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【完結】追放された聖女の明るい復讐譚「声が甲高くなる呪いをかけてやる」  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢ピッコマでタテヨミコミック配信中)


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14/23

14.春だから?

 エイミーが窓の外を見ながらポツリとこぼす。


「春だから?」

「ん?」


 マヤは意味が分からなくて聞き返した。



「繁殖期だから? ここ最近、浮気の話ばっかり」

「ああ、確かに」


 マヤは苦笑いした。確かに浮気相談が続いている。



「どうして浮気するって分かってるのに、結婚するのかなー」

「そうね」


 エイミーはほおづえをついて天井をにらむ。



「どうして守れもしないのに、永遠の愛を誓うんだろう」

「確かに」


 マヤはエイミーが気の毒になった。


 連日持ち込まれる浮気話に、エイミーの心はささくれだっている。エイミーがわずかばかり、針の先ほど残してあった結婚への淡い夢は、すっかり消えた。ええ、それはもうさっぱりと。


「もう、結婚なんてしなけりゃいいのに」

「国が滅びるな」


「そっか」



 エイミーは気を取り直した。考えても仕方がない。ほぼみんな浮気する。風邪と一緒だ。そうだ、きっとそうだ。


 浮気の症状に応じて処方箋を出す。わたしは医者だ。いちいち患者の病状に心を揺らすと疲れる。鈍化するのよ、エイミー。


 エイミーは自分に言い聞かせた。



「それで、あなたの旦那さんの浮気、どういった症状ですかな?」


 エイミーは紙になにやら書きながら熱心に聞く。


「え? あ、はい。最近帰りが遅くて……。ときどきボーッとしてため息ついたり。手紙が届いてないか気にしたり。とにかくなんか怪しいんです」


「なるほどなるほど。まだ初期段階ですねー。ちなみに旦那さん、どういったお仕事で?」


「はい、近衛騎士です」


 エイミーが書く手をとめて、眉間にシワを寄せる。



「それって、とてもモテるのでは?」

「そうですね……」


「こういったこと、今回が初めて?」

「いえ、何回か似たようなことがありました」


 エイミーはわずかに体から力を抜く。



「奥さん、どーんと構えて待ってなさい。旦那さんはいずれ奥さんの元に帰ってきます。多分」

「多分……」


「そんなモテ近衛騎士の旦那さんにピッタリなのはこれ」



『靴の中に尖った小石が常にある』



「戦いに集中できず、仕事で信頼を失い、浮気どころではなくなるでしょう」


 エイミーは自信たっぷりに微笑んだ。



***



「はい、次の人ー」


 エイミーは次の患者を呼んだ。


「あ、どうも。なんだかエイミーさんがヤサグレてるって聞いていましたけど。本当だったんですね。ごめんなさいね、いい大人が若いエイミーさんに愚痴ってしまって」


 少し年配の女性がすまなさそうに肩をすくめる。



「いえいえいえ、これが仕事ですから。ドーンとお話ください」


 エイミーは朗らかに言う。



「うちの夫、妙にこじゃれた格好するようになって。髪型も今までずっと同じだったのに、急に色んなの試すようになって。新しく部署に入ってきた若い女性の話をチラホラするんです」


 エイミーは腕組みをして考えこむ。


「旦那さんはカッコイイですか?」

「……昔はそうでもなかったんですけど。年をとって、職場での地位が上がってきたら……」



「なんだかちょっと自信あり気な感じに?」

「そうです。そうなんです。どうして分かったの?」


 女性は前のめりでエイミーにつめよる。



「それは……この手の話、もう十件目ぐらいですから」

「まあ」


「これはちょっとアレですね。旦那さん、初めてのモテ期で舞い上がってます」

「やっぱり」


 女性はハンカチを握りしめた。



「ガツーンと振られたら奥さんのところに戻ってきます。でも……もしかしたら世間知らずな若い部下が、上司さん仕事できて素敵ーてな感じになると……戻ってこないかも」

「ひぃぃ」


「そんな浮かれてる旦那さんにはこれ」


 バシン エイミーが魔法陣を机に叩きつける。



『大事な商談の相手の時に限って相手の名前を間違える』



「かっこ悪いところを部下に見られて、幻滅されればいいのです」


「なるほど、勉強になります!」


「いやいや、わたし、彼氏いない歴は年齢ですから。完全に耳年増ですから……」


「うっ、ホントにごめんなさい」


 女性は小さくなって謝った。



***



「へーい、次の方ー」


 エイミーはちょっと楽しくなってきた。



「夫が帰ってこなくなって……」

「うわー」

「新しい女の家に転がり込んでるみたいで」

「ひえー」

「少しずつ夫の荷物が減っていって」

「わーん」


 まったく楽しいどころではなかった。



「えーっと、末期だと思うのですけど……。旦那さんに戻ってきてもらいたいですか?」

「…………」


 女性は指をぐねぐねこねくり回す。



「出て行ったということは、お家は奥さんのものってことですよね」

「そう……できなくもないわね。執事と結託すれば」


 女性は少し考えた。


「じゃあ、もういいんじゃないかなーなんて」

「確かに……でも、やっぱり腹が立ちますわ」


「旦那さん、お仕事なんですか?」

「騎士団寮の料理人です」

「では、もうこれで、スッキリなさってください」


 エイミーはそそっと魔法陣を差し出す。


『甘いものと辛いものが常に逆になる』



***


 エイミーのやけっぱち加減をマヤは見抜いて、残りの女性に帰ってもらう。


「エイミー、今日は終わりにしよう。よくがんばった」

「ううう」

「すまない。結婚の暗部ばかりを見せることになって」


 見なくていいものばかり、少女に見せている気がする。マヤは反省した。



「でも、エイミーのおかげで、浮気の件数は減ってきている。ニコール様もお褒めになってる」


「そろそろ春が終わるからでは?」


 エイミーはすっかり懐疑的になっている。


「いや、人間の男は年中繁殖期だ」

「うう、イヤだそれ」


 エイミーは顔をしかめる。


「なんでも好きなものを言いなさい。ニコール様がご褒美をくださるそうだ」

「そしたら、ドロドロの不倫話が載ってる本がいいです」


 エイミーがニヤリと悪い顔をする。



「ああ、エイミーがそっち側に行ってしまった」

「いえ、的確な助言をするためですから」


 マヤは泣いた。こんな真面目でかわいい少女に、なんてことをさせているのだ。そろそろ浮気案件は断るべきだろうか。ニコール様に相談しよう、マヤはそっと心に決めた。





呪い案をありがとうございました!


にゃふさま「靴の中に尖った小石が常にある」

チャイーRさま「大事な商談の相手の時に限って相手の名前を間違える」

高谷さま「甘いものと辛いものが常に逆になる」


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― 新着の感想 ―
[良い点] エイミー頑張れ!世間の1番世知辛いところを知ったら無敵だよ。しかし、結構強いですよね。 不倫ドロドロ本をご所望とは案外、強い子ですね。 頑張れ〜!! [一言] 今回もご採用いただきありがと…
[一言] 「真実の愛」を口にすると、舌を噛むかんでしまう呪い。浮気症の人にはいいかな(笑)
[一言] 職業的に致命傷な呪いが……!
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