「キサマラ……ユルサンゾォォォォ!!!」


 俺と共に追撃に加わったラセツとコダマに向かって、凄まじい速度で斧を横薙ぎに振り抜いた。

 あまりの速さにラセツとコダマは避けきれずに攻撃を受けてしまう。


 「ぬおおお!何という馬鹿力だ!」


 コダマが斧の直撃だけは何とか盾で防いだが、衝撃は抑えきれずにそのまま壁面へ向かってラセツごと吹き飛ばされてしまった。

 激しい衝突音と共に壁に叩きつけられた2人は、大ダメージを受けた様で、地面に伏して起き上がれない様だ。


 「大丈夫か!?リンネは回復を頼む、俺とオボロは時間を稼ぐぞ!」

 「……承知……〈分身の術〉」


 オボロが〈分身の術〉を使い、2人に分身し、両手に刃を装着しながらゴブリンキングに向かって行く。


 「……コノ鬱陶シイ、ハエがァァァ!!!」


 ゴブリンキングがオボロへ目掛けて斧を叩きつけるが、素早い動きで斧の一撃を避け、背後に回り込んだ様だ。

 そのまま死角から2人に分身したまま縦横無尽に斬り付け始めた。

 2つの影がゴブリンキングの周りを飛び回り、あらゆる箇所を斬り付けては離れ、完全に翻弄している。


 「イイカゲンニ……シロォォォォ!!!」


 たまらず斧を地面に叩きつけ、周囲一帯を吹き飛ばした。

 今日2回目の〈ランド・インパクト〉だ。

 オボロは何とか直撃を避け、天井に張り付いて避難したが、分身は衝撃で吹き飛んでしまっている。


 その様子を満足気に見たゴブリンキングが斧を再び持ち上げようとした瞬間、目の前に漆黒の球体が飛んで来た。

 〈ランド・インパクト〉による硬直を狙って放った俺の〈ダークスフィア〉が、再びゴブリンキングの顔面を捉え大爆発を引き起こした。

 

 たまらず仰向けに倒れこむゴブリンキング、俺は更に追撃を狙い〈魔王剣〉を発動する。


 「そろそろくたばっても罰は当たらないぞ! 〈魔王剣〉!!」


 仰向けに倒れこんでいるゴブリンキング目掛けて突っ込んで行くが……


 突然、ゴブリンキングが凄まじい速さで体を反転させながら飛び上がり、低い姿勢でこちらに向きを変え、そのままの勢いで大口を開けて突っ込んできた。


 「ウガアアアアアア!!!喰ワセロォォォォ!!!」


 巨大な口を全開まで開けた状態で、こちらに向けて突進してくる。

 ゴブリンキングの膨大な質量と全体重を乗せた攻撃に、一瞬怯みそうになったが……


 「喰われて……たまるかぁぁぁぁ!!!!」


 ……ここで引いてしまっては絶対に勝てない……俺は覚悟を決めて全力の〈魔王剣〉で迎撃する事にした。


 「……だりゃああああああああああ!!!!」

 「……ゴアアアアアアアアアアアア!!!!」


 ゴブリンキングの巨大な牙と俺の〈魔王剣〉が激突し、激しい火花を散らし、恐ろしい衝突音を鳴らした直後……


 俺は激しい衝突の勢いのまま吹き飛ばされ、反対側の壁面に叩きつけられた。


 「……ぐはぁ!……ちくしょう、さすがに無理があったか……」


 ゴブリンキングは激突した場所から一歩も動いていない。

 ゆっくりと立ち上がったゴブリンキングの姿を見ると……


 顔の左半分が抉れている……〈魔王剣〉と激突した牙はもちろん、目も耳も原型を留めていない程、潰れていた。


 「……グウウウウ……ユルサン……ユルサンゾ……」


 ゴブリンキングはそんな状態でも口から怨嗟の言葉を吐き出し続けている。


 「魔王様、大丈夫ですか!?〈エクストラヒール〉!」


 リンネが駆け寄ってきて回復魔法を使用し、HPを回復してくれた。


 ラセツやコダマも回復済みの様だ。

 オボロも含めてこちらに駆け寄ってきて態勢を立て直す。


 ゴブリンキングもまた落ちていた斧を拾い、こちらに向かって構えながら濃密な殺意を向けている。

 その姿は、もうボロボロだ。

 片方の角は砕け、顔の左半分は完全に潰れている。

 体もそこら中に傷がついており、正に満身創痍と言えるだろう。

 スキル〈HP自動回復〉の効果により、少しずつ傷が回復している様だが、ここまでダメージを受けてしまえば、完全には治し切れない、正に焼け石に水である。


 「終わりは近い!皆行くぞぉ!」

 

