第12話 遭遇、ゴブリンキング
突如聞こえてきた凄まじい音量の咆哮に俺たちはすぐさま身構えた。
「こ、この咆哮は……ゴブリンキングですよ!魔王様!」
「……何!?ここにいるのを気付かれたか!?」
咆哮が終わると同時に、ドスンドスンと轟音が響き始めた、これはどうやら足音の様だ。
恐ろしく巨大な足音が明らかにこちらに近付いてきている。
「どうやら、とうとうお出ましだな。ラセツ、シオン、準備を怠るなよ!ソフィアはどこかに隠れていてくれ」
「はい!」
「おう!」
俺とラセツは剣を構え、シオンは後方へ下がり、いつでも魔法陣を発動出来る様に準備をしている。
ソフィアは、どこかに隠れた様だ。
万全の状態で足音が響く方向へ構えていると、足音はどんどん近付いて来て遂には気を抜くと立っていることが出来ないくらいに振動が激しくなってきた。
「……どこから来る!?姿が見えないぞ!」
「油断するなよ!主よ!」
足音はもうすぐ近くまで近付いて来ているが、肝心のゴブリンキングの姿はまだ見えない。
俺とラセツはさすがに焦りを隠せない。シオンも顔を引きつらせながら、魔法陣発動のための魔力を溜めている。
3人の緊張が極限まで達したその時……
「グルルルルォォォォ!!」
凄まじい轟音と共に、俺とラセツの真横の石壁が爆ぜた。
何とゴブリンキングは石で出来た壁をぶち抜いて向かってきた様だ。
「……な!?」
「……ぬおお!?」
砕けた石壁の破片が辺りに飛び散り一瞬視界が奪われた。ゴブリンキング相手にこの状況はヤバい!
「〈ダークウエーブ〉!!」
俺は瞬時に〈ダークウエーブ〉を発動し、周囲に飛び散っている石壁の破片を一掃した。
「ラセツ!シオン!大丈夫か!?」
「……主、我は大丈夫だ」
「私も無事です!」
良かった、二人とも無事の様だ。
〈ダークウエーブ〉によって弾き飛ばされた石の破片がは一掃出来たが、周囲にはまだ砂埃が舞っており、視界が確保出来ていない。
その砂埃の中に大きな影が見えた。
どう見ても10メートル程度はあるその影は少しずつ動き出している。
いつしか砂埃が収まりその姿が露わになった……
普通のゴブリンよりも何倍も巨大な体躯に身の丈程もある戦斧を担いでいる。
深い緑色の肌は岩の様にゴツゴツしており、頭上には巨大な象牙の様な角が2本生えている。
目つきは鋭く口には巨大な牙が見える。
紛れもなくこいつはゴブリンキングだ……
想像以上の化け物の出現に、心の底から畏怖を抱いた。
「確かに、こいつは本物の化け物だな……正直言って勝てる気がしないわ」
即座に〈鑑定〉を使用する。
名称:ゴブリンキング
ランク : B
HP : 2962/2962
MP : 2020/2020
攻撃力 : 2922
防御力 : 2821
魔法力 : 801
素早さ : 2011
スキル : 咆哮
斧術〈Lv8〉
毒撃
HP自動回復〈Lv6〉
……いくら何でも強すぎる!CランクとBランクではここまで力の差があるのか。俺のステータスで勝てているのが魔法力しかないとか、まじで無理ゲーじゃねぇか!
しかも、突然の襲撃でゴブリンキングを挟んで二人と分断されちまった!このままだとシオンの魔法陣に辿り着く前に殺られてしまう……
「シオン!魔法陣を発動してくれ!ラセツと一緒に魔法陣が発動次第、俺を待たずに逃げるんだ!」
ゴブリンキングの向こう側にいる二人に大声で指示を出す。
「はい!転送用魔法陣発動!」
シオンがすかさず魔法陣を発動、ゴブリンキングの向こう側が青白く発光するのが見えた。
……よし、後は俺があの魔法陣に辿り着けば…
「グルゥアアアア!!!」
その時、ゴブリンキングが突然斧を振りかぶり俺に向かって突っ込んできた、早い!!
俺はすぐさまバックステップを行いギリギリで攻撃を避けつつ〈ダークアロー〉で攻撃を試みる。
〈ダークアロー〉はゴブリンキングの顔面へ真っ直ぐ飛んでいき、ゴブリンキングの鼻っ柱の辺りで小規模な爆発を起こしたが、当然の様に全く怯みもしていない。
「グルゥ……」
ダークアローが直撃した所を指先でポリポリと掻いてやがる、どうやら痒いみたいだ、こんちくしょうめ。
(……これじゃ何発撃ってもダメージも入らないよな……さて、どうしてくれようか)
どうやってこの危機を切り抜けようかと考えていると……
「〈鎌鼬〉!」
突然、真空の刃がゴブリンキングの背後から飛んできて肩口に直撃した。ラセツの〈剣術〉スキルだ、まだ逃げてなかったのか……やはりステータス差の影響かゴブリンキングにはかすり傷一つ付けられていないが、ゴブリンキングは何事かと真空の刃が飛んできた方向を向き、そこで初めて魔法陣の青白い光に気付いたようだ。
「ガァァ!?」
露骨に驚いてやがる!しかしこの隙は逃さないぜ!あいつにダメージを通すならこれしかないだろう!
「〈魔王剣〉発動!」
俺の剣が黒く禍々しい光を帯び凄まじい魔力を放ちだす。
そのままラセツの方向へ気を取られているゴブリンキングへ飛び掛かり、全力で剣を叩きつけた。
「グルゥアァ!?」
突然背後から切り掛かられたゴブリンキングは流石にダメージを受けた様だ、一瞬戸惑った素振りを見せたが、すぐに振り向き様に巨大な斧をこちらに向けて振り回してきた。
……危ねぇ!反射的にしゃがみ込み間一髪回避する。当たったら頭が吹っ飛んでる所だぜ!
ゴブリンキングの攻撃を喰らえば恐らく一撃で死んでしまうだろう、今はそれ位の力の差があるのは間違いない。
攻撃を避けたその足でゴブリンキングの脇をすり抜けラセツ達と合流した。
魔王剣の直撃でどれくらいHPを削ることが出来たんだ?試しに〈鑑定〉してみると……
HP:2711/2962
冗談だろ!?間違いなく、俺の最大火力を誇る〈魔王剣〉を渾身のタイミングでぶち込んだのに一割も削れていないのか!?
しかも、傷口がみるみる塞がっている様に見える。HP自動回復の効果か、確かスキルレベルは6だったな、あれではあっという間に全快してしまうだろう。
(あーやっぱり無理ゲーだな。出直すしかないわこれ)
「悔しいが逃げるしかないな、ラセツ、シオン、撤退するぞ!」
「はいー!」
「おう!」
見るからに怒気を孕んだ表情でこちらを睨み付けるゴブリンキング、今にも飛び掛かってきそうだが、その前に魔法陣に辿り着くことが出来た。
「おい、ゴブリンキング……俺はまた帰ってくる、その時まで首を洗って待ってろよ!」
「うわぁ、魔王様……絵に描いた様な負け台詞ですねー」
うっさいわ!だって悔しいだろうが!
こうして俺たちは魔法陣にて命からがら、玉座の間へと転送された。
ゴブリンキングとの初遭遇は文句なしの負け戦だった。
あーあ、そういえば転生後初の負け戦だな、ちょっと色々と対策を考えて必ずリベンジしてやるからな!
作品をご覧頂きありがとうございます。
現在、第一部終了まで書き溜めてあるので、しばらくは毎日更新を続けさせて頂きます。
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