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【完結】追放された聖女の明るい復讐譚「声が甲高くなる呪いをかけてやる」  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢ピッコマでタテヨミコミック配信中)


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16.老いらくの恋

 

 エイミーより少し上ぐらいのお姉さんが相談にきた。


「アタシ、王城の料理場で下ごしらえの仕事させてもらってるんです。ただの平民がまさか王城で働けるなんて、夢にも思ってなくて。できることはなんでもやって、ずっとここで働きたいんです」


 確かに、普通に生きていたら、平民は王城では働けない。


「よく雇ってもらえましたね」


「はい、以前は街の食事処で下ごしらえと、給仕をしてました。その店によくくる常連さんがいて、その人の紹介なんです」


「よかったですねぇ」


 エイミーはほわぁっと息を吐いた。最近いい話が多いな。



「はい、ホントにありがたくて。その人は王城の食堂にもよく食べに来られて、たまにアタシにも声かけてくれるんです」


「いい人ですねぇ」


 うんうんとエイミーは頷く。



「はい、そうなんです……けど」

「けど?」


「最近、高価なプレゼントくれるようになって。アタシどうしたらいいんだろうって」

「えーいいなー。もらっておけばいいじゃないですかー」


「でも……その人、奥さんいるんです」

「ん?」


「すごく年上の人だし、お父さんより年上だし……」

「んん……」


「この前は、一緒に食事に行こうって誘われて……」

「えっ」


「遠慮したんですけど、断りきれなくて……」

「あらー」


「君が望むなら、一緒になろう。妻とは別れるって言われて。アタシ、頭が真っ白になって、何も言わずに走って帰っちゃったんです。どうしたらいいでしょう」


 子ウサギのように目を赤くしてプルプルしてる。


「えええ、わたしそういう経験一回もないから……マヤさーん」



 マヤは渋い顔で腕組みをしている。


「その気がないなら、さっさと断る方がいい。放っておくと、勘違いしてつけ上がって、気がついたときには結婚だな」

「ひょー」


「年がいってからの恋は怖い。最後のひと花咲かせたい欲求で、周りが見えなくなる。地位と権力があるから、若い女性に丁寧に接してもらえているだけなのに、自分の魅力と勘違いする。早めに切らないと、執着されてひどいことになる」

「いやー」


「これからは絶対にふたりきりで会わないこと」

「はいっ」


 アナは真剣な顔で返事をする。



「この手の男は対処がめんどくさい。私が魔法陣を選んであげよう。……ちなみにその男の名前を聞いてもいい?」


「はい。財務部のサミュエルさんです」

「ああー」

「ああー?」


 マヤが上を見て頭を抱える。



「それ、アレだ。この前奥さんのマルタさんが呪いかけたご主人だ」

「マルタさんって誰でしたっけ?」

「ご主人が急にこじゃれてきて、初めてのモテ期で浮かれてるって人」

「ああー、『大事な商談の相手の時に限って相手の名前を間違える』の呪いかけた人!」


 エイミーがさーっと青ざめる。


「あれ、ていうことは無意味な呪いかけちゃったってこと?」

「……いや、それは気にしてはいけない。忘れなさい」

「はいっ」


 エイミーはシャキッと答えた。


「あーあの人かー……。分かった。呪いふたつかけよう。ひとつはマルタさんにかけてもらう。これと、これだ」

「はいっ」


 アナとエイミーは力強く腹から返事した。



◆◆◆



「アナ、やっと会えた」

「ひっ」


「この前のこと、本気なんだ。恥ずかしがらせてすまなかった」

「へ?」


「妻には今日話すつもりだ。いつから一緒に住める?」

「一緒には住めません!」


「遠慮しなくていいんだよ。これが真実の愛……。イテー」

「アタシ、サミュエルさんのこと、好きでもなんでもありません! 一緒には住めません! 奥さんと仲良くしてください!」


 アナは絶叫した。

 うしろでのぞいていた料理人仲間が拍手した。



◆◆◆



「あなた、最近若い女の子につきまとっているらしいわね……」

「……いや、それは、そのー。真実のあ、イテーー」


「あなた、いい加減になさい。若い女の子が、自分の父親より年上の男を好きになると思うの?」

「……しかし、これは、真実のあ…アアアーー」


「いいですか。妻だからこそ、他の誰も言ってくれないことを言います。あなた、最近、加齢臭がします」


「…………」


「それに、髪がフケだらけです」

「…………」


「腹筋が割れてて、爽やかで、笑顔がまぶしいイケメン。若い女性はそちらを選びます。おじいさんはお呼びでない」

「…………」


「おじいさんには、おばあさんがいるではありませんか。確かにシワはありますけど。長い間一緒にやってきたではありませんか。そんなに私では不満ですか」


 マルタは震える手をギュッと握り合わせて、まっすぐサミュエルを見る。


「…………すまない。お前に不満があるわけではない。少し浮かれていたようだ」


「しばらくよく考えて、今後どうするか決めてください。妹がいつでも来てと言ってくれてますから、出ていってもいいのです。でも、ふたりで過ごした年月は、無駄ではなかったと思いたい……」


「…………」


「もし、私と共に死ぬまで暮らしたいのなら、ヴァンアペールの新作を贈ってください。首飾りと耳飾りと指輪の三点揃いのものです」


「分かった。明日注文してくる。すまなかった、マルタ。これからは大事にする」


「はい、そうしてください」


 マルタの涙をサミュエルはおずおずとぬぐった。




呪い案をありがとうございました!


黒にゃ〜んさま「真実の愛」を口にすると、舌を噛むかんでしまう呪い」

ちーやんさま「いつも髪がフケだらけ」


チャイーRさま『大事な商談の相手の時に限って相手の名前を間違える』(14話で使った呪いです)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 採用されると嬉しいですね! [一言] 朝に奥さんに、心からの「ありがとう」と感謝の言葉がないと、一日涙が止まらなくなる呪い。
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