第2話 見習い魔王の目覚め
「……えーと、どこだここは?」
気付いた時には、薄暗い広間の様な場所にいた。
巨大なホールの様な、だだっ広い空間に石畳みが敷かれており、最奥には大きな玉座が鎮座している。
一見して、古城にある玉座の間の様だが……
何故か俺は、その大きな玉座に腰かけている状態で目を覚ました。
「……いや、さすがにわけが分からんわ」
さすがに理解ができなかった。
確か、ベッドの上にいたことまでは覚えているが…
俺の記憶が確かならば……間違いなく死ぬ寸前だった様な……
だんだん、記憶が追い付いてきたが、どう考えてもあれは一般的に言うご臨終の状態だった、
自分でも気持ち良いくらいの鮮やかな最後だったと思う。
それが何故か、知らない場所で謎の玉座に腰かけているとは……
どうしてこうなった?
玉座の上でひたすら混乱していると、どこからか女性の声が響いてきた。
「もしもし、聞こえてますかー?」
「な、何だ!?」
誰かいるのか?周囲を見渡しても誰もいない。
「もしもーし、ここですよー、上ですよ、上見て下さいよ上、ちょっとこの可愛い声が聞こえないんですかー!!」
どうやらこの騒がしい謎の声は俺の頭上から聞こえてくるみたいだ。
ゆっくりと頭上の方へ目を向けると、そこには1匹のコウモリがいた。しかも、このコウモリは普通とは違い毛並みは鮮やかな紫色をしており、更に目の色は金色だった。
……コウモリが言葉を話している?
これは夢か、夢なのか?
「ああ良かった良かった、やっと気付いてくれた。こんな可愛いコウモリちゃんに気付かないなんて何のために生まれ変わったんだか、全くもう」
紫色のコウモリはさらっと悪態をつきながら目の前に降り立った。紫の毛色に目は鮮やかな金色をしている。
その態度も含め、とても普通のコウモリとは思えなかった。
「初めまして!私はこのダンジョンの中でガイド役を務めさせて頂く者です!精一杯頑張りますのでよろしくお願いしますね、魔王様」
今ものすごい事を言われた気がする。
さっきから突っ込みどころが多すぎて、処理が追い付かんわ…
ダンジョン?ガイド役??
そんで最後に魔王様……
魔王様?
魔王様!?
「あのさ……今、魔王様って言った?」
「はい、聞こえてませんでした?その顔の横についてる耳の様な物は飾りですか?」
「ものすごく口悪いな!いやいや、ばっちり聞こえてたけど何で俺が魔王?何かの間違いじゃないの!?」
「あなた様は確かにこのスフィアースに災厄をもたらす存在〈魔王ヤクモ様〉として生まれ変わりました。おめでとうございまーすいえーい」
「魔王ヤクモ……って何で俺の名前が!?ていうかスフィアースだと?」
この謎の紫コウモリの言葉の一つ一つが驚くべき内容だった。
スフィアースってことは、ここは『NHО』の世界なのか!?
……ということは、これはあれか、俗に言う異世界転生ってやつか?
病気で死んでから、ゲーム内の魔王として転生してしまったってやつなのか?
「いや、でもまだ信じれないっていうか……」
「もう魔王様、ウジウジと辛気臭いですね、自分の姿でも見て現実を受け入れて下さい、はいどーん!」
謎の紫コウモリの合図で目の前に巨大な鏡が現れた、その鏡に写った自分の姿を見ると、まず顔のパーツは変わってないな、髪型は銀髪の長髪になっている…耳は先の方が少し尖っているし顔色は僅かに青白い様に見える…
服装は、禍々しい漆黒の鎧を身に着けており、腰には更に禍々しい装飾が施された剣を帯びている。
いや、姿形はどう見ても魔王だな、俺が思い浮かべる魔王より魔王っぽいな。
「あの……何で俺が魔王になってしまったのか、ご説明頂けますでしょうか……?」
「はい、良い質問です。それについては、手紙を預かってるので読んで下さいな」
謎の紫コウモリがそう言うと、天井の方からひらひらと封筒が舞い降りてきて、ちょうど俺の目の前に落ちた。
これが手紙か……よし、一応読んでみるか。封筒を開けて中身を見てみるとやたら達筆な日本語で文字が書かれていた。
◆◆◆◆
やあ、ヤクモ君、この手紙を読んでいるということは無事に転生が成功したということだね。
私は君たちの世界で言う所の神と呼ばれる存在だ。
君たちの世界の管理を任され、長い間全ての命のあれこれを見守ってきた存在だ。
その神の力で君をこの世界に転生させたんだ。
では、何故君を転生させたのかって?それはね、私はもう長い間退屈で退屈で仕方なかったんだ。
君たちの世界が生まれる遥か昔から、それはもう暇を持て余し続けた結果、自らの手で新たな世界を作って色々な事を試そうと考えた。
それで君達の世界でやたら流行ってるゲームを参考に異世界を作り上げたんだ。
今の所、思った通りに異世界は育っていってるが、最近また予定調和でつまらなくなってきてしまった。
それで新しい流れを作るべく、丁度人生を終えてしまった君を転生させたって訳だ。
死に際にゲームの続きをプレイしたいーって強く念じてたしね。
では、何故魔王なんかにしたんだ?って顔してるね。
それは本当に仕方がなかったんだ。
最初は人間側で転生してもらおうかって思ってたんだけど、とあるイレギュラーな事態が起こったんで、どちらかというと魔王側に適正がありそうな君を抜擢したって訳さ。
まあ、納得できないかな?それに関しては、本当に本当にすまないと思ってる。
でも私は、君があらゆる困難を乗り越えてこの世界に災厄をもたらす立派な魔王となることを信じているよ。
必要な知識は全てそこにいるコウモリに全て教えてあるから、何でも聞いてくれるかな。
それでは、またお目にかかれることを楽しみにしながら、挨拶とさせてもらうよ。
神より
◆◆◆◆
ふざけんなよまじで……
じゃあ何か?俺は神様の気まぐれでこうして魔王として転生させられたってことか?
