第24話 対決!大鬼蜘蛛
……やはり読み通りだ。
さっきいた場所を少し大きくした様な開けた空間、大鬼蜘蛛はそこに待ち構えていた。
空間の中央で尻の穴から出した糸で天井からぶら下がっている。
体長は三メートル程だろうか、他の蜘蛛より一際大きな牙を蓄え頭には巨大な角が1本生えている。
見た目を一言で表すとしたら正に大きな鬼蜘蛛?みたいな感じなので、大鬼蜘蛛か……ぴったりじゃねえか。
周囲を観察すると、蜘蛛の魔物の群れだと思われる気配がそこら中に蔓延している。
やはりキラートレントの時と同じく、周囲の魔物も一緒に戦う必要がある様だ。
とりあえず、大鬼蜘蛛を鑑定してみると……
名称:大鬼蜘蛛
ランク : C
HP : 970/970
MP : 210/210
攻撃力 : 990
防御力 : 440
魔法力 : 110
素早さ : 870
スキル : 毒牙
麻痺爪
粘糸
やはり、攻撃力と素早さがかなり高い、防御力が低いのは弱点と言えるが、素早さを活かして強力な攻撃を仕掛けてきそうだ。
スキルの方に目を向けると〈毒牙〉や〈麻痺爪〉といった状態異常系のスキルに加え〈粘糸〉という実に不穏な響きのスキルを所持している。
〈粘糸〉というのは蜘蛛の糸の事だろう、こちらの動きを封じたり鈍らせたりしてくる事が予想されるため、十分に気を付けなければならない。
先程の一戦でどこかの誰かが辺り一帯を大量の蜘蛛ごと焼き尽くすという暴挙に出たためか、既にこちらを敵視し今にも襲い掛かってきそうな気配だ。
「リンネは以前こいつと戦った事があるんだよな?その時はどんな手段で倒したんだ?」
「はい、魔導士のポーラの広域火炎魔法で周囲一帯を焼き尽くす戦法でなんとか倒せました」
「……何か以前にも全く同じ言葉を聞いた気がするな」
確かにさっきはダーク・フレイムで一掃出来たからな、こいつらの弱点は炎で間違いない。
地下20階と地下30階のフロアボスが両方とも同じ手段で倒せるとは、神様も作り込みが足りないんじゃないのか。
「いつこっちに向かって来てもおかしくないな、皆今の内に準備だ!」
俺の声を聞いて、各々が戦いの準備を始めた。
ラセツは大剣を構え、既に臨戦態勢だ、今回は俺も最初から全力で行くつもりだ。
「〈聖魔合一〉!〈魔王の盾〉!」
スキルを使用し、自らの戦力を上昇させる、〈聖魔合一〉の効果でステータスが大幅に上昇し〈魔王の盾〉によって左手に漆黒の盾が装着された。
残る右手で剣を抜きながら皆に最後の指示を出す。
「基本的には戦い方は今までと一緒だ、リンネは皆が毒や麻痺に掛かってしまったら直ぐに回復する様に意識してくれると助かる。シオンは俺達が戦闘を始めたら直ぐに資質スキル持ちを探しに行ってくれ」
……これで準備は万端だ。
「よっしゃぁ!行くぞぉ!」
先手必勝、俺の号令に合わせて皆が動き出す。
コダマが盾を前に出し蜘蛛達の陣地へ突っ込んでいく、俺とラセツがそのすぐ後ろにぴったりと付きながら駆け出して行った。
「魔王様!私の生き様見てて下さいねー!」
そして、後方に待機しているリンネの肩からシオンが飛び立って行った、資質スキル持ちの蜘蛛を探すためだ。
頑張れシオン、骨は拾ってやるからな。
俺達が動き出したとほぼ同時に大鬼蜘蛛達も動きを見せ始めた。
「ギシャアアアアアアア!」
巨大な咆哮を上げながら糸を伸ばし地面に降り立った後、すかさずこちらに向かって突進を始める。
……さすがに早い!コダマが盾を前面に掲げ突進を食い止めようと試みるが、果たして耐えられるか。
「おおおお!」
突進してきた大鬼蜘蛛の巨大な牙とコダマの盾が激しくぶつかり、凄まじい音が鳴り響いた。
「ギギギギィ!」
大鬼蜘蛛は自らの突進を止められた事に驚いたのか、すかさずバックステップを繰り出しコダマと距離を取った。
「ぐぬぅ……」
コダマは何とか耐えた様だが、さすがに少しダメージを負ってしまっている。
「大丈夫ですか!?ヒール!」
リンネがすかさず〈回復魔法〉を飛ばしてダメージを癒した。
「ギャギャギャギャギャギャ!」
鬼蜘蛛がまた咆哮を上げた瞬間、周囲の蜘蛛達が一斉に動き出した。
