プロローグ
「好きだ!」の一言で私の人生は始まった。
私こと、伊東 澤子は死んだ。生きることが嫌になり投身自殺を図った。結果、私は死んだ。全身に痛みを感じながら安らかに目を瞑った。その次に、目を開けた時には暗闇に包まれていた。すると、何処からとも無く声が聞こえたのだ。
『あなたは、可哀想なニンゲンだ。恵まれない醜悪な容姿でいじめられ、挙句の果てに、恋愛を知らぬまま命とお別れを告げた。あぁ、なんとも悲劇!未練がましいとあなたの心が叫んでいる。…失敬、兎にも角にもあなたは、第二の人生を歩めることが決まっている。先ずは、おめでとう。そして、転生するにあたって一つだけ条件がある』
要らぬことをベラベラと喋るヤツだなぁと、欠伸を漏らしその条件を訊ねた。
『良くぞ訊いてくれた。その条件とは…一週間以内に誰かと結婚しなければ、死んでしまうという呪いを施した』
最初に出た感想は、はぁ?だった。『一週間以内に誰かと結婚しなければ、死んでしまう』って、転生する意味あるのかな?…って言うか呪いって、さらっと恐ろしいワード聞こえたし。そんなクソみたいな条件を引っ提げて、第二の人生をのほほんと過ごしていこうなんていうのは無理だろう。私は、一回断った。だが、無理だ!と声は怒りを孕ませながら告げた。
「…因みに、一週間以内に結婚すれば普通に人生を歩めるのですか?」と諦観の境地に至り、冷めた感じで訊いた。
『勿論だ。…あぁ、そういえば転生先を言っていなかったな。単刀直入に言えば、異世界だ。あなたも好きでしょう、そういうの?まぁ、それはおいといて…勇者とか魔法とかが存在するあの世界だよ。あぁ、安心して、あなたは極々一般の平民に転生して、普通に結婚する。最高でしょう?しかも、ルックスは抜群に設定しておいたから。それじゃあ!行ってらっしゃい』
色々ツッコもうとおもったが、時すでに遅し、穴に落ちたかのような感覚が襲いかかり視界を奪われた。
一日目
目が覚めた。おはようと朝日が窓から差してくる。起きたベッドの位置は角にあり、左手や背後は石のざらついた壁、正面には扉、斜め右には机、真右には本が整然と並んだ大きな書棚が鎮座していた。ここは何処だ?なんて言う暇は無い、何故なら一種間以内に結婚しなければ死んでしまうらしい。取り敢えず私は、鏡を探した。声の言葉が本当なのか、気になった。前世の私は、デブだった。顔は腫れ上がったかのようにパンパンで、腕にも足にも肉がついており、運動…というか歩いただけでも汗をダラダラとかいた。だが今は、身体が軽い。すくっとベッドから身体を起こせたし、立ってみた感じ、ズシンとくるような体重の重みも無かった。
鏡を探すべく、自分のであろう部屋の扉をそっと開けると器が大きそうな奥様が私を見るなり、笑顔でおはようと言ってきた。お母さんだろうか?私は、戸惑い半分恥ずかしさを混じらせ返事した。
「あの…えっと、洗面所って鏡ありま…あったっけ?」
「?あるに決まってるじゃない」
良かったと安堵し、近くにあった扉を開いたら、そっちは私の部屋よと苦笑し、洗面所のある部屋の扉を指さしてくれた。あわわと焦って、二~三回頭を下げて、急いで洗面所に入り扉を閉めた。扉越しから、変な子とくすくす笑い声が聞こえた。
鏡を見れば、それはもう絶世の美女が私の前に姿を現していた。目蓋をしばたたかせたり擦ってみたり、ほっぺたをつねってみたりと現実かどうかと確かめていた。…どうやら現実らしい。取り敢えず目を覚ましたばかりなので、顔に二~三回水を浴びせ、茶色く長い髪を細い櫛で梳かしたら、ちょっと可愛くなった。化粧もしていないのにこの可愛さとはと、ほっぺたをむにむにと動かした。
「ヤミア!朝ご飯、出来たわよ」とお母さんの声が聞こえた。
ヤミア…私は、ヤミアと呼ばれているのか。リビングに入って机の上には、丸々と太ったパンと具の無いスープが私のことを出迎えてくれた。ご飯の感じからして、農民なのであろう。私は、それを直ぐに平らげ、外に飛び出した。
目的は無いと言えば嘘になるが、先ず、何をしていいのかが分からない。取り敢えず、ぶらぶらと歩くことにした。理由は、自分のこと…そしてこの村のことについて詳しく知りたかった。先ず自分の家の周辺は、小麦の田園風景が広がっていて(と言っても、半径1m半くらいの面積だが)、それに木の柵が囲まれている感じだ。自宅の両隣には家が二~三軒あり、向かいにも同じように並んでいた。視点は変わり、土を踏む感触が、心地よくブーツ越しに伝わってきた。天気は晴れ晴れ、太陽が丁度てっぺん辺りに居る時突然、誰かに声をかけられた。