まあ、どうせ病気で死んでしまった身だ、確かに転生させてもらえたのは有難いが、ちょっとこれは酷過ぎるだろ。
大体、俺は平和主義だ、世界に災厄をもたらす存在になんかなれねーよ。
「おい……手紙には必要なことはあんたに教われって書いてあるんだが……」
「私はあんたじゃないです」
「……いやでも、まだ出会ったばかりだし」
「普通、会ったばかりであんたとか呼びます?いやまじで信じられないし」
「すいませんでした!!何てお呼びしたら良いでしょうか!!」
何なんだこのやり取りは……
「私の名前ですか?何だと思います……?」
「いや、さすがにわかんねぇって、教えてくれるかな?」
「正解は……まだ名前は無いので魔王様が付けて下さーい」
「お前いい加減にしろよ」
いちいちやり取りが面倒くせえ!名前を付けろだぁ?
「何で俺が名前なんてつけなくちゃならないんだよ!」
「これから長い付き合いに嫌でもなるのに、名前が無いと不便で仕方なくないですか?あ……魔王様って、相手をおいとかお前とか顎で使うタイプなんですか?今時そういうのはどうかと思いますけど」
この紫コウモリ、一つ言い返したら十倍にして返してくるタイプだな、心底面倒な奴だ……
「じゃあちょっと考えるから少し待っててくれるか」
「はーい、わくわく」
紫コウモリは期待に目を輝かせてこっちを見ている。下手な名前を付けるとまた何を言われるかわからんな。俺はしばらく考え込む。
「よし……じゃぁこういう名前はどうだ?お前の紫の毛色に因んで〈シオン〉だ!」
「……シオン?ええ!シオンですか!可愛い気もありつつ、私の知的な部分もカバー出来ている様な……素晴らしい名前です。私気に入りました。ありがとうございます!やればできるじゃないですか魔王様」
「やっぱりうるせーなこいつは」
まあ、かなり満足してもらえたみたいで一先ず良かった。これで話を前に進められる。
「それで俺はこの世界で一体何をすれば良いんだ?」
「はい、魔王様に与えられた使命はただ一つ、このスフィア―スに大いなる災厄をもたらすこと!これがメインミッションだと思って下さい!」
いや、だから俺は別に世界に災厄とか望んでないっつーの。無理矢理魔王にされて誰が好き好んで災厄とかもたらすんだって、大体災厄って何だよほんとに……
「いや、ちょっとそんな事急に言われてもしんどいです……」
「しんどいって言われてもしんどいです、頑張れ魔王様!」
「うるせーバカコウモリ」
「シオンでしょー!シ・オ・ン!」
駄目だ、こいつと話してるとペースが狂いっ放しだ。まともに話が出来ないぞ。
「はあ……もう良いから話を進めようか、災厄をもたらすって言っても具体的に何をしたら良いのか全くわからんぞ、ここがどこかもわからないし」
「ははーん、魔王様は急に壮大な話をされてビビってますね?わかりました!今から魔王様がまず何を成すべきかを説明させて頂きます」
「いや別にビビってねーし!」
「まあまあ、それではまず魔王様の現在位置から説明しますね、ここはスフィア―スのとある国の敷地内にある、地下ダンジョンの最深部に位置します。その名も〈大迷宮〉、この〈大迷宮〉が基本的に魔王様の根城となります」
……なるほど〈大迷宮〉か。
〈大迷宮〉とは『NHО』に何ヵ所か存在していた大型ダンジョンだ。
基本的には洞窟型で地下に潜っていく形になり、最深部のボスを倒せばクリアとなる。
『NHО』ではさすがに魔王は出なかったが、強力な魔物達が待ち構えていた。
俺はゲーム内では2ヵ所の〈大迷宮〉を攻略したが、最深部のボスはそれぞれ、フェンリルと雷龍だったな。
「この最深部の玉座の間は、魔王様専用の部屋となっています。この部屋にいる限り、他の魔物等に襲われることはありませんので、最初はこの玉座の間をベースに探索されるのが良いですよ」
「え?魔王なのに、魔物に襲われたりするのか?」
「はい、この〈大迷宮〉内には瘴気が充満しており、その瘴気から魔物は自然に生み出されてきます。これらの魔物には魔王様への忠誠心などこれっぽっちもございませんので、気を付けて下さいね」