どうやら攻撃の合図を周囲の蜘蛛達にも送ったらしい。
さっきの空間で見た光景と全く同じだ、周囲一帯からカサカサと不気味な足音が一斉に響き出し、大量の蜘蛛達がこちらに向かって突っ込んでくる。
ランクEの小蜘蛛とランクDの中蜘蛛が入り混じっているのが見えた。
「〈樹霊障壁〉!!」
コダマが防御態勢を取るために〈樹霊障壁〉を使用し、パーティー全員が光のバリアで包まれた。
バリアの周辺に大量の蜘蛛達が群がる。
「〈ダークフレイム〉!」
俺はすかさず〈ダークフレイム〉をバリアの周囲に群がる蜘蛛達へ向かって放った。
「キシャアアアアアア!」
蜘蛛達が漆黒の炎に包まれて行き、断末魔の悲鳴を上げながら次々と粒子になって消えて行った。
「この調子でぇ!」
すぐさま第2、第3の〈ダーク・フレイム〉を放ち、辺り一面を火の海に変えてやった。
どんどん数を減らして行く蜘蛛達、その光景に戦慄を覚えたのか、大鬼蜘蛛は反対側の壁面まで後退し、壁に張り付いてこちらの様子を伺っている様だ。
「よしチャンスだ、ラセツ!追撃を掛けるぞ!」
「おお!〈鬼王剣〉 !」
ラセツが即座にスキルを使用し、大剣に闘気を纏わせながら突っ込んで行く――
「ギシャシャシャシャシャアア!」
突然、大鬼蜘蛛が大きな尻をラセツに向けたかと思うと、先端から大量の糸を噴出した。
これはスキルの一つ〈粘糸〉か!
前のめりに突っ込んでしまったのが裏目に出たのか、ラセツは大量の糸を諸に浴びてしまった。
「……ぬう!?動けぬ!」
体中に糸を浴び大剣を振り上げたまま糸に絡めとられてしまった。
必死にもがいているが強力な粘りのある糸が体中に巻き付いているため、思うように動きが取れない様だ。
大鬼蜘蛛がその隙を見逃すはずもなく、すぐさまラセツの方へ向き直り、牙を向け突進の体制を取る。
「まずいな、コダマはリンネを他の蜘蛛から守れ!ラセツは俺が助けに行く!」
俺は一目散でラセツを助けるため走り出した。
しかし、進路を邪魔する様に蜘蛛達がわらわらと群がってくる、どうしてもラセツの下へ行かせたくない様だ。
「邪魔だぁ!〈ダークウエーブ〉!」
走りながら〈ダークウエーブ〉を使用する。
俺の体から放出された漆黒の波動を受けて蜘蛛達が吹き飛んでいく。
〈ダークフレイム〉よりは効果は低いが、進路を確保するだけならば十分な効果だ。
今の〈ダークウエーブ〉で前方にわずかではあるが、進路が開ける。
俺はそこに向かって全力でジャンプした、走った勢いのまま残る蜘蛛達を飛び越える。
ラセツの方へ視線を向けると、大鬼蜘蛛が牙を振り上げ突進を仕掛ける瞬間が見えた。
ラセツはというと、相変わらず大剣を頭上に掲げたままの体制でもがいている。
「――間に合えええ!」
俺は〈魔王の盾〉を構えたまま大鬼蜘蛛に突っ込んで行く。
物凄い勢いで大鬼蜘蛛の牙がラセツを貫こうと迫ってくる。
……牙がラセツに届こうかという瞬間、〈魔王の盾〉を構えたまま突っ込んできた俺とぶつかり、激しい衝突音を奏でた。
「ギギィ!?」
完全に仕留めたと確信していたのだろう、寸前で牙を弾かれ大きく仰け反りながら驚いている。
「……っしゃぁ!間に合った!」
体制を崩した大鬼蜘蛛に更に追撃を加えるべく右手の剣で複眼の一つに向かって刺突を繰り出した。
「ギィィィ!」
いくつもあるとは言え、自らの複眼の一つを貫かれた大鬼蜘蛛は悲鳴を上げながら後退して行った。
先程と同じく、壁面に張り付き怒りの形相を浮かべこちらを威嚇している。
「ラセツ、大丈夫か?」
「ああ、すまぬ!助けてもらいかたじけない!」
ラセツに纏わりつく糸を剣で切り裂くと、やっと自由を取り戻した様だ。
コダマとリンネも駆けつけ、元のパーティーの形に戻る。
現状の確認をすると、大鬼蜘蛛は複眼の一つを潰され目の前の壁面に張り付いている。
他の蜘蛛達も当初の3分の1程度まで数が減っている。
間違いなく、戦況はこちらに有利である。
(このまま押し切れるか?……いっその事、さっきみたいに焼き払うか……)
このまま〈ダークフレイム〉を連発し、他の蜘蛛達と共に焼き殺してしまうのが一番安全だが、果たしてそれで良いのだろうか?
