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魔族の女房に転生者がなる  作者: 矢瀧 忠臥
2/6

出会ひは突然に…

「おーい、ヤミア!」と背中から私を呼ぶ、男の声が聞こえた。

私は、老眼鏡を無くした老人のように目を細めて、首を四十五度傾けた。当たり前なのだが、誰か分からないのである。彼は私に近付き、世間話を始めた。絶妙なタイミングで打つ相槌と愛想笑いでなんとかなっている。


男に話しかけられたのは、何時ぶりだろうか。記憶にある限り、お父さんを含めて指折り程なのだが、小学4年生の時が一番覚えている。あれは…暑い夏の日、デブスだったあの頃、脂汗をダラダラとかいて拭っていた時。一人の同級生の男の子がモジモジした様子で近付いてきたのだ。もしかして、告白されるのか!?と胸を鳴らしたが違った。チャック開いてるよ、その言葉で私は青ざめた。履いていたスカートを見やると、全開だった。肌色に近い下着と産毛の濃い脂ぎった腿が、こんにちはしていた。すぐさま閉めたものの、時既に遅し、見ていたガキ大将が『肌色大根』と笑いものにした。卒業するまでそう呼ばれ続けたのは、本当に()い思い出だった。


「…みあ。ヤミア、聞いてるのか?」と顔を覗いてきた。

近い近い近い!えっ、私の目の前、彼しか見えないんだけど…しかもよく見たらイケメンじゃん!と顔を真っ赤にして硬直していた。

「わ…私の顔に、何かついていますか?」

誤魔化そうとそう言ったが、これで合っているのだろうか?特に敬語の部分。

「なんで敬語なんだよ。俺達、トモダチだろ?」

ごく当たり前かのように笑い飛ばしていた。トモダチ…その響きだけで私の胸を熱くする。

「そうだよね!えーっと」

「おいおい、名前も忘れたのか?ジンダだよ、ジンダ・フースクス。今日のヤミア、おかしいぞ」

「いやぁ、ごめん。最近、物忘れが激しくて」

苦し紛れの言い訳は、以外にもすんなりと受け入れられた。


ジンダ…か。彼と結婚すれば、なんか良さそうだな。人当たりもいいし、イケメンだし、カッコイイし。何年トモダチをやっているかは分からないが、一週間以内に結婚はできそうな気がした。その後、彼のことを思い続けた所為か、晩御飯を食べたとかお風呂に入ったという記憶が無かった。強いて言えば、掛け布団にくるまって、あんなことやこんなことを妄想して悶えていたことぐらいだ。


二日目


朝食を食べ終わり、直ぐにジンダの元へ向かった。ぶらぶらと歩いている彼の姿を見つけた。

「あの…ジンダ!」

言い慣れない名前を叫び、少し恥ずかしさが滲んだ。しかも呼び捨てで。取り敢えず、彼を引き止めたのだが、どう誘ったものか…ド直球に結婚してくれはオカシイし、いきなりデートしない?なんて言っても周辺には何も無いし、遠い場所も知らない…まるで絶望的な状況だった。

「なんだ?」と当たり前だが振り返る。

私は、みるみるうちに顔を赤くして、頭と目を回して(ども)ってしまった。その時、閃いた。

「ねぇ、一緒に家の手伝いしてくれない?」


「いやぁ〜、助かるわ。ありがとね、ジンダ君」

「いえいえ、これくらい」

私達は今、自宅の小麦を収穫していた。最初は、手こずってしまったのだが、次第に慣れていき、彼よりも多く刈り取っていた。我ながら、完璧な閃きだと思う。何の情報だったかは忘れてしまったが、恋愛に関連のある雑誌で『男性を家に招き入れればOKサイン』というのを見たことがあった。多分、彼は気付いてくれる筈。私はいつでもOKよ、そんな眼差しを彼に向けたが無効化だった。どうやら、小麦に集中しているようだった。


次は、家の中の掃除。遂に、彼が家に入った!…のはいいのだが、お母さんがずっと着いてくるのが気がかりだった。私は、箒を動かしている手を止めて、全力でウインクした。

それに気付いたのか、「あっ!そういえば、急用を思い出した」と芝居がかった物言いをしてそそくさと家を飛び出した。

箒を持った私と雑巾を持った彼、二人きりの状況が出来上がってしまった。お母さんには感謝しかない。ただ、何を喋ろうか迷ってしまった。そんな時に口を開いたのはジンダの方だった。

「ヤミアって、優しいよな」

「えっ?」

「いや、こうやって母親の代わりに家事を請け負うって、すげぇことじゃん?そういうところが、好きなんだよなぁ」


一瞬、心臓が跳ね上がる。好き、という二文字を聞いて顔から熱が上がっている。これって…遠回しに告白では?やべぇやべぇ、めちゃめちゃ興奮する…。私は一旦、気持ちを落ち着かせた。…今しかない、そう思った時には口が勝手に動いていた。

「あ、あのさ、ジンダ。」

「どうした?」

「私…その、前から貴方のことが、好きだったの!」

漸く言えたと全身から力が抜けた。彼も、私と同じくらい顔を真っ赤にしている。

「だ、だからさ。結婚を前提にお付き合いしてください」

一つ間が空いて「あぁ、喜んで」と返ってきた。

聞いた瞬間、両手を天高らかに上げていた。告白すんの逆じゃね?なんていう思考は全く無い、これで第二の人生を快く歩めると安堵の溜め息を吐いた。

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