待ち合わせ場所に友達が来るまで待つ話
今日は長い労働(学園)生活から、週に二度解放される日の一日目。
夏の長期休みが明け早数日。未だ夏の猛暑の抜けきらぬ季節に、唯一の友人である彼と出掛けるため、僕はすっかり馴染み深くなった駅前で彼を待っていた。
彼とは高校入学を機に仲良くなり、それからの無二の親友と言える存在になったと思っている。
校内ではもちろん、こうして休日の度に顔を合わせ、お互いに一人でいる時間の方が珍しいとすら言われる程仲が良い。
そんな僕たちだが、四六時中一緒にいるわけではない。同じ家に住んでいる訳ではないので、泊まりの時以外は当然お互いの家にいるし、現に今もこうして僕は一人で彼を待っている。
懐からスマホを取り出し時間を確認してみると、既に約束の時間から十分程が過ぎており、通知欄にも彼からの連絡は無い。
こうなると少し長くなる。それはこれまでの経験でよく分かっている。
「少し日陰に行こう」
駅前の、何を成して偉人と謳われる様になったのかも知らない人物の銅像から少し移動し、駅の近くにある休憩所に滑り込む。
この暑さの対策として白いキャップを被ってはいるが、どのくらいの時間待つか分からない現状、この屋根と椅子のある休憩所は、僕にとってはまさしくオアシスだった。
現代を生きる僕と同年代くらいの少年少女たちであれば、ここで耳にイヤフォンやヘッドフォンを装着し、周りなど一切気にせず液晶に表示される虚空を眺め世間から目を離すのだろうが、僕はそんな勿体ないことはしない。
手に持っていたスマホを仕舞い、先程買った、自称コーヒー党が小馬鹿にする様な甘いカフェオレをちびちびと飲みながら、周りに視線を向ける。
そこには土曜日だというのに、スーツを着て汗を流しながら忙しなく動いているサラリーマンや、子供を連れた男女、僕と歳もそう変わらないカップルなどが、皆目的をもって行動していた。
そう、僕は毎回彼を待つこの時間、人で溢れかえるこの駅前で人間観察をするのが趣味なのだッ!
だが、欲張ってはいけない。目に映る全ての人々を目で追おうとすれば、観察には成り得ないのだ。
観察と云う事はつまり、その人の事をじっくりと見定めるという事。軽く流して視るだけでは、何の情報も得られない。
僕は観察と云うものを改めて認識し直すと、気合を入れて周囲に用心深く目を配り、面白そうな人を決め、焦点を当てて注意深く観察する。するとその人物の今日の予定がなんとなく分かり、更に調子が良ければどんな人物なのかも分かる。
もしもその予想が当たっていたとしてもそれを確かめる術はないし、当たっていたからどうという話でもないのだが、趣味なのだから仕方がない。
僕は不審がられないようキャップを目深に被り、つばで視線が合わない様にちらちらと、だけど入念に周囲を観察していく。そこで面白いと思った人物や一団を選別し、時が来るまで観察するのだ。
「おっ、あの人面白そう」
そして見つけた人物は、麦わら帽子を被り、そこからさらりと流れる栗色の髪を風に乗せ、胸部にふんだんにフリルの付いたノースリーブの純白のワンピースを髪と共に靡かせる、恐らく大学生くらいの女性だった。
そんなワンピースの女性は、あまり女性に関心の無い僕から見てもファンタジーに思える程美人で、一目視界に捉えただけで、周りから他の情報が全て消えてしまったと錯覚する程鮮烈だった。
だがよく見てみると彼女はスマホを耳に当て、誰かと話しているようだった。その顔は美人には不釣り合いなほど苦悶を表しており、ただ事ならぬ事を話している事は容易に想像できた。
僕は彼女の動向を見守る事を決め、じっと観察を続ける。
距離は少し遠く、目測で十メートルはあったが、幸いにも僕は目が良く彼女の表情もはっきりと見分ける事が出来た。
それから暫く、彼女は誰かと通話し、困った様な表情や縋る様な顔をする。やがて一方的に通話を切断されたのか、まるでスマホそのものが通話越しの相手の様に悲しげな顔を液晶に向けてから、純白のワンピースを引き立てる黒いショルダーバッグへとスマホを押し込んだ。
「さて、これからどうするのかな?」
僕の予想では、彼女が通話していた相手は恐らく恋人で、会いに行くためにこの駅まで来たが、直前になり予定を白紙にされ、問い詰めた所逆ギレされたと言った所か。
暫く件の女性は俯き途方に暮れていたが、やがて僕のいる休憩所までとぼとぼと歩いて来た。
その時の表情は俯き麦わら帽子に隠れて見えなかったが、それでもどんな顔なのかは想像に難しくなかった。
やがてその女性は、僕から見て左側の、一つ挟んだベンチに座り、暫くぼーっとした後両膝をピタリとくっ付け、ワンピースの奥にある神秘を隠すと同時に、上背を屈めスマホを取り出し膝に乗せ、両手で操作する台座としても利用した。
その様子は何故か僕の目を強く惹き付け、いつもよりも迂闊な行動を無意識に選択させていた。
常であれば細心の注意を払い、絶対に目が合わない様に相手を観察する僕だが、その女性の大人の色気、純白のワンピースにも劣らぬ白さを持つ、それでいて種類の違う白さの手足に、僕は目が離せなくなっていた。
「白って200色あんねん……?」
言ってからハッとした。今の発言は意識して発した言葉ではなく、ついつい口から零れたものだ。
僕は今の発言を脳内で何度も繰り返し、件の女性に聞かれたのではと、そしてもしそうであればその後待ち受ける自分の状況を想像し目の前が真っ白になった。やはり白は200色あるのか。
恐る恐る左隣に視線をゆっくりと送る。すると女性は少し驚いた様な顔で僕を見ており、何の共通点も接点も無い僕たちは、お互いの姿を瞳に映す。という不可思議な共通点だけが生まれてしまった。
「あの……」
警戒心を思わせる声色だった。
それも当然だろう。昼間とは言え、駅前で突然見知らぬ男にぼそりと自分の容姿の特徴らしきものを口にされて、警戒しない人間はいない。いるのなら是非とも警戒して欲しい。
僕は彼女に掛ける言葉が見当たらず、お互いに目を見つめ合ったまま、ただ無為に時間だけが過ぎて行く。
それからどの位の時間が立ったのか、極度の焦りを感じていた僕は体内時計すらひっくり返ってしまっていたので分からないが、目の前を通り過ぎるおじさんの大きなくしゃみの音で、やっと現実に帰ってくることが出来た。
「……黒は、何色なんですかね……?」
やってしまった。
極度の焦りから生まれる思考の擾乱は僕の頭を完全に故障させ、意味の分からない言葉を吐き出させた。
女性は僕の言葉を聞くと同時に、先程までの怪訝な顔をより一層深め、今では眉間に皴すら浮かべていた。
わー、そんな顔でも美人だなー。等と半ば現実逃避していた僕は、既にこの場に意識は無く、空の上へと日帰り旅行の準備を開始していた。
「あっ、もしかしてアン〇カですかっ?」
その声で、僕は旅行の準備を中断し、元ネタを知っている事に少し安堵した。
そして何を思ったのか、彼女は僕の座っているベンチまで笑顔で駆け寄り、僕の左隣の空いているスペースへと腰を下ろした。
座ると同時に麦わら帽子を脱ぎ膝の上に丁寧に置くと、彼女の髪が綺麗に流れ、風に乗って女性特有の甘い香りを僕に運んだ。
「こんにちは、お兄さんっ!」
あまり慣れない匂いにドギマギしていると挨拶されてしまった。その声は近くで聞くと、予想よりもやや高めで幼げで、話し方も清楚なイメージだったがどちらかと言うと元気っ娘属性が付与されていそうな声色だった。
お兄さんと言われても、僕は一人っ子で妹はいないし、彼女は大学生くらいで明らかに僕より年上なのだが、女性が見ず知らずの男に声を掛けるならお兄さん呼びは自然な事かと思い直す。
「ど、どうも」
朗らかな笑みで挨拶され、先程の暗く沈んだ表情から一転した明るい表情と声色に、しどろもどろになりながらもなんとか挨拶を返す。仕方ない。僕に美人耐性など無いのだ。
すると女性は先程よりも一層その笑みを深め、何が楽しいのか腰を深く沈めて座り、ギリギリで地面に届かない両足をぶらぶらと揺らしていた。
それからは無言の時が流れ、彼女は無邪気と形容するに足る笑顔で暫く鼻歌を歌ってから、何か思いついた様に僕の方を見て声を掛けてきた。
「お兄さんはこれからどこに行くの?」
こてんと白く細い小首を傾げ、大きく丸い目を疑問の形に変えて真っ直ぐ僕を見つめる。
その綺麗な瞳に、一瞬硬直してしまったけど、なんとか答える事が出来た。
僕は簡潔に今は友達を待っていて、合流してからの予定は特に決めていないと、ありのままを彼女に伝えた。
すると彼女は花の様な顔で笑み、小さな両手を胸元でグッと握り、喜びを露にしていた。
「という事は、そのお友達が来るまではお兄さんとお話しできるって事ですよねっ?」
何故こんなに嬉しそうなのか、僕には全く分からない。
彼女の事すら何も知らないが、今はこの笑顔に押されて、いつもの日課を放り出してもいいかなと思い始めていた。
「い、いいですよ。僕で良ければ」
だけど、僕はこの後凄く後悔した。
冷静に、ほんの少し考えれば分かることだ。彼女は先程彼氏と言い合いをしていた。
そこで意気消沈し、たまたま近くに居た冴えない年下の男を捕まえ、愚痴の捌け口にする。なんともありふれた話ではないか。
やれ、彼氏はいつもゲームばかりしていて自分に構ってくれないだとか。
やれ、彼氏は男の自分より背の高い私を気にして隣を歩かせてくれないだとか。
やれ、彼氏はデートの時も服装や少し変えた髪型に気付いてくれないだとか。
僕は延々と、彼女の愚痴の体をした惚気話を黙って聞きつつ、少しだけ違和感を覚えていた。
「なんかその彼氏さん、子供っぽいですね」
「えーそうかなぁ?そこがまた可愛かったりしたりして~」
これはもうダメだな。
僕が幾らその男の悪い所を指摘しようと、彼女は聞く耳どころか恋故に盲目になってしまっている。
女性というのは何か相談事があると言いつつも、その実ではただ話を聞いて欲しい、肯定して欲しいという性質があるという。
彼女もその例に漏れないのか、僕が相槌を打つ暇も無く話し続けている。
一通り喋ると、今度は惚気の話題を探るために、たった数ヶ月間しか付き合っていないと先程聞いた彼氏との思い出を、全てにしっかりと目を通すには途轍もない時間が掛かりそうな写真フォルダ漁って見繕っている。
そのスマホの中身は僕には見えないし、見ようともしていないが、その写真を眺める彼女の顔は、何と言えばいいのか、凄く可愛らしかった。
「彼氏さんの事、そんなに好きなんだ?」
「はいっ!大好きです!」
出会って間もない間に、数々の表情を見せてくれた彼女だが、彼氏への想いを溢れさせた時のその表情は、僕が見たどんな表情よりも可愛く思えた。
だけど何だろう。僕は恋愛についてなんて何一つ知らないけど、この女性が彼氏を想って見せるその顔は、恋とは少し違う、強いて言うなら友情に近い気がした。
そこでふと、僕のスマホが震えている事に気付き画面を確認してみると、友人からいつもの心の余りこもっていない謝罪文と共に、もう近くまで来ていると連絡が表示された。
僕はこの日常に紛れ込んだほんの僅かに過ぎる時間を惜しんだが、元より出会う事は無かったんだと割り切り席を立つ。
「あっ……もう行っちゃうんですね……」
隣に座ったまま、立ち上がった僕に控えめに手を伸ばし、悲しさと寂しさを押し殺そうとしている彼女の顔は、先程よりも幼く見えた。
「それじゃあ、連絡先だけでも交換しませんか?」
特に断る理由も無いので、無料のチャットアプリで連絡先を交換し、確認の為に軽く彼女のプロフィールを流し見る。
表示されている名前は『mia』で、どうやら彼女の名前は『みあ』というらしい。
本人の目の前で見る事に少し抵抗はあったが、次にアイコンの写真を好奇心にあっさり負けてタップし確認してみる。
そこには制服を着た少女が二人、人魚のロゴが特徴的な人気の喫茶店のカップを手にして映っていた。
ん?この制服、僕の母校の中学の制服だよな?コスプレとかか?
その写真に写ったみあさんの違和感に意識を囚われていた僕は、すぐ左側から漂ってくる大人とは違う、少女特有の匂いに気付かなかった。
「あっ、そのアイコンの写真結構前のなんで、今と全然雰囲気違うでしょ?」
いつの間にか立ち上がり、そこまで背丈の変わらないみあさんは僕の耳元でそう言った。その言葉を耳が拾い脳が受け止めてから、僕が反射的に思考したのは、結構前って具体的にどれくらい前なのかだった。
先程見せたみあさんの幼げな顔。写真と比較してもそれほど月日は経っていないと思われる顔立ちや髪形。
僕はここに来て、あり得ない答えに辿り着く。
この人もしかして……中学生ぃぃぃぃぃ!?
僕は近くにみあさんの顔がある事にも、呼吸をする度に感じる甘い香りも気にならず脳内では緊急会議が開かれていた。
いや待て、待つんだ。落ち着け僕。仮にここで真正面から無粋に、君ってもしかして中学生?と聞いて、それが全くの見当違いで、見た目通りの大学生程の年齢なら、あまりいい気分にはならないのではないか。
その逆も然りだ。女性は実年齢より高い年齢だと思われることを嫌うし、逆に若すぎても露骨なお世辞の言葉と受け取り嫌がると聞いた。
つまり今僕に出来る事は、これ以上年齢については触れない事だ。
そもそもみあさんの年齢が幾つであるかなど、僕にとっては些細な事だ。例え彼女が見た目通りの年齢だろうとそうでなかろうと、この場限りの関係なのだ。
「それじゃあ、そろそろ僕は行きます」
冷静になってから別れの言葉を告げ、ゆっくりとみあさんの顔を窺うと、まだ話したりないと言いたげな、それこそ子供が拗ねた時の様に頬を膨らませた態度で僕を見つめる。
麦わら帽子のつばを両手でぎゅっと握り、少し上目で僕を見るそのなんとも子供っぽくて可愛らしい仕草に、思わず頭を撫でる為に手が伸びそうになったが、それを鋼の精神でグッと堪えた。
もうお互いの姿が見えるところに来ている友達にジェスチャーで直ぐに合流すると伝え、みあさんにもう一度向き直る。
「楽しかったです。また、会えますか……?」
ぐいっとお互いの体温すら感じられる程に距離を詰め、上背を屈め上目遣いで僕を見つめる彼女の目は、僕の勘違いでなければ、薄っすらと湿っていたと思う。
たった数十分時間を共にしただけでここまで距離が縮まると思っていなかった僕は、その言葉に一瞬だけ答えられなかった。
「ご、ごめんなさい。私勝手にテンション上がっちゃって……迷惑でしたよね……?」
言葉に詰まった僕を見て、どうやら迷惑がっていると思ったらしい彼女は、先程までの距離から二歩ほど後退し、明るく前だけを見ていた顔は、出会った時の様に下を向いてしまった。
その落ち込む様は、まるでみあさんの心をそのまま表している様で、その下を向き曇ってしまった顔が、彼女の心象なんだと思うと、僕はもう言葉に迷う事はなかった。
「また会えますよ。僕も楽しかったですから」
そう言うとみあさんは只でさえ大きな瞳を更に一回り大きく見開き、周囲に大輪の花を思わせる様な笑顔に破顔すると、ゆっくりと目尻にある涙を指で掬った。
そして今度は伸ばした手を引っ込めることなく真っ直ぐみあさんの頭へとゆっくりと乗せ、触れるか触れないか程度の加減ではあるが、僕の出来る精一杯で頭を撫でた。
その時にちらと、みあさんの表情を窺ってみたが、僕の腕でみあさんの小さな顔の大部分は陰になってしまい、はっきりとは見えなかった。だけど、多分、笑っていたと思う。
そろそろ友達が痺れを切らす頃かと思い、名残惜し気に僕たちは距離を取った。
そしてまだ知り合ったばかりでまともな別れの口上すら持たない僕たちは、ただ手を振ってその場を後にした。
友達と合流し、待たせてすまない。とお互いに謝罪し合うと、僕は一度だけ振り返りみあさんの姿を探した。
もしかするともう居ないかもしれないという僕の予想とは裏腹に、先程の場所から一歩も動かず、そのまま変わらず居たみあさんは、控えめに小さく手を振り一度だけ微笑むと、駅の人込みの一つへと消えて行った。
「それじゃ、行こっか」
僕はもう振り返る事無く、本来の予定通りの日常へと戻る。寂しさを覚える事が少し不思議だった。
何故かその時、きっと彼女も同じような事を考えているのかなと、先程見せた花の様な笑顔を思い出しながらそんな事を思っていた。
そして僕はこれからもこの駅前のベンチに座り、友達が来るのを待つんだ。だけどその時僕が行うのは人間観察ではなく、一人の大人の少女を探すだろう。
僕にとっての人間観察は、彼女に出会った事で終わってしまったのだ。もう、知らぬ他人の動向には興味が持てない。今僕がもっと知りたいと思うのは、たった一人になったのだから。
「少し日陰に行こう」
今日は長い労働(学園)生活から週に二度解放される日の一日目。
夏の長期休みが明け早数週間。少し夏の猛暑が和らぎ始めた季節、唯一の友人である彼と出掛けるため、僕はすっかり馴染み深くなった駅前で彼を待っていた。
彼はいつも通り寝坊か何かで遅れるらしく、スマホの通知欄には『すまん、少し遅れる』とだけ表示されていた。
僕は日課を行う為と、涼しくなり始めたとはいえ肌を焼く日差しを回避する為に駅前の休憩所にあるベンチに座り、一息つくと被っている白い野球帽を目深に被り、慎重に周りを見渡す。
そこには子供を連れた仲の良さそうな夫婦や、目的は分からないが手ぶらで歩くお年寄りのお爺さん。
だけど僕はそのどれもに一定以上視線を固定させることは無く、記憶の中に未だ鮮明に残るある人物の影を探す。
だがどうやら今日もその人物は来ていないと早々に見切り、少しだけ、ほんの少しだけがっかりしながら、僕はスマホに顔を落とす。
そしてここ最近のいつも通りに、対して楽しくも無いただ時間を潰すだけのスマホゲームで時間を浪費していると、帽子のつばから、白く長い足が二本生えてきた。
「白って200色あんねん!」
ちらと見えた長い足から、大人の女性かと思ったが、その声は思ったよりも幼く、顔を上げると声には見合わない凛とした風格すらある、目が覚める程の美人が立っていた。
彼女は僕の白い帽子を指差した体勢で、もう一度先と同じ言葉を口にし、期待の籠った眼差しで僕の事を見つめた。
そしてこの場合、僕はどうすればいいのかはすでに知っている。なので彼女の期待に応え、ベンチの中央から右側に寄りスペースを開け、座る様促し僕の左側へ腰を下ろした彼女へ期待の台詞を送った。
「黒は何色なんですかね」
少し不安げだった彼女、みあさんはそのやり取りを僕が覚えている事が嬉しかったのか、僕の好きな大輪の花の様な笑顔を向けて、こう言った。
「もしかして、ア〇ミカですか?」
と。