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異世界派遣社員の暗躍  作者: よぞら
焔の章
41/42

尋人

 「青い空に舞い降りる花弁雪、剝き出しの白い海底、眩しいレアだけは変らないな。」


 数日前まで海岸沿いであった道を進むパティは、変わり果てた景色を鼻で笑った。雲一つない空から雪が降りしきるというのに寒さなどなく、常夏の気温もままであることが異様である。

 パティはテリアが監視するエリーと共に八番島エイヴァへと足を進めていた。

 スイに呼ばれて急行してみれば軍が再びエリーを何かに巻き込もうとしていると泣きつかれ抱き着かれ助けを求められた。

 フィレナキート諸島最高幹部の要望を断るわけにいかないと理由付けパイロープ帝国最高幹部のテリアを黙らせて急遽随行することになったのだ。


「さて、面倒事の内容を教えてもらおうか。」


 先導するエリーに問うと申し訳程度に振り向きながら大きな溜息が返ってくる。面倒くさいと全身で表現しているようだ。


「偵察部隊が空路からも陸路からも中枢に辿り着けないっていうから俺が将軍様直々の命令で行くことになったんだよ。」

「何故店に向かう。ナール島から直接空路を使えば早いだろう。」

「店の地下に風道があるからそれを使えば八番島の中枢に飛べるからね。」


 風道とは魔術と科学を複合した転移装置だ。転移過程の術式は魔術だが供給エネルギーは電力で補っているため魔力のない人間でも使うことができる。この世に二つとない電動式魔術展開装置にそれは便利だと頷きかけたときパティはエリーの服を掴んだ。


「なんで禁止区域の神域に各国のトップが喉から手を出すほど欲しがる理論上は可能であると発表された最先端技術の装置があるんだよ。」

「八番島の管理は七番島の神官がやる事になってるからね。移動に便利だし何かに遭遇してもすぐに逃げられるようにいくつか作ってあげたの。」


 つまり、八番島エイヴァを統括しなければならないスイの為だけに機材を運ぶ労力も惜しまず大掛かりな装置を組み立てたという事になる。それも理論上から発展しない装置を実現させたとう信じられない功績付きで。


「因みに一番島神官様に各寺院にも造らされたよ。」


 秘密にしていたが、スイは素直に上司に報告したらしい。会合時の移動はかなりの負担であり口外しない事と使用者は神官と副神官のみという制約のもとエリーは作ることになった。はじめは拒否したがミーネを味方にしたスイに頼み込まれ負けたのだ。


「可愛い女の子二人に懇願されたら断れないよね。」


 話を聞いたパティは引きつった笑いで頬をけいれんさせていた。テリアに至っては絶句している。


「本当にここの女どもには甘いんだな。元同僚の女の為にも何かしようと思わないのか。」

「額で岩盤叩き割る人間を庇護が必要な女とは認めないよ。」

「それがアキシオンだ。」


 パティはすかさず反論するが真実なので否定はできない。


「パティは俺が守る必要ないでしょ。」


 語尾に続いた守りたくもないけどという言葉が聞こえていれば確実に蹴られていただろう。話しているうちにモティールへと付き、3人は地下にある魔法陣の描かれた4面鏡の間に入る。

 風が吹き荒れて浮遊感の後、樹海の真ん中にいた。

 爆心地から1キロメートルほど離れていたこともあり装置は無事であった。

 獣などに荒らされないように地中に埋められた装置は魔法陣の描かれた石板のみが露出している。少し煤けているが損壊はない。


「なによ、これ。」


 3人の目に映る景色はローズレイアの影響で焼けただれた木々の燃えカスのはずだった。しかし、鬱蒼とした木々と霧。


「相変わらず愉快な場所だな。」


 異常地帯の中心全てに潜り込んでいたパティだけは笑っている。


「誘い込まれて外に出されるか、罠にはめられるか。どっちにしろこのままでは辿りつけまい。」


 ふいにエリーが指を鳴らすと木々が無くなり炭となった景色が広がる。転々と咲く黄色い花が魔術の炎で燃えていた。


「勝手に解決してないで説明しなさいよ。」

「誘導幻覚を起こす旧時代のセキュリティだよ。」


 幻覚を誘発する黄色い花。物理的に侵入者を排除する赤い花。魔法の様な存在が科学技術など十分に発展した科学は魔法と見分けがつかないとはよく言ったものだ。

 鬱蒼とした木々が消え、霧が晴れると500メートル級の巨大な縦穴が広がる。

 燃え落ちた巨大樹の根が露呈し100メートル程下にある遺跡と化した都市を飲みこんでいる様が顔を覗かせた。

 穴の中心部には木の根が絡まる塔のような建物。

 頂上部に広がる広場はローズレイアが落ちる前と変わりない姿を残しており、赤い花畑に囲まれた本神殿遺跡がある。

 エリーは風に乗るように空を飛んで移動するとテリアとパティも魔道式空中飛行ボードへ乗り後へ続いた。

 踏み込むと死臭が漂う赤い花畑に囲まれた遺跡と6体の氷像。所々、白い粒状のものと軍服が落ちてる。塩化症候群で命を落とした兵士達だ。


「まったく無残なものだな。」


 捕獲すら叶わなかった存在があっけなく目の前に拘束されている姿にパティは眉を潜める。何年も抗争を繰り返し、好敵手のような関係であったというのに。


「招かざる訪人が何の用。」


 聞き覚えのある声に目を向けると見知った姿が花畑に立っていた。


「……マキ君。」

「当アトラクションはメンテナンス中の為、運行を中止しております。尚再開の目途は立っておりませんのでお引き取りください。」

「相変わらず君の言葉は理解に苦しむね。」


 マキは赤い花の傍に咲く青い花を手に取ると大切そうに積んだ。すると景色が電脳空間のように数列が並び移り替わった。草も花も木も空も積み木で作られたように角ばった不思議な空間だ。マキは石のような色をした長方形の物体に座る。


「じゃあ、理解できるように話してやるから後ろの二人をなんとかしてくれない?俺はかお前らと違って硝子の少年だから怖ぇんだよ。」

「テリア君、パティ。凶悪な顔引っ込めて。」


 武器を構えて臨戦態勢をとる2人に忠告すると同時に、振り上げられた武器は左右から同時にエリーへと放たれた。


「貴様が言うな。」

「あんたが一番凶悪よ、この悪魔。」


 魔動式ロッドと魔動式熱線刃を難なく受け止めたエリーは2人の武器に魔力を流して無効化する。呆気なく受け止められたことと武器を無効化されたことに内心冷や汗を流しつつパティとテリアは下がった。


「それで何から教えてくれるのかな。」

「何が知りたいか察せないから応答形式で頼むわ。内気で消極的だからおしゃべり苦手なの。」


 マキは手元の青い花をくるくると回しながら視線を合わすことをしない。


「君は誰かな。」

「ウォールのα元素変異体処理係の特命調律師。勤続年数33年。15日前からはウォール箱庭管理も兼任することになった元ゲーマーのしがない社畜の派遣社員だ。」

「何言っているのか理解できない。」


 エリーは調律師との会話には通訳が必要だと常日頃から考えていた。同じ国の言語しか話していないのに話が通じないなど嘆かわしい事である。


「調律師はボスにとって都合の良い世界の在り方へ調和を促す異次元世界の手駒。R-0009の人間が理解する必要ねぇよ。」

「君の仕事内容は?」

「だーかーらー、ウォールのα元素変異体の処理係っつったろーが。」


 どうやらマキはコミュニケーション能力及び会話能力に乏しいらしい。質問をするにしても言語理解能力を視野に入れなければ望む回答はおろか対話が成り立たない。


「その職務をすることになった経緯は?」

「基本自宅警備員だけど推しのフェスに行ったらメインホールに設置されてるプールに落ちて異世界に飛ばされちゃったわけよ。ボスも統括もなんか抜けてるし正に“あ、これあかん感じの異世界転移や”ってやつでさぁ。着いて早々、鬼教官と地獄の研修やって能力に慣れた頃にここに飛ばされて雑魚エネミー駆除命じられたの。まぁ、本体は綺麗なお姉さんがいるところだから良かったけどさぁ。毎日毎日、経験値も稼げないような雑魚ばっかで嫌になっちゃうたいやき君の気分が心に沁みたよねー。」


 おしゃべりが苦手だと告げた人間の口から放たれるマシンガントークにエリーは絶句する。


「……何言っているのか理解できない。」


 ここからが長かった。

 エリーが何度も質問内容を絶妙に変更し、マキの口から正解が出るまで紆余曲折があった。

 時間をかけて引きだした情報によると、魔力や神力の元となるα元素と呼ばれる元素の濃度が20年程前より急激に高まりウォール諸島共和国内の動植物に変異をもたらした。それらはα元素変異体と総称されてエリー達が神使と呼んでいる生き物であり、調律師達は特殊な周波を流し八番島エイヴァへとおびき寄せて秘密裏に処理しており島民に被害が出ないようにしていたとの事だ。


「……なんて事かしら。」


 それを知る過程で得た一つの真実にテリアが頭を抱えた。なんと海祟は調律師の仕業だったのだ。とある調律師が異能で作ったα元素を吸収する人型の錬金人形。

 10日に一度、浄化施術をしなければ体内のα元素が限界地を超えると黒く燃えてしまうという。帰還プログラムで限界を迎える前に回収して5日に一回ローテーションを組んで浄化していたが年々増すα元素により、数十体に一体は帰還前に限界を迎えてしまう人形が多発してしまった。

 これが行方不明者と一致しない身元不明変死体のトリックだ。


「貴様がリュティーアシーカを使っていたのはα元素変異体とやらの処理の為か?」


 意気消沈しているテリアを慰めるように肩を叩きパティが質問を投げるとマキは嫌な顔をした。


「お前の質問には答えない。」

「……マキ君、リュティーアシーカは何の為に使っていたの?」

「始祖ヴィーと融合した調律師ヨウと対抗する為だ。」


 同義の内容だというのにエリーの質問にはあっさりと答えるマキへパティは殺意を催した。


「始祖って稀人の事だよね。」

「そ、残念ながら現存する始祖の6人は生死不明。残っているのはヴィーだけ。あんたもあっただろう?」

「……あの女の子か。」


 赤い瞳を持った白髪の少女。圧倒的な力で調律師達を無力化してねじ伏せた。寸でのところでアーシーとパティ、スイを逃がせたことは奇跡に近い。

 エリーはいまだに六花の結晶文様を残す左手を無意識に抑える。


「それもだけど40年くらい前からネブリーナにいただろう。ハニー・エヴァレットって言ったかな。」


 マキの指摘にパティとエリーの目が驚愕に丸まる。彼の存在は極秘中の極秘だ。それを知り得るなど流石調律師といったところか。


「どっちか説明なさいよ。」

「ハニー・エヴァレット。通称イブと呼ばれる真っ白な髪と体をした原初のアキシオンだ。不老不死の体を持つがまともに動かない木偶の坊だけどな。オイ、でたらめ言うな。奴はネブリーナの最深部の施設だ。」


 テリアに説明した後に指摘するパティにマキは笑った。


「思念と身体が別々に動いてるんだよ。」

「どんな原理だ。」


 パティの威嚇するような鋭い眼光を受け流す。


「やっとネブリーナの大事なところを覗き見成功してさ。色々調べた結果、ハニー・エヴァレットは人造魔導師なんかじゃない。幽霊みたいな能力を持つ始祖ヴィクトル・ブランシュ、通称ヴィーだ。良い拾い物したね。」


 始祖は稀人。稀人は千年程まえに降り立った12人の超人。

 そしてその一人であるヴィクトル・ブランシュだというハニー・エヴァレット、イブは原初のアキシオンだ。


「お前らアキシオンは始祖から採取した細胞をもとに培養された遺伝子組み換え複製生物ってことだよ。ネブリーナの科学者って奴は倫理も哲学もないね。」


 余りの事にテリアはその場にへたり込んだ。模造人格であるといってもパティとエリーも驚きを隠せない。


「アーシーがあんたの近くで氷の足跡を見つけたんだ。ヴィーはアデルを慕っていたから成程って思ったね。」

「……アデル?」

「アリスティア・キャンベルっつー名前のあんたと激似の消滅した始祖の一人。」


 言われて自身が稀人と同じ顔をしていたことを思い出してエリーは手の平に顔を埋めた。


「だから俺たちは利用したんだ。」


 アルド公国で見た足跡と酷似していた為、調律師達はヴィーが近くにいると確信した。

 マキはリュティーアシーカを育む為にα元素変異体を狩っていた。ミーネやスイを狙ったのも力を得るためだった。エリーを襲ったのは隠れるヴィーを揺する為でもある。

 そしてローズレイアという神殺しの兵器を用意し、賭けに出ておびき出すことに成功したものの力及ばず惨敗に終わったというのが今回の顛末。


「……俺を恨むジル大佐は陽動にうってつけだったわけか。ローズレイアの裏コードを教えたのも君たちなの?」

「除き趣味の変態調律師がいてな。そいつとアーシーと軍に潜り込でる奴が徒党を組んで悪だくみを成功させたってわけだ。」


 ジルは始祖を殺す為に作ったローズレイアを始祖ヴィーへ落とすため調律師達に利用された。しかし唆されたとしても決行したのはジル自身だ。

 傀儡されたわけでも行動制御されたわけでもない。己の判断で落としたのだから責任は彼にあるだろう。


「……随分と素直に話すね。」

「お前らに構っている時間ないから。存在を認知されていない俺たちの事を口外したとしても頭を疑われるだけだし。」


 稀人の存在は認知されているが肯定されていない。ネブリーナ皇国にてデータが発見されたが知るのは一部のみ。

 未知との遭遇にテリアは理解が追い付かず、エリーとパティですら童話に迷い込んだ気分だ。


「なんにせよ俺達は俺達で世界を救う為に動いている。出来ればそっとしておいてほしい。」


 再び景色が電脳空間のように数列が並び移り替わった。遺跡と赤い花畑。何処からともなく霧が現れて姿を隠しだした。


「なぁ、アーシーを助けてくれてありがとう。」


 完全に消える前に礼を言うマキの笑顔は美しいものだった。


「このまま逃がして良いのか?」


 パティの問いかけに気づかないふりをしているのかエリーは何も答えない。

 幻覚として現れた樹海の中で雪だけが静かに降っていた。


「戻ろう。きっともうここに立ち入ることはできないはずだから。」


 ここまですんなり入れたのは入れてくれたからだろう。調律師の持つ科学技術は現在の科学技術の数百年先にある。

 最高レベルのセキュリティ装置が配置されるはずだ。


「って、どうするのよ。馬鹿大将になんて報告すんのよ。」

「……海祟は謎のまま、八番島エイヴァは立ち入り不可の禁域になるだけさ。」


 エリーは霧が濃くなる中、本当の景色が見えるうちに移動するべく踵を返した。

◆風道…魔術と科学を複合した転移装置。


コミュニケーション能力と会話力がゼロに等しいマキ君は目を合わせておしゃべりできない。

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