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俺が推しの代わりなんか出来るわけがないだろう?  作者: 蒼風
Ⅰ.声優とガチ恋勢と深夜のファミレス
6/9

5.幸いにも小の方だった。

□本作について□

・基本18時更新です。

・毎日更新予定ですが、ストックが無いため、予期せず更新が止まることがあります。あらかじめご了承ください。

・小説家になろう、ノベルアップ+、note版は、序盤のみの掲載となります。以降の連載はカクヨム及びアルファポリス版をご覧ください。

・タイトルが変更となる可能性がございます。

「意外といいところに住んでるのね」


「意外とってどういう意味だよ」


「そのままの意味よ。アンタの身だしなみとか、その辺からしたら、もっとぼろいワンルームにでも住んでそうだから」


 実に酷い言い草だ。ただ、


「まあ、本来なら、俺が住めるような部屋じゃないからな」


「本来ならって……どういうこと?」


「このマンション、親の知り合いが管理しててさ。それもあって、住めてるだけで、他の部屋の家賃を考えたら、俺が住めるようなところじゃないのは確かだよ」


「ふーん……」


 自分から言い出した癖に、実に興味なさそうな反応で奥の部屋へと歩いていく咲花(さくはな)。本当に自由だ。


 ちなみに、今俺は、咲花あやめの身体で、山都(やまと)瑛一(えいいち)の服を着ている。なんでかって?咲花曰く、「知らない男の部屋に、私の恰好で入るなんて言い訳無いでしょ」とのことだった。


 言わんとするところは分かるので、俺も反論はせず、彼女が持ってきた「俺の服」に着替えたが、大分大きい。まあ身長差あるもんな。体型自体は細いからまだいいけど、これで、もうちょっとガタイが良かったら、ギャグみたいなことになるところだった。


 もしこれからもこんな暮らしが続くなら、服はどうするかも考えなきゃならない。あんまり無駄な出費をしたくないんだけどなぁ……円盤も買わないとだし。もちろん、咲花あやめの出てる作品のやつ。


「明日何時だっけ?」


「九時。九時に最寄り駅に来るようにって言ってある」


「九時か……早いな……」


「早いって……アンタ普段何時に起きてるのよ」


「何時……まちまちだな。少なくとも九時に起きてることは無い」


「起きてることは無いって……あのさ。ずっと気になってたけど、アンタ、仕事とかっていいの?起きた時間が時間だったし、今日はずっとここにいたけど」


「それなら大丈夫。特に用事はないから」


「用事はないって……アンタもしかして、無職?」


 俺は咲花の問いを無視して、


「さ、そんなことより明日は早いんだから、そろそろ寝る準備をしないと。風呂入れるな」


「あ、ちょっと、はぐらかさない……で、って、え?風呂?」


「うん。入らないわけにはいかないだろ?」


 瞬間。


 咲花が俺の手をがっちりと掴んで、


「ちょっと待ちなさい」


「な、なんだよ」


「貴方。状況分かってる?今貴方と私は入れ替わってるの。つまり、貴方が風呂に入るのは私の身体でってことになるのよ?」


「そうだけど……それが何か?」


 咲花が俺の両肩を掴んでぐりんと回転させ、がっちりホールドしつつもとつとつと語り掛ける。


「それがなにか?じゃない!あのね。貴方はもしかしたら気にしないのかもしれないけど、私が気にするの。私は嫌なの。どこの誰かも分からない男に、私の身体を洗われる、なんて」


「とは言っても……洗わないわけにはいかないだろ。大丈夫だって。出来るだけ無心でやるから」


「その出来るだけって表現がもう駄目。努力しないと無心になれない人に、自分の裸を見せるって想像しただけで……」


 言わんとすることは分かる。


 分かるけど無理がある。


 こればっかりは仕方ない。俺だって、出来る限り見ないようにはしたい。


 だけど、嫌なんだよ。自分の大切な推し声優が、何日も風呂に入らない、汚くて、臭い身体で現場に行って、「あの頃のあやや、なんか臭ってたよね~」というとんでもないエピソードを暴露され、挙句の果てにはウィキかなんかに「一時期風呂に入っていなかったため、臭っていた時期があった」なんて書き足されるのは。そんなことになるくらいなら、俺が後でどんな報復を受けようとも、洗うべきだと思うんだ。


 とはいえ、咲花の言い分もよく分かる。


 だから、出来るだけ彼女のダメージが少ないまま、風呂に入るにはどうすればいいか……そうだ!


「でも、ほら。トイレとかは行っちゃってるわけだから、そんなにダメージは……ない」


 時々思う。


 人は何故、こうも簡単に失言をしてしまうのだろうと。


 違うんだ。決して変な意味があったわけじゃないんだ。ただ、「もうトイレには行ってしまってて、大事な部分の片割れは見てしまってるから。実際のダメージは咲花が考えているものの半分くらいだよ。良かったね!」って思ったんだ。でも、これって、今はまだ何も見られてないって思ってる咲花からすれば、とんでもないカミングアウトで、


「今、なんて言った?」


 襟首をつかまれる。怖い。何せ俺はギリギリでも百七十センチ以上あるのに対して、咲花は百五十五センチしかない。その差は実に十五センチ以上。力技でねじ伏せられたらどうしようもないレベル。


 咲花はゆっくりと続ける。


「今、言ったわよね?トイレに行った?私の身体で?ふーん……一体何をしたのかしらね?」


 怖いよぉ。


 トイレに行ったはずなのに漏らしそうだよお。


 いや、殆どは俺が要らない発言をしたからいけないんだけど。


 でも、仕方ないじゃない。生理現象なんだから。俺だってそんなことはしたくないんだよ。許して……くれないかもなぁ、これは。

次回更新は明日(3/6)の18時です。

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