 俺の号令と共に皆が一斉にゴブリンキングへ向かって行く。

 終わりが見えてきたからか、皆の動きが心なしか軽やかだ。


 「どっせぇい!!」


 コダマがランスを構え、正面から突っ込んでいく。


 「……〈分身の術〉……」


 コダマ一人に攻撃が集中しない様にオボロが分身の術を使用し、左右からゴブリンキングのかく乱に回る。


 「……イイカゲン……キサマラヲ喰ワセロォォォォ!!!!」


 ゴブリンキングが全力で斧を薙ぎ払いにかかる。


 「もう……そんな攻撃は慣れてしまったわぁ!」


 コダマが斧の薙ぎ払いを盾で受け止める。

 かなりの衝撃だが、ずっしりと重心を下げた状態で盾を構え、完全に受け止めてしまった。


 「やるなぁ……!〈螺旋撃〉!!」


 ラセツがその隙を突き、側面から回り込み、剣を螺旋状に回転させながら刺突を見舞う〈剣術〉スキルを使用する。

 錐揉み状に回転した大剣を脇腹に喰らい、夥しい量の出血を引き起こす。

 ゴブリンキングがたまらず斧を持っていない方の手でラセツに掴みかかるが、その瞬間、オボロが背後から襲い掛かる。


 「……〈魔影操術・槍の型〉……」


 オボロがそう唱えると、周囲の影が集まり、幾つもの影の槍となりゴブリンキングの背中に突き刺さった。


 「……隙ありぃ!」


 コダマが更に追い打ちを掛ける。

 背後からの不意打ちに動きが止まったゴブリンキングの右目へランスを突き刺した。


 「グギャァァァァ!!!」


 元々潰れている左目に加えて右目まで潰されては堪らない。

 そこへ俺が最後の追撃を仕掛ける。


 「……これで止めだ……〈魔王剣〉!!!」


 俺の全力の〈魔王剣〉がゴブリンキングの顔面を捉え、鼻から上を吹き飛ばした。

 

 (……やったぞ!勝った!!!)


 顔の上半分を吹き飛ばされ、膝から崩れ落ちて行くゴブリンキングを見ながら勝利を確信する。


 「やったな!主よ、とうとうゴブリンキングを倒したぞ!」

 

 「ああ、我輩は感無量であるぞ!」

 

 「やりましたね!魔王様!」


 「…………!」


 皆が喜びの言葉を発する、オボロは無言で小さくガッツポーズをしている。

 

 (……よし、これでやっと一歩前進だな、糞運営の悪質な上方修正にも負けずに我ながら上出来だな……)


 心の底から安堵している俺に向かって皆が駆け寄ってくる……


 ……そこで一つの違和感を覚えた……


 (……あれ?ゴブリンキングが粒子化しないな……)


 今までだったら倒した瞬間に粒子化して消滅したはずなのに、ゴブリンキングは全くその気配を見せない。

 喜ぶ仲間達を尻目にゴブリンキングの死体を見つめていると……


 ピクっと口元が動いた様な気がした……


 (……そんな、まさかまさかまさか!)


 「皆!まだ終わっちゃいない!気を付けろぉぉぉぉぉ!!!」


 俺が叫んだ瞬間、死んだはずのゴブリンキングが凄まじい咆哮を上げた。

かなり長くなったので、二話に分けます。

少しでも面白く感じて頂けたなら↓から⭐︎にて評価を頂けたら嬉しいです。

もちろんブクマも心の底から喜びます!


作品をご覧頂きありがとうございます。



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