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異世界派遣社員の暗躍  作者: よぞら
蝶の章
12/42

獲物

 時はフィレナキート諸島に定められた暦上の休日の前日まで遡る。

 銀髪の少年マキは駆除の任務をするべく蠢く異形と対峙していた。


「Ready to fight!」


 意気揚々と好戦的な笑みを浮かべ、短剣を片手に身を翻した。

 目の前の一体は二本の鋭い角を持つ甲虫に似た巨大な生き物。その頭を思われる部分を斬りつけると角を掴んで飛び上がる。すると巨大な生物は黒く焼け爛れて干からびた。続けてマキは突進してきた別の異形に飛び移る。二体目も直ぐに一体目と同じ運命をたどった。

 着地したマキの周りに平たい体系をした8本足の虫が何匹もワラワラと湧きだした。正面に規則的に並んだ九つの目はマキの姿を映している。

 カチカチカチと虫の歯が鳴った。縦に開いた口には黒い歯がびっしりと並び、トロリトロリと粘液を滴らせている。ぞっとする醜悪さだ。


「げっ、ペリタじゃん。」


 マキは舌打ちをしてその虫を睨み先手必勝と蠢く虫の群れに斬りかかる。地面には黒く爛れた歪な肉塊がボトボトと落ちた。


「Finish!」


 最後の一匹にとどめを刺して異質な死骸へと変貌させると静かになった当たりを見渡す。


「エルヴォランテにペリタ。……雑魚ばっかり。」


 息を吐いて手に握る短剣を見ると漆黒に染まっていたことに気づく。


「やっと三本目が完成とか、無理ゲーじゃね?」


 マキは短剣、魔導武具であるリュティーアシーカを身ながら首を捻った。最低五本は完成形態に仕上げる必要があるのだ。制限時間はイエローゾーンへ入っている。


「時間なさすぎなんですけどぉ。」


 どうしたものかと頭部をかきながらチンピラのように屈むと影が差した。


「休憩なんていらない奴がサボるなよ廃人ゲーマー。」

「うっわ出たよ鬼教官。」


 いつの間に来ていたのかアーシーの登場に新人研修という名の地獄を思い出してマキはげんなりと沈む。あれは世にも恐ろしい体験でっあった。


「ノルマは?」

「あと2本。」


 完成したばかりの完全形態のリュティーアシーカをアーシーに投げ渡す。アーシーは受け取ると女子が好むようなファンシーなリュックに入れた。


「ちんたらしてないで働けよグズ。」

「働いてますけどぉ。雑魚ばっかりで経験値が溜まらないだけですけどぉ。」


 リュティーアシーカはα元素を吸うことで性能が増す。数十年前、神の領域に住まう職人が打ち上げた逸品。

 調律師すら傷付け再生能力さえも遅らせる業物だ。

 今、マキ達の手にあるリュティーアシーカは神の領域の魔術師と鍛冶師により改良が加えられ性能が格段に跳ね上がっている。その分、α元素の必要数も多いことが難点だ。


「選り好みしてるからだろ。」


 マキが狩っているモノは残留するα元素の浸食により超進化した生物であり体内に保有するα元素は少ない。

 逆にα元素汎用術を使用するα元素変異体の保有するα元素は多い。α元素汎用術は体内へ治大量のα元素を取り込む為に個体によるが瞬間的に超進化したα元素変異体に比べるとα元素保持数が100~1000倍を超える。


「獲物を選べって?」

「手段を選べっての。」


 そんなことを言われてもα元素の保有数が多いα元素変異体は殆ど人型であり裏協定もある。おいそれと手を出すことは出来ないだろう。


「野生の魔女とか逸れ魔術師とか探せって?」

「ボク達が奴らと交わしている裏協定はお互いの不可侵。神の領域のα元素変異体どもは人の領域に入る為に入軍するだろ?定住権を手に入れて退役したら保護の対象から外れるよ。人の領域の住人になればボクらの管理下だ。」

