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【完結】追放された聖女の明るい復讐譚「声が甲高くなる呪いをかけてやる」  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢ピッコマでタテヨミコミック配信中)


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20/23

20.そういう生き物だから


「テルマさん、もうすぐ子どもが産まれるんだよー。みてみて、すごいお腹でしょ〜」


 ソフィーが大きなお腹を両手で支えながら入ってくる。


「おめでとうさん。いい子を産むんだよ。どうすんだい。隣町の実家に帰んのかい?」


「マックがさあ、ふたりの子どもなんだから、ふたりでなんとかしようって」


「…………マックは仕事があんだろう?」

「なんとかなんじゃないって」


「悪いこた言わない。実家に帰んな。あたしの経験と、大勢の母親を見た限りじゃあね、男親はなんの役にも立ちゃしないよ」


 テルマは真剣な顔でソフィーに言う。



「ええーそんなことないでしょうよ。だって、マックはたまに掃除とかしてくれるよ」


「あのね、たまにじゃ意味ないから。そしたらね、これから産むまでに、マックに全ての家事をやってもらいな。全てだよ、あんたは何もしちゃだめだ、ソフィー」


「そんなこと言えないよう」


「産まれる前に、今のうちにマックを鍛えておかないと、産んだ後あんた寝る暇もなくなるよ」


「分かった」


 テルマはソフィーの様子を見てため息を吐いた。



「産む前は分からないんだよね、どれだけ子育てが大変か。あのさ、今まで生きてきた中で、一番忙しかった時期はいつだい?」


「えーっと、前住んでた家が火事になって、後片づけやら引っ越しやらで死にそうだった。あんときのこと、よく覚えてないもん」


「子どもが産まれたらね、その大変な時期が少なくとも一年は続くよ」


「えっ、うそー。そんな……」


 ソフィーが青ざめる。




「あんたさ、今までで一番痛かったケガはなんだい?」


「うーん、屋根の上に洗濯物飛んじゃって、取りに上がったらうっかり落ちちゃったときかな。脚折れてさあ、死ぬかと思ったよ」


「子ども産んだらね、そのときの痛みが一か月は続くから。しかも一時間以上、続けて寝れないからね。死ぬよ」


「ひっ」


 ソフィーは両腕で体を抱きしめてガタガタ震える。



「いいかい、子どもを産むっていうのはね、それくらい大変なんだ。人生でいちばん大変な時期を、ものすごい激痛に苦しみながら、寝ないで乗り越えるんだよ。地獄さ……。誰かの助けがないと無理なんだよ」


「やっぱり実家に帰ろうかな」


「その方がいいよ。男はね、言われないと気づかないんだ。それはもう、そういう生き物なんだ、なおんないよ。あんたの十歳の妹の方がよっぽど役に立つよ。女は気がきくようにできてるからね」



***



「テルマさーん、マックが俺がいるから大丈夫って。家事もひととおりやってくれるようになったよ」


「そうかい……。あたしからの最後の助言だよ。産まれたら、あんたの姉さんにしばらく手伝いに来てもらいな」


「分かった。それなら大丈夫だと思う」



***



「テルマさん、久しぶりですね」

「おや、マリーじゃないか。元気にしてたかい?」


「はい、元気です。あの、ソフィーが無事に男の子を産みました」


 テルマはニコニコ笑って喜ぶ。


「それはよかった。おめでとうって伝えておくれ」


「はい。ソフィーから伝言です。『テルマさんの言う通りだった。マックは役に立たない。グースカ寝てばっかりだから殺意がわく』だそうです」



 テルマは呆れたように両手を腰に当て、頭をふる。


「…………はあ。思ったとおりだよ。だから言わんこっちゃない。マリーがいなきゃどうなってたことか」


「そうですね、驚くほど言わなきゃ何もやらないです。私はいつも、産後は実家でのんびりしてたからよかったけど」


「自分の母親と姉妹がどれだけありがたい存在かってことだよ。男親はクソの役にも立ちゃしないからね。まあ、たまーに気がきく男親もいるけどね。そういうのは小さいときから、姉妹に鍛えられてんだ」



 マリーは顔をしかめながら同意する。


「そうですね。マックは何度言ってもオムツ替えないし、替えてもオエオエ吐きそうになるし……。夜は夜泣きで寝られないソフィーをよそに、ぐっすり寝てます。それで最近は推理小説読んでるし」


「そんな暇があったら、赤ん坊の面倒見て、ソフィーを少しでも寝させてやりゃあいいのに」


「私がいるから甘えてるんですよ。でもそろそろ私も自分の家に帰らないと。これ、ソフィーと私の髪です。お金も持ってきました。何かいい魔法陣ないですか?」


「分かったよ」



 テルマは『寝返りをうつと必ず土踏まずがつる』『推理小説の犯人の名前が光る』を出した。



◆◆◆


「フギャア フギャア フギャア」

「…………はい、よしよし。どうしたの、お腹すいたの? ほらいっぱい飲んで寝てちょうだい……」


「ゴーゴーガーガー……ううーん……イテエッ……なんだぁ、目が覚めちまった」

「マック、オムツ替えてね。おやすみ」


「ちっ仕方ねえなあ……ウンチじゃねえか。……オエッ、オエッ」


◆◆◆


「マック、もうそろそろオムツ洗ってくれない? 替えがなくなるよ」

「うーん、これ読み終わったらな。トムに借りたんだ、いいとこなんだよ」


「食器も洗ってないじゃない」

「お前がやってくれよ。お前、寝てばっかりじゃねえか」


「私、ずーっと細切れでしか寝れてないんだよ。ウトウトし始めたらおっぱいで、またやっと寝れるって思ったら次はオムツで。全然寝れてないの。頭が痛い……」


「今いいとこだから、すぐやるから」

「…………」


「なんで光ってんだ、この名前。……ダーッまさかと思ったら犯人じゃねえか。……まさか他の本も……光ってる。クソったれ」


「クソはお前だ。今すぐオムツと食器洗わないと、明日実家に帰って二度と戻らないから」




呪い案をありがとうございます!


satomiさま「寝返りをうつと必ず土踏まずがつる」

黒にゃ〜んさま「推理小説の犯人の名前が光る(か名前の横にこの人犯人と文字が浮かんでくる)呪い」

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― 新着の感想 ―
[一言] 遅くまお店で、お酒を飲みすぎると帰り道がわからなくなる呪い。(幻覚のせいで家の周りぐるぐるしてて、奥さんが声かけたら解ける)
[一言] やったー!呪い案が日の目を見た! 推理小説の犯人の名前が光るって言うのは楽しみ奪う、精神的苦痛を感じますね! 片目だけ瞳孔が開いたみたいになるってのは辛そうですよ! 仕事でも大事な場面で、…
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