(いや、違うな、そんな安全策で倒したとしても……面白くないよなぁ)
俺は自らの考えを振り払い、より楽しくより燃え上がる方へ舵を切る。
転生して以降、生きるために必死だった序盤とは違い、今は頼れる仲間も増え、取れる戦略は格段に増えた。
そんな中で目の前の敵を葬るために、安全策を使っていては面白くも何ともない。
生前、時間が過ぎるのも忘れる程にはまっていた『NHО』の世界に存在できているのだ。
……だとすればやる事は一つだ……
(そんなもったいない事をするために……)
「転生したんじゃねぇんだよなぁ!」
俺はすかさず皆に指示を出す、あくまで正攻法で大鬼蜘蛛を倒す方針を固めた。
「コダマは正面で攻撃を受け止めてくれ!ラセツは左から、俺は右から攻める!糸を受けた場合はすぐに〈ダークフレイム〉で焼き払うからその瞬間にリンネは回復してくれ!」
「「「おう!」」」
皆の気合の入った返事が返って来た事で、俺自身のテンションも一層上がる。
「行くぞぉぉ!!!」
俺の渾身の号令と共に皆が動き出した。
「ギャギャギャギャギャ!ギシャァァァァァァ!」
大鬼蜘蛛が今までよりも更に大きな咆哮を上げたその瞬間に、他の蜘蛛達が俺達に向かって一斉に突っ込んでくる。
更に大鬼蜘蛛自身もこちらに向かって来ようとしている。正に総力戦の様相を呈してきた。
「〈樹霊障壁〉!」
コダマがスキルを使用しバリアを張り、敵の進撃を防いだ。
その瞬間……
「行くぞラセツ、〈魔王剣〉!」
「おうよ!〈鬼王剣〉!」
俺とラセツが同時に必殺スキルを使用する。
お互いの武器に闘気を纏わせ全力でバリアの周囲に群がる蜘蛛達へ向かって剣を振るう。
「「おおおおおお!」」
凄まじい力の奔流が起き、蜘蛛達が次々と消し飛んで行った。
「ギシャァァァ!」
その直後に大鬼蜘蛛の牙が俺に向かって突っ込んで来た。
俺はすぐさま〈魔王の盾〉を構え衝撃に備えた。
……しかしその瞬間、コダマが大鬼蜘蛛と俺の間へ盾を構えながら飛び込んで来た。
コダマの盾と牙が激しくぶつかり、先程と同じく衝突音が鳴り響く。
「敵の攻撃は我輩に任せて、魔王殿は攻撃して下され!」
「おお!任せろぉ!」
コダマの盾に弾かれ、大鬼蜘蛛は体制を崩していた。
「……そろそろ幕引きだな!〈魔王剣〉!」
〈魔王の盾〉を収納すると同時に〈魔王剣〉を使用しながら大鬼蜘蛛へ向かって行くが……
「ギシャシャシャシャシャアア!」
そこへ尻の先端から〈粘糸〉を放ってきた。
起死回生のカウンターである。
「甘いなぁ!」
……先程のラセツとの攻防を見ていたため、完全に読み切っている。
俺は剣を持っていない方の左手を前に出し、大量の糸に向けてスキルを放つ。
「〈ダークフレイム〉 !」
左手から放たれた漆黒の炎は凄まじい勢いで蜘蛛の糸を焼き払う。
「これでラストだぁ!」
最後の手段とも言うべき〈粘糸〉を完全に防がれ、無防備となった大鬼蜘蛛に向かって〈魔王剣〉を放つ。
……と同時に左側からもラセツが突っ込んで来ている。
「お主には先程の借りがあるのでなぁ!〈鬼王剣〉 !」
〈粘糸〉によって完全に手玉に取られたのを根に持ったラセツも〈鬼王剣〉を発動させながら大剣を振り下ろした。
「ギギギシャァァ!」
〈魔王剣〉と〈鬼王剣〉を同時に受けたらさすがの大鬼蜘蛛と言えども一たまりも無いだろう、一気に残りのHPを削られ、断末魔を上げながら光の粒子となり消えて行った。
(……ふう、思ったより手間取ったが……)
「……楽しかったなぁ」
地下30階のフロアボス、大鬼蜘蛛討伐に成功した瞬間、心からの本音を吐き出した。
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