12.呪ってやる
ミーナは途方に暮れていた。
「えー、今日の十三時だったよねー」
もう何度も見た手紙を見る。間違いない。
「仕方ない、あと一時間待ってから帰ろう」
待ちくたびれてミーナはとぼとぼと立ち去った。
「テルマさーん、聞いてくださいよー」
「なんだい、ミーナ。疲れた顔して」
「今日ね、仕事の面接のはずだったの。わたしの作る服が気に入ったから、ぜひうちの店に来てほしいって、手紙もらったのよ」
「うん、それで?」
「店の前で一時間待ったけど、誰も来なかった……。店は閉まってたし。なんなんだろう、休みの日なのにわざわざ来たのに、ひどい……」
「それは気の毒なことしたね。何か事情があったのかもしれないけど……。これ使ってみるかい?」
テルマは『鼻毛が一時間に一本は出る呪い』の魔法陣を見せる。
「うん、でもわたし髪の毛切りたくないもん……」
「あんたの服でいいよ。いつもキレイなの着てるじゃないか」
「本当? 今ちょうど持ってるよ。面接で店長に見せようと思ってさ」
テルマはウキウキと一着選び、魔法陣に手紙を置く。
◆◆◆
「店長、新しい子雇うって言ってませんでしたっけ?」
「ああ、あれなー。気が変わったからやめた」
「あれ、面接って昨日でしたよね?」
「ああ、ダルかったからやめた」
「ひどい、そういうのよくないと思います」
「いいんだよ、うちの店は人気店だから、働きたいやつなんていくらでもいるんだから」
「…………」
「店長、商会長夫人がお見えです」
「これはこれはミランダ様。今日のドレスも実にお似合いでいらっしゃいますね」
「来週、男爵様の夜会に招かれたのよ。なにか急ぎでできるドレスがあればと思ったんだけど……。気が変わったからやめるわ」
「え、急にいかがなさいました?」
「あなた、鏡見たら? 鼻毛がひどいことになってるわよ。みっともない」
◆◆◆
「ちょいとあんた、鼻毛抜くのやめてって何度も言ってるだろう」
「いいじゃねえか、鼻がかゆいんだよ」
「まったく……。ああっ、抜いた鼻毛を売り物の本に植えつけるのやめとくれよ。汚いじゃないか」
「大丈夫だよ。あとでフーって吹くