第25話 資質スキル持ちの蜘蛛を探せ
地下30階のフロアボス、大鬼蜘蛛の討伐に成功した俺達は、一息ついた後、シオンを探す事にした。
俺達が戦っている間に、資質スキル持ちの蜘蛛を探す手筈になっていた。
あの後、大鬼蜘蛛を退治した瞬間にフロアに残っていた残りの蜘蛛達も残らず粒子となって消えてしまった。
どうやらこのフロアの蜘蛛達は大鬼蜘蛛と一心同体だったらしい、そこそこの数が残っていたので戦わずに済んでほっとしている。
シオンはどこまで行ったのだろうか?
(確か1つ前のフロアの方へ飛んで行ったと思うが……)
俺達はシオンを探して戻る事にした。
……1つ前のフロアに戻ってきた俺達は手分けしてシオンを探し回ったがなかなか見つからない。
先程の戦闘で大半の蜘蛛の魔物は倒されて粒子と化したが、まだ何匹かは生き残っているらしく、壁や天井にちらほら存在している。
時折、襲い掛かって来る蜘蛛もいたが、1匹1匹ではさすがに相手にはならず、それほど探索の邪魔にはならなかった。
暫くシオンを探したがどこにもいない。
「……まさか、蜘蛛に食べられてしまったんではあるまいな……」
コダマがとてつもなく不吉な事を言い出した。
「……いや、そんなまさか……」
「いやいや、大丈夫ですよ……きっと」
ラセツとリンネが心配そうに呟く。
全力で否定出来ないのは、2人とも心のどこかでそんな可能性があると考えているからか……
(まあ、あれだけの蜘蛛が待ち受けている中を飛び回ったんだから、蜘蛛達に捕まってしまってもおかしくないのか……)
考えたくはないが、そんな可能性が頭から離れなくなってしまった。
「そんな……あのシオンが……蜘蛛の餌に――」
「なりませんよぉぉぉぉ!!!!」
俺が最悪の事態を呟こうとした瞬間に、後ろの岩陰から聞きなれた叫び声が聞こえてきた。
皆が驚いて振り向くと同時に紫の影が飛び出して来る……もちろんシオンだ。
「うぉ!?びっくりしたぁ……いるならいるでもっと早く出て来たら良いのに」
「さっきの心配はどこに行きました?頑張って探索を続けてたんですけど、蜘蛛への恐怖が限界を上回ってしまって、あちらの岩陰に隠れてひたすら震えてたんですぅ……」
あんな所に隠れてたのか……探しても見つからないはずだ。
「まぁ、無事で良かった。安心したよ」
「本当に怖かったんですよ。たまに不意打ちで襲い掛かって来る蜘蛛とかもいるし、必死で逃げ回りましたよ」
「そうか、頑張ったな。ところで肝心の、王の資質スキル持ちは見つけることが出来たのか?」
「……ギクリ……それが……その……途中から逃げるのに必死で見つけられませんでした……ごめんなさい……」
シオンが心底申し訳無さそうに謝って来るが、ひょっとして俺達に怒られると思ってるのだろうか……
確かに資質スキル持ちを見つけられなかったのは痛いがシオンも必死で探した結果だ、誰も責める気は無いだろう。
「いや、謝る事は無いよ、精一杯頑張ってくれた結果だ、ありがとうなシオン」
「ああ、シオン殿の勇気にはこのコダマも感服したぞ」
「もっと胸を張って良いぞ」
「本当にお疲れ様です、シオンさん!」
皆から、怒られ責められると思っていたであろうシオンは、予想外の労いの言葉を掛けられ驚いている様だ。
「……良かったぁ、途中までは調子が良かったのに、結局恐怖心に負けてしまって、どうしようかと思ってたんですよね、皆さんが想像より優しくて嬉しいです」
……シオンの中では俺達はどれだけ厳しい存在なのだろう……
「まあ、とにかく無事で良かったじゃないか、途中までとは言え探索したのに見つからなかったんだから、このフロアには資質スキル持ちはいないのかな?」
「恐らくそうでしょうね、何せ途中までは必死で探しましたからね、あの1匹だけ陰に紛れて誰からも見つからない様に気配を隠している蜘蛛を見かけた辺りまではそれはもう必死に……」
「ん?」
「え?」
「え?」
「え?」
「………………え?……皆さんどうしましたか?急に固まって」
今、気のせいか物凄い事を言葉を耳にした気がするが……
「今何て言った?」
「え?……えーと、途中までは必死で探しましたーって」
「いや、その後だ、その後!」
「わわ、何ですか急に。えーと、1匹だけ陰に紛れて誰からも見つからない様に気配を隠している蜘蛛を見かけた辺りまでは――」
「「「「そいつじゃねーか!」」」」
思わず、ハモりながら一斉に突っ込んでしまった。
「おお!?どうしましたか、皆さんそんな怖い顔して、さっきまであんなに優しかったのに!」
「シオン……落ち着いて聞いてくれ。お前がさっき見つけた1匹だけ気配を隠していた蜘蛛って奴が、資質スキル持ちの魔物なんじゃないか?」
「…………えええ!?そんなまさか!?……そう言われれば、見た目も他の蜘蛛達と少し違うなぁって……」
「ますますそいつが怪しいな!良いかシオン、資質スキル持ちの魔物は他の魔物とは違う進化を遂げる可能性が高い、って事は他の蜘蛛達と違う行動を取って、見た目も違うそいつが資質スキル持ちの可能性はかなり高いと思うぞ」
「あああ、もう私もそうとしか思えなくなってきました……私とした事が、嫌いな蜘蛛に囲まれておかしくなってたんですかね……」
またまた気落ちしてしまった様だ、まあ苦手な蜘蛛に囲まれて動揺しまくってたから正常な判断が出来なかったのかな?
まあ過去のミスを責めても仕方ない、大事なのはそこからどう挽回するかだ。
「よし!気付けなかったのは仕方ない!今からその蜘蛛の所へ案内してくれるか?」
「……はい!もちろんです、皆さん付いて来て下さい!」
シオンがパタパタと飛び立ち、俺達はその後ろに付いて行く。
……到着したのは、何と一番最初に蜘蛛達と交戦した場所だった。
(こんな所にいたのか、全然気付かなかったな)
シオンは天井の端の方へ視線を送りながら目を凝らしている。
「えーと、確かあの辺りで見かけたんですけど……あっ、あそこです。見えますか?」
シオンが指示した場所を見てみるが、一見何も無い様に見える。
(えーと、確か陰に紛れて気配を隠してるんだったな)
より一層集中して陰の中を見てみると、微かに蜘蛛の姿が確認出来る。
「あれか、本当に集中して見ないと全くわからないぞ、よくあんなの見つけられたな」
「まあ、私一応コウモリですので」
シオンがえへんと胸を張った、見つけたのに気付かなかったくせに。
(あいつが資質スキル持ちか確認してみるか)
僅かに姿が確認出来る蜘蛛に向かって〈鑑定〉を使用した。
名称:暗黒蜘蛛
ランク:D
HP : 135/135
MP : 98/98
攻撃力 : 130
防御力 : 101
魔法力 : 84
素早さ : 168
スキル : 毒爪
念話
影魔法〈Lv3〉
影王の資質
眷属化成功率 : 100%
やっぱりこいつだった!影王とは、名前からして完全に忍者っぽいじゃないか。
「あの蜘蛛で間違いないな。……しかし、あんな所にいられたらどうやって仲間に誘えば良いんだ?」
「魔王様の魔法で撃ち落としては?」
「却下だ」
シオンの危なすぎる案を即時却下し、他の作戦を考える事にした。
……5分後。
(……やっぱり、これしかないか。)
「なあシオン」
「却下です」
「まだ何も言ってねえ!」
「どうせ、私に説得してこいって言うんでしょー!私が蜘蛛を説得出来ると本当に思ってるんですか!?まず近くに行くのも無理ですよ!」
……さすがにばれてたか、他に空を飛べる者もいないし、どう考えてもその作戦しか無いんだがな。
「ねえシオンさん、魔王様との約束を覚えてますか?」
「無事に任務を果たしたら一つだけ願い事を聞いてくれるってやつですよね……」
リンネが何やらシオンを説得し出したが……そういえばそんな危ない約束をしてたな。色々あってすっかり忘れてたわ。
「シオンさんがあの蜘蛛を見つけたのは間違い無いですが、資質スキル持ちだと気付く事が出来なかった……という事は、任務を果たせたかどうかはまだわからない状態ですよね?」
「……うう、それはそうです……はい」
「それでは、ここであの蜘蛛を説得して仲間に引き入れる事が出来たら任務達成確定じゃないですか!ねえ、魔王様?そうですよね?」
リンネが見事な交渉術を繰り広げている……あんな事も出来たのか、今後は気を付けないとな。
「……ああ、そうだな、あいつを説得してくれたら、俺も約束は守る……だから力を貸してくれないか?」
リンネの意図に俺も乗る。シオンの願い事が何なのか、正直不安はあるが、仲間が増えるならば安い物だ。
「……わかりました。それでは、もうひと頑張りして来ますので、見守ってて下さいね!」
シオンが覚悟を決めた様子で飛び立ち、パタパタと暗黒蜘蛛がいる所まで近付いて行く。
(とは言え、相手は蜘蛛だ、まともに話が通じるのか?)
果たしてコミュニケーションが取れるのか、少し心配になってしまうのも事実だ。
万が一シオンが襲われた場合はすぐに闇魔法を放てる様に意識だけはしておこう。
そうこうしている間に暗黒蜘蛛がいる場所まで辿り着いた様だ。
シオンはパタパタと暗黒蜘蛛のすぐ近くで滞空している。
話をしている最中だろうか、滞空を続けていたかと思えば、やがてこちらへ向き直り戻って来た。
「魔王様ー!話して来ましたよ!」
「おう!どうだった?」
「あの蜘蛛ですが、念話というスキルを持っているので、このフロアにいればどこでも話が出来るそうなので、魔王様と直接話したいみたいです」
……なるほど、確かに〈鑑定〉を使用した時にそんなスキルを持っていた様な……
こんな離れていても話が出来るのか、かなり便利なスキルだな。
「わかった、直接話せるなら有難い。えーと、どうしたら良い?」
『頭の中で念じれば良い、こうして話が出来る』
……急に頭の中に声が響いて来た。これは暗黒蜘蛛の声の様だ。
早速、念話でのコミュニケーションを試みる。
『これで良いのか?』
『ああ、話はそのコウモリから聞いた。魔王よ、本当に俺を仲間にしたいのか』
『そうだ、俺達の仲間になって欲しい、それは間違いない』
『……俺はここでお前達が群がる蜘蛛達を一蹴するのを全て見ていた……お前達は既に恐ろしい程の力を得ているだろうに、何故更なる力を求めようとする?』
『……この先でもっと恐ろしい力を持つ敵が待ち受けている。その恐ろしい力に対抗するためには、更なる力を手にする必要がある。そのためにお前の力を俺達に貸して欲しいんだ』
『…………俺を仲間にしたい理由はわかった。もう一つ教えて欲しい、俺がお前達の仲間になる見返りは何だ?』
『……見返りか……』
唐突に繰り出された暗黒蜘蛛の質問に、俺はしばし考える、適当な回答じゃまず納得してもらえないだろう。
『見返りは……二つある』
『ほう……一つ目は何だ?』
『一つ目は自由だ。俺達はこのダンジョンを攻略し、いずれ外界へ打って出る。仲間になれば一緒に外の世界を自由に冒険する事が出来る、これがまず一つ目だ』
『……なるほどな、それでは二つ目は?』
『それは……信頼できる仲間が出来るという事だ。俺達は仲間を決して見捨てやしない。こんな所で一人で隠れ続けるよりも、得られる者は無限にあるだろう。俺達の仲間になるという事は最早家族当然なんだ。どうか俺達を信じて仲間になって欲しい』
『……そうか、家族か……』
暗黒蜘蛛は暫くの間、考え込んだ上で結論を出した様だ。
『……わかった。魔王に俺の命を預けよう。くれぐれも今俺と話した事は忘れるんじゃないぞ』
どうやら、説得が通じた様だ。
四人目の仲間が出来た瞬間だった。
作品をご覧頂きありがとうございます。
現在、第一部終了まで書き溜めてあるので、しばらくは毎日更新を続けさせて頂きます。
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