第3話 ダンジョンデビュー
魔王へ転生後、初のダンジョン探索へ繰り出すことになったのだが、一つ気になることがあった。
「ところで、シオン、一つ気になることがあるんだけど、この玉座の間はダンジョンの何階にあるのかな?」
「はい、ここはダンジョンの地下100階です、つまり最深部に位置しています」
「地下100階か、この玉座の間からは、どうやってダンジョンへ移動するんだ?見る限り、扉や階段などは無さそうだが……」
「玉座の間の出入り用に転移用の魔法陣を用意しますので、魔王様はその魔法陣から好きな階に転移可能ですよ」
「それはすごい便利じゃないか。」
「えへへー、私すごいでしょ」
確か『NHО』の場合、〈大迷宮〉は地下に行けば行く程強いモンスターが出現する。
俺は今魔王とは言え生まれたてほやほやのレベル1である、そんな俺が地下100階層付近の強モンスター達と対峙した所で瞬殺されてしまうのがオチである。
「とりあえず、俺は転生したてのしがない見習い魔王だ。ということは魔物と戦ったことなど一度も無い……ゲームを除いてな」
「はい、ゲームで魔物を倒せたからって実際戦えるなんて平和ボケもいいとこですね」
「ちょっとは言葉を選ぼうか……という訳で今回はまず地下1階へ行って戦い方に慣れようと思うんだ」
「なるほど、まずは雑魚敵を狩って自分の実力を知るのが一番無難かもしれませんね」
シオンとの相談でとりあえず、方針は決定した。
「じゃあ、まず地下1階へ転送してもらおうかな、どうすれば良い?」
「それでは、転送用の魔法陣を起動させますね!転送用魔法陣起動!」
シオンの言葉と同時に少し離れた所に青白く光る魔法陣が出現した。
「行きたい階層を頭に思い浮かべながら魔法陣に入れば瞬時に転送してくれますので」
俺は1階へ転送して欲しいと頭に浮かべながら魔法陣の中央に立ってみた、するとその瞬間青白い光がより強く発光し始めた。
……気付いたら薄暗い岩石だらけの通路に立っていた。先程までいた玉座の間と違い、全く整備されていないただのほら穴といった感じだ。
目の前には奥に続く薄暗い通路があり、俺の背後には外の光が入ってきているのか、幾分明るい通路がある。恐らく、こちらの通路の先にダンジョンの入り口があるのだろう。俺は今は出れないらしいが……
どうやら、無事に地下1階に移動できた様だ。
「おお、すごいな」
「すごいでしょー、もっと褒めても良いんですよ?」
「すごいすごいー」
「棒読みはやめてください!」
とりあえず、探索を始めよう……とその前に。
「ところで、帰る時はどうしたら良いんだ?」
「また、私に言ってもらえれば魔法陣を起動させますので!」
いや、もう本当に有能だな。うるさいから言わないけど。
「よし、それなら安心!それでは、探索を開始しようか!」
「はい、行きましょう」
とりあえず、入り口とは反対側の通路に向かって歩き出す。
シオンも、パタパタと後方に付いてきている。
通路の奥の方は暗すぎて見えないが、通路自体は一本道のため迷いなく歩くことが出来た。
しばらく歩いていると、通路上に何やらもぞもぞ動いている物が見える。
よく目を凝らしてみると小型のネズミの様なモンスターがいた。通路の反対側へ向いているためか、まだこちらに気付いていない様だ。
確かこいつは、ダンジョンマウスだったかな?『NHО』でも最弱に近い雑魚モンスターだったはずだ。
「シオン、あいつはダンジョンマウスで間違いないか?」
「はい、この地下1階にはあの魔物しか出現しませんよ」
俺の記念すべき初討伐はあいつで決まりだな。
試しに〈鑑定〉を使用してみる。
名称:ダンジョンマウス
ランク:F
HP : 8/8
MP : 2/2
攻撃力 : 5
防御力 : 2
魔法力 : 0
素早さ : 5