そうか、魔物だからといって、当然の様に魔王の味方とかでは無いんだな。
「魔王なのにそこらの魔物に負けたりするのか?」
「はい、今は魔王様とは言え、生まれたばかりのダメダメ弱小魔王様です。強力な魔物には勝てない場合も多いので、気を付けて下さいね。せっかく転生したのに無駄になってしまうので」
「お前は本当に一言多いよな」
「はい!ありがとうございます!」
「ほめてねーわ」
駄目だ、こいつといると突っ込んでばかりだ。
「続けますね?魔王様は最初はこの〈大迷宮〉内でご自身のレベルを上げて下さい。そして十分に外の世界でも戦っていけるレベルになれたら、外に出られる様になるシステムとなってます」
「最初は〈大迷宮〉の外に出られないのか?」
「はい、魔王様の今の力では外ではとても生きていけませんので」
……今の俺ってそんなに弱いのか、そういえばステータスって見れるのか?
頭の中で念じてみたら、目の前にステータスが浮かび上がってきた。
名称:ヤクモ スメラギ
クラス : 見習い魔王
ランク : C
Lv : 1
HP : 442/442
MP : 388/388
攻撃力 : 321
防御力 : 289
魔法力 : 472
素早さ : 333
スキル :魂の共有
鑑定
闇魔法〈Lv1〉
「おお、本当にステータスが見れるのか」
「はい、ちなみにスキルはそれぞれ詳細の確認も出来ますよ」
……やはり最初は見習い魔王なのか。
ステータスは、見る限りなかなか強い気がするが、生まれたばかりでランクCとはさすが魔王だな。ゲーム内では、ランクCのモンスターは村一つを一体で壊滅できるレベルだったからな。今の俺でも村一つくらいは余裕で破壊できるのか、やんないけど。
個別のスキルを確認して行くと。
魂の共有:魔王の魂を分け与え、モンスターを眷属化できる。眷属化できるモンスターの強さは、魔王の強さにより変動する。現在の眷属化可能数 4体
鑑定:相手のステータスを鑑定できる。
闇魔法:レベルに応じて闇魔法を使用できる。
Lv1:ダークアロー
闇魔法は『NHО』でも存在してたからわかる。
後一つ、魂の共有に関しては、シオンに詳細を聞かなければならない。
「いや強いじゃん、このステータスで生きていけないって、外はどんな修羅の国なんだ?」
「ふふふ、世の中そんなに甘くないんですよ、これだから生まれたての甘ちゃんは」
「お前そろそろはったおすぞ」
……いかんいかん、また脱線しそうだ。
「この魂の共有っていうのはどういう風に使うんだ?」
「はい!そのスキルこそが魔王様の真骨頂です。魂の共有は、魔王様の魂を相手の魔物と共有し、眷属化することが出来ます。こうやって仲間を増やして行くのが成長への一番の近道となりますね」
なるほど、こんな所でどうやって魔王の軍団を作るのか謎だったが、この魂の共有を利用するのか。
最初はどうなることかと思ったが、何とか戦えそうな気はしてきた。まだ全然頭は整理できていなし、世界に災厄をもたらすつもりは毛頭無いが、せっかく与えられた2度目の人生、楽しんでみるのも悪くは無いのかもしれない。
「なあシオン、俺はとりあえずこの〈大迷宮〉でレベルを上げるよ、そして外に出る」
「そうですね!そしてそのままこの世界を火の海に!」
「沈めねーわ!……まあまだ使命だなんだって言われてもよく理解できないから置いといて、まずは外に出る事を目標にしようと思うんだ」
未だに状況が呑み込めず混乱しているが、自分がすべきことは固まってきた気がする。
当面は、この〈大迷宮〉から脱出することを目標にするか。
「はい、私は魔王様のお供として付いていくのみですので!」
「……よし!それじゃあいっちょやってみるか!行くぞシオン!」
(……どうせ一度は病気で失ったこの命、出来る限りのことはやってみるか!)
こうして、俺の魔王としての新たな人生が始まったのだった。
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