「つまり人の領域にいる軍人以外のα元素変異体を狙えって?そんなもんウォールじゃ観光客か神官か警護隊しかいねぇし国際問題になるだろ。」


 頭を抱えるマキの脳裏に一人の人物が思い浮かんだ。

 アーシーを探っていた黒い強膜と赤い瞳をした黒髪の美女。

 黒強膜族(ディーアイン)はα元素汎用術の使い手。α元素変異体の中では最もα元素保持数が多いだろう。


「顔も好みだし、なんか嗅ぎまわってるし。」


 一石二鳥とマキは手を打った。


「ターゲット決ぃめた♡」

「なんか心配だからボクも行く。」


 美しい魔女の立体映像を見て花の下を伸ばしているマキに不安を覚えたアーシーは付き添いを提案するのだった。





。+・゜・o◯.。.o・゜secret゜・o.。.◯o・゜・+。





「うっはぁ、まぶい。」


 人の賑わう市場にて目的の魔女を見付けたマキは目を細めた。他の客に紛れて買い物を楽しむ魔女は連れと別れて立ち止まった。


「白昼堂々覗き見なんて無粋なお方ですこと。」


 足を止めていた魔女は振り返って話しかけてきた。


「わたくしに何か御用かしら?」


 気配を消していたわけでもないため、彼女が気が付かれていたことに驚くことなくマキは自分好みの美女に笑いかけた。


「こんにちわ、綺麗なお姉さん。俺とデートしてくれない?」

「可及的速やかにお引き取りくださいませ。去勢いたしますわよ。」


 それだけ言うと魔女は踵を返して歩き出してしまう。


「え?待ってよ。俺たちの事調べてたって事は俺たちに興味あるんだよね?」

「わたくしが興味を持つ男性はこの世に一人だけですわ。」


 慌てて追いかけるも魔女の反応はそっけない。


「待ってよ。お姉さん。ちょっと付き合ってよ。色々とタイプなんだよ。」


 なんとか気を引こうと話しかけながら追いかけるが言葉も返ってこず、人通りの少ない路地へ出るとお目付け役のアーシーが出てきた。


「君に騙されないなんて、あの神官ってば見た目より馬鹿じゃなかったんだ。でもさ、中途半端に感と頭のいい女って扱いにくいよねぇ。」

「今度は貴方ですか。監視と尾行はバレても相手の前に姿を晒してはなりませんわ。」


 流石にアーシーの言葉には反応するが塩対応は変わらない。


「ボクは通称アーシー。11歳プラス124年。趣味は帽子集め。好きなものは林檎。嫌いなものは生魚。133センチの男の子だよ。」

「あ、ずっこい。俺、俺は通称マキ。22歳プラス33年。趣味はゲーム全般。好きなものはチップス。嫌いなものは生野菜。今のアバターは145センチの男の子だよ。」

「貴方達のプロフィールなんて興味ありませんわ。」

「数日前にボクの事ストーキングしてたからてっきりファンなのかと思って色々教えてあげたのに。」


 目じりをひくりと動かしただけで反応を返さない魔女にアーシーは面白そうに笑った。ここはアーシーに任せようとマキは一歩引くことにする。


「ねぇ、どこまで調べたの?」

「返答の必要がございません。」

「つまんない。」


 アーシーは指先で帽子を器用に回すと目部下に被った背を向け、顔だけ振り返り意味深に笑う。幼い顔と表情がミスマッチで同胞ながら不気味である。


「ねぇ、あんなつまらないヤツの所に戻るよりさ、ボクたちと遊ぼうよ。」

「そうそう。俺達といい事しようぜ。退屈はさせないからさ。」


 マキの援護射撃は功を成したようで魔女は目の下に皺を刻んで憤懣の笑みを浮かべた。表情がとても怒ってますと語っている。


「文字も言葉も扱えない野生生活時代の人類ならばまだしも、文明を築き知恵と科学の中で社会生活を送る現代人が本能を御せないなど言語道断。理性の乏しい半野生の人間モドキなど子孫を残すべきではございませんね。生殖の象徴である一物を切り落とすと致しましょう。」


 過激な魔女の脅し文句に股間が冷える。そしてマキは腰に疼きを感じた。


「うっわ、興奮する。今のでやべぇ性癖に目覚めた。やっぱ魔女さんタイプだわ。」

「汚い大人だな。そんなんだから二次元から脱出できないんだよ。」


 思わず声を上げるとアーシーに尻を蹴られたが健全な男であるのだから仕方がない。


「とりあえずボクはレディの扱いなんて知らないから不手際があっても許してね。」


 アーシーが所持する固有特殊能力の『糸』が魔女に絡みついた。ここからはマキの出番である。


「コンバート、グライダーモード。」


 マキの掛け声のあとに電子音が鳴り、サイバーデザインの四枚羽根が背中に現れた。


「飛ぶよっ。」


 飛翔するマキにアーシーは魔女もろとも糸を巻き付け後に続く。

 あっという間に海を飛び越えて八番島エイヴァへと辿り着いた。

海上の樹海。ここの土は緩く、場所によっては沼地のようになっており、移動するには木の枝を伝って行かなければならない。

 高さ百数メートルの巨大な木々が当たり前のようにあるのだ。太い根がちょっとした自然の階段を作っていた。深く根付いた木々は底なしの沼地でも潮だまりでも平気で立っている。枝も太く頑丈な為、地面を踏めないこの場所での足場に困らなくて済む。

 この樹海はとてつもなくなく広い上に下に落ちれば水の中。運が悪ければ底なし沼の中だ。

 マキは木々の枝を足場に飛び越えながらグライダー機能を駆使して樹海の更に奥へと進む。こんなところがリゾート地のすぐ傍だと誰が思うだろうか。


「予定通り円盤まで飛ぶよ。」


 八番島エイヴァの北側には直径50メートルに呼ぶ円柱の柱のような物があった。上底は平らであり一回り小さい円形が屋根のようについていた。仲間内で円盤と呼ばれているのもこの構造の為だ。

 暫く飛行していくと目当てのモノが目に入る。植物に浸食されているが自然の中の人工物は目立って良い目印だ。

 潮だまりと木々の中にある円盤に降りると、マキは羽根をしまいアーシーはミーネを開放した。


「こんなところで何をしようというのです。」


 それまで黙っていた魔女が飛んで乱れた衣服と髪を直しながら声を発する。


「マキ君。アーシー。」


 ふわりと向けられた笑みにマキは毒気を抜かれる様な感覚を覚える。同時に心を覗かれている様な、見透かされている様な威圧感に襲われた。それは蛇に睨まれた蛙のように。

 表情は綺麗な笑みを形作っているが面の皮の下は怒り狂う般若がいるようだ。美人は怒らすと怖い。

 不適に笑う魔女からは獣が獲物を草叢から狙うような押し殺した殺気がピリピリと伝わった。


「アーシー君。これってバトルスタートってやつかな。」

「好みの女だろ。楽しみなよ。」


 我関せずキャンディを舐め始めたアーシーを横目にマキは腰のホルスターから短剣を取り出した。

◆エルヴォランテ…二本の鋭い角を持つ甲虫に似た巨大な異形の虫。

◆ペリタ…平たい体系をした8本足と九つの目を持つ異形の虫。

黒強膜族(ディーアイン)…α元素汎用術を使用する神の領域の種族。


調律師サイドの動き。

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