スキル : かみつき
眷属化成功率 : 90%
・・・記憶通り、典型的な雑魚モンスターだった。ランクも最低のFである。
ん?眷属化成功率?モンスターを相手に鑑定した場合は、こんな項目が出現するのか。
成功率90%ということはスキルを使用すればほぼ確実に眷属化が成功するということか、とは言えこんな雑魚モンスターを眷属化するのはもったいない気がする。
「シオン、眷属化したモンスターは途中で解除できるのか?」
「いいえ、魔王様自ら解除することはできません。モンスターが死亡した場合のみ眷属化の解除は可能となりますので、対象は慎重に選んだ方が良いですよ」
なるほど、ということは魂の共有の使用は慎重に考えなければならないな。
とりあえず、こいつは倒してしまうか。
まずは、スキルの闇魔法を試してみようと思う。
俺の闇魔法スキルは現在Lv1だ。使用できる魔法は〈ダークアロー〉のみ、記念すべき初討伐は、この〈ダークアロー〉で成し遂げよう。
ゲーム内でのイメージで、手の平をダンジョンマウスの方に差し出して…
「〈ダークアロー〉!」
そう叫んだ瞬間、手の平から黒い閃光が飛び出し、背後からダンジョンマウスを貫いた。
「ピギィ!」
断末魔を上げながら、ダンジョンマウスが崩れ落ちる…と同時に粒子となって消えて行った。
「すげー……本当に魔法が出た……」
少し半信半疑だったが、本当に魔法が撃ててしまったので内心驚いてしまった。
「よし!次は直接攻撃で倒してみよう!」
俺は、腰に帯びていた妙に禍々しい剣を引き抜き、次の獲物を探して歩き始めた。
しばらく通路を歩くと、向こう側から新たなダンジョンマウスを発見した。
こいつはこっちにすぐに気付いたが、素早さが違い過ぎる。
俺は颯爽と駆け出し、ダンジョンマウスに向かって剣を振り下ろした。
斬撃をまともに受けて、一撃で粒子と化したダンジョンマウスの姿に満足すると、間髪入れずに次の獲物を求めて駆け出した。
直ぐに二匹目のダンジョンマウスを発見し、ジャンプしながら斬り付ける。
……いや、ジャンプする必要なんか全くなかったけど、何となく……飛んでみたいですやん。
思ったより飛距離が出てびっくりしたけど……
そのままダンジョンマウスに一太刀浴びせて光の粒子に変えてやった。
いや、楽しいなこれ!
今俺は転生前にとことんはまっていた『NHО』の世界に魔王の姿とは言え、実際に存在できている。
いつしか時間の経つのも忘れ、モンスター狩りに夢中になっていた。
気付けばあっという間に十匹ものダンジョンマウスを倒し、必要経験値を満たしてしまったようだ。
……おっと、もうレベルアップか。
ステータスを確認と、
名称:ヤクモ スメラギ
クラス : 見習い魔王
ランク : C
Lv : 2
HP : 453/453
MP : 401/401
攻撃力 : 329
防御力 : 296
魔法力 : 484
素早さ : 346
スキル :魂の共有〈EX〉
鑑定
闇魔法〈Lv1〉
……おお、全ステータスが漫勉なく上昇している。
こうやって成長して行くんだな。
「いや、俺ってやっぱり魔物狩りの才能があるんじゃないか?」
「本当ですねー、最弱モンスターを散々いじめて調子に乗れるってある意味すごい才能ですよねー」
「お前、まじで俺の事何だと思ってる?」
初めての雑魚モンスター狩りを十二分に満喫した俺は、満足気に地下1階から玉座の間に戻って行った。
こうして、魔王ヤクモの初めてのダンジョン探索は幕を閉じたのであった。
作品をご覧頂きありがとうございます。
現在、第一部終了まで書き溜めてあるので、しばらくは毎日更新を続けさせて頂きます。
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