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魔族の女房に転生者がなる  作者: 矢瀧 忠臥
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お出迎え

「テェ、ニギレ」

そう言って、悪魔のような容姿をした彼が手を差し伸べた。私の手を悠々と包み込み、温もりも感じたが、痛い。なので、小刻みにイタタタタとわざとらしく言ってみた。しかし彼の反応は意外なもので、心配する素振りを見せて、少し握る力を弱めてくれた。私は、心を開きかけたが、首をブンブンと横に振った。いかんいかん、強制的に誘拐しようとしているヤツのことを好きになるなんて、ちゃんちゃら可笑しい話だろう。適度な温度と強さを感じるが、これはまやかしだ。そう自分に言い聞かせたと同時に、彼は、私が居るのを確認して空を飛んだ。


空を飛んだのは、前世の記憶で二回程だろう。高校の修学旅行とこの世を去っている時。…そういえば私は、何歳で死んだのだろうか。幼少期の記憶は出てくるものの、何故かそこだけが曖昧なのだ。二十?いや、三十だっただろうか。成人式には出席したことがある。ただ、それ以降の記憶が穴のようにぽっかりと穿っている。


空気が冷えている。呼吸をするたびに、白い息が口から這い出てくる。身体全体に刺激する寒さは、風となって攻撃してくる。暖かいところといえば、右手だけだ。それ以外は野ざらし状態で、風に煽られる日章旗と全く同じく、無気力に泳がされている。ヤバい、つま先の感覚が…あぁ、肺が痛い。彼はどうやら、私の苦痛に気付かないようだ。そりゃそうか、だって彼は、分厚いファーにスーツみたいな服装を着ているのだから。それに比べて私は、ボロ布一枚羽織った姿であった。実質、裸だ。


漸く、目的の場所に着いたようだ。薄ぼんやりとした瞳では、全体的に真っ黒な城がそそり立っていた。それに気圧されてか、足の感覚が死んだからなのか、着地した瞬間にへたりこんでしまった。

「ドウ…シタ?」

分からないようだ、今まで私が凍える中で鯉のぼりをしていたことを。私は自分の肩を抱きしめ、短くそれでいてリズムを刻んだ呼吸を披露してみせた。勿論、演技では無い、寒いからこうするのだ。


漸く気付いたのか、スーツの上着をかけてくれた。私の身体より一回りも大きく、凍てつく端々をポカポカと温めてくれる。飛ぶ前に着せて欲しかったな、と不満は喉奥にしまいこんだ。とまぁ、城の中に入った訳なのだが、デカさに合わず閑散としていた。長い廊下の装飾は、くすみがかった赤絨毯、灰色の壁に大きい窓、柱には裸のロウソクが等間隔にある。次に通されたのは、応接間みたいな所。入った瞬間に分かった、大きいソファーが二つ対面に並んでいた。


「ココデ、マッテイロ」

私は、彼に両肩を掴まれて、ソファーに座らされた。一体、何が起きているのか?分からない。そうこうしているうちに、扉が開いた。現れたのは、背の低いメイドだった。だが、彼女もニンゲンでないことは分かり、羊のような角と閉じた口から覗く八重歯。私は、怯えを孕んだ睨みを向けたが、彼女は猫みたいに目を細めて、ニマッと笑った。

「お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした」と饒舌に謝辞を述べている。

「あ…貴方は?」

「あたしは、クミェン・シャ・モースと申します。まぁ、気軽にクミと呼んでくださいませ、お妃様。」

「ちょっと待ってください!お妃様って何ですか?」


「僭越ながら説明させて頂きますと、貴方を生贄として(かどわ)かしました。ですが、生贄というのに特別な意味はありません。結論から申し上げますと、貴方は、この城の主であるジャグル様と婚約してもらいます。」

「婚約…」

「はい。手荒な真似をして、大変、申し訳なく存じております。ですが、ジャグル様は極度のヒト見知り故、こういうちょっとしたデートプラスお見合いという形でプランを立てました。因みに、此処まで来る際の彼の印象は如何でしょうか?」

最悪であった。その旨をクミさんに伝えると、やっぱりといった感じで肩を落としていた。彼女も、相当苦労しているようだ。


「あの、二つ質問したいのですが…」と私が切り出した。

「何でしょうか?」

「私以外の生贄とされた娘達は、どうなりましたか?それと、私の住んでいた村に帰れますか?」

「えっと。先ず前者は、ご心配要りません、多分無事です。ちゃんと彼女達は、元居た所に送り届けました…ですが、安否は確認できていません。それと後者ですが、お答え出来ません。まぁ、一つ方法をお伝えするならば、カノジョ候補から外れることですかね」

「例えば?」

訊いた瞬間、彼女はグイッと顔を近付けて「あたしから聞いたと言わないで下さいね」と念を押した。その時に、口元に人差し指を当てられて、ドギマギとしてしまった。


「端的に言えば、ジャグル様に嫌われることですね。それで貴方は、カノジョ候補から外れ、見事家に帰れるという訳ですね。」と乾いた拍手を送った。

成程、前世から今に至るまでは、必死で男に好かれようとしていたが、状況が状況だ、嫌われるよう尽力しなくては!…でも、命のタイムリミットは迫っている。私は、頭を抱えるしか方法が無かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不思議なお話ですね(◎´ウ`◎)ノシ♡ 相互さんなのでコメントしました♥ 一週間で結婚という唐突なネタは面白いと 思いました(≧ヌ≦)b⭐ では☆♪
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