第23話 蜘蛛の巣へ突撃
俺達は地下30階へ突入した。
辺りは他のフロアよりも明らかに薄暗く、通路の奥の方はほとんど見ることが出来ない。
「かなり暗いな、皆出来るだけ固まって動こう、どこから敵が襲ってくるかわからない」
コダマを先頭に密集隊形を取り先に進む事にした。
このフロアにいるのは蜘蛛の魔物の大群である、360度全方位のどこから敵が出現してもおかしくないのだ。
辺りを警戒しつつ進んで行くと周囲からカサカサと何かが動く音が聞こえ始めた。
明らかに蜘蛛の足音だ、壁や天井を這っているのか姿形は見えないが、気配はそこら中から発生しているのがわかる。
「……そろそろ来るぞ、警戒を怠るなよ」
俺が皆に囁いたのとほぼ同時に向かって右の方向の壁面に動きがあった。
「キシャァッ!」
おぞましい声が聞こえたかと思った瞬間、一体の蜘蛛の魔物が飛び掛かって来た。
体調は50cm程だろうか、複数の眼を光らせ大きな牙を剥きながらこちらに向かって突進してくる。
「まかせろ!」
一番近くにいた俺が手早く剣を抜き、飛び掛かって来ている蜘蛛に向かってカウンター気味に斬撃を合わせる。
蜘蛛の牙が届くよりも前に俺の剣が蜘蛛を捉え、縦一文字に両断した。
……その攻防を皮切りに周囲から一斉に蜘蛛達が飛び出して来た。
「来たぞ!皆各自迎撃だ!リンネとシオンはコダマの背後で出来る限り攻撃を喰らわない様に気を付けてくれ!」
目の前の蜘蛛を捌きながら指示を出す。
ラセツは大剣で目前に群がる蜘蛛達を薙ぎ払っている。
コダマは正面に位置するので、更に多数の蜘蛛達が群がっているが、盾で防ぎながら、ランスで攻撃しどんどん数を減らしていく。
蜘蛛達は、一匹一匹はほとんど脅威にならない程弱く相手にならない、恐らくランクにしたらE相当だろう。
時間が経つにつれ、蜘蛛の数が減ってきたので、周囲を気に掛ける余裕も出てくる。
リンネ達の方を確認すると、いつでも回復魔法を使用できる様に身構えるリンネとその肩で震えに震えているシオンが見えた。
「……あれは蜘蛛じゃなくてぬいぐるみ、あれは蜘蛛じゃなくてぬいぐるみ、あれは蜘蛛じゃなくてぬいぐるみ」
シオンが危ない言葉を呟き続けているのが見えたが、即座に見なかった事にした。
しかし、予想通り数が多い、この中から王の資質スキル持ちの蜘蛛を探すとなると、かなり大変だが、今のシオンの様子を見ていると心配は否めない。
そうこうしている内に周囲にいた蜘蛛達は残らず排除する事が出来た。
「皆大丈夫だったか?」
「ああ、こ奴ら数は多いがそれだけだ、連携も何も無くただ襲い掛かって来るだけだ、脅威には成り得ぬ」
先頭で踏ん張っていたにも関わらずほとんどノーダメージで切り抜けたコダマが胸を張りながら答えた。
やはり所詮はEランクの魔物だ、どれだけ群れようが怖くはない、問題はこの先に進化したDランク以上の魔物が混じって来た場合だ。
地下30階のフロアボスである大鬼蜘蛛のランクはC、という事はもう一段階進化したDランクの蜘蛛が出現してもおかしくないため、警戒しておく必要はある。
「引き続き、フロアボスの所まで進んで行くが、まだまだ蜘蛛の襲撃は続くだろう、警戒を怠るなよ」
俺たちは警戒レベルをより一層引き上げ、先に進んで行く事にした。
後は、頼みの綱のシオンだが……
「……頑張れば魔王様のご褒美、あれは蜘蛛じゃなくてぬいぐるみ、頑張れば魔王様のご褒美、あれは蜘蛛じゃなくてぬいぐるみ」
……気のせいかさっきよりも悪化している様な……
不安を感じながら先に進んで行くとより広い空間に行き当たる。
「……嫌な予感がするな」
物量で攻めてくる敵に対して、この空間は危険だ、前後左右逃げ道が無いまま、あらゆる方向から挟まれて攻められてしまう。
〈ダークウェーブ〉等で一掃しても良いが、繰り返し襲い掛かってこられたらさすがに効率が悪い。
……だが、そんな考えを余所に俺の嫌な予感はやはり当たってしまった。
広い空間の壁や天井等あらゆる所から、カサカサと蜘蛛の足音が聞こえ始めた。
よく見ると、睨み付ける様にこちらを向いている夥しい量の複眼が薄暗い闇の中で光っていた。
……これはさすがに俺も気持ち悪いな……シオンは大丈夫か?と心配しているとシオンも今の状況に気付いたらしい。
「うげええええ!!!魔王様、私もう限界です!転送用魔法陣発動して良いですか!?っていうかもうしますね!さっさと逃げましょうよねぇねぇねぇ!!!」
「やめろ全てが無駄になる!」
さすがに我慢の限界に達した様で激しく発狂している。
シオンの絶叫を合図代わりに一斉に蜘蛛達がこちらに向かい始めた。
よく見ると蜘蛛達の中に一回り体が大きい蜘蛛も混ざっている、こいつらは進化したDランクの魔物だろう。
「コダマ!障壁を張れ!ラセツはできる限り敵を削れ!リンネはシオンを守ってくれ!」
こうなったらもうやるしかない、俺の指示を迅速に聞き、各々が動き出す。
さっきよりも遥かに多数の蜘蛛が全方位より殺到して来るが、わずかに早くコダマの障壁が間に合い、俺達を包み込んだ。
ランクDの魔物と言えど、コダマの〈霊樹障壁〉は突破出来ないらしく、全ての攻撃を弾いている。
障壁の内側からはラセツが大剣を振るい、次々と蜘蛛達を斬り裂いていた。
「……さすがだなぁ!」
俺はそんな仲間達を頼もしく思いながら両手を上に掲げて新たなスキルを使用するために集中する。
「〈ダークフレイム〉!」
地下29階でのレベル上げ時に習得したLv4の闇魔法である。
掲げた両手から漆黒の炎が出現し、頭上で収束しながら球状に形成されて行く。
「行っけぇぇぇ!」
そのまま群がる蜘蛛達に漆黒の火炎弾を撃ち込んだ。
「キシャァァァァ!」
火炎弾は蜘蛛達に到達すると爆散し、そこら中に燃え広がり始めた。
たまらず悲鳴を上げながらのたうち回っている。
「効果てきめんだな」
予想通り、炎が弱点なのだろう、トレント戦の時に覚えていればもっと楽に戦えたのに……
そんな考えが頭をよぎった。
〈ダークフレイム〉によって大きな被害を受けた蜘蛛達はまだまだ数は残っているが、燃え盛っている仲間達の死体を見てさすがにこちらに突っ込むのを躊躇しているらしい。
……チャンスだ!俺は更に〈ダークフレイム〉による追撃を敢行し残った蜘蛛達も焼き払いにかかる。
更に二発もの〈ダークフレイム〉を撃ち込み、残った蜘蛛達も粗方片付けた。
「……ふう」
МPの消費は痛かったが、この状況では仕方ない。
「よし、そろそろフロアボスに遭遇する可能性は高いだろう、ボス戦が始まったらシオンは離脱して、資質スキル持ちを探して欲しい……本当にやれるか?」
「……はい、これだけ大量の蜘蛛を倒してもらえましたし……発狂して一通り叫び続けてたら一周回って大丈夫な気がしてきました……」
「よーし!結果オーライ、本当に頼んだぞ!」
俺達の攻撃で一掃されて行く蜘蛛達を見てたら少し恐怖が薄れてきたらしい。
〈ダークフレイム〉による効用がこんな所にまで及ぶのは意外だった。
「……でも、一つ心配なのですが」
「どうした?」
「こんなに一気に焼き払ったら資質スキル持ちも一緒に焼け死んでませんかね?」
「……ああ」
……しまった、あまりに大量の蜘蛛に襲われたため、そこまで気にする余裕が無かった。
シオンの心配通り、この燃え続けている蜘蛛達の死体の中に資質スキル持ちがいたとしても不思議ではない。
「……まあ、その時は仕方ないよな……作戦を練り直そう」
「はい!まあまだ決まった訳では無いですからね!」
少し、心配ではあるがここは前を向いて行こう。
俺達は恐らくフロアボスが待ち受けているだろう、
次回ボス戦、乞うご期待!
作品をご覧頂きありがとうございます。
現在、第一部終了まで書き溜めてあるので、しばらくは毎日更新を続けさせて頂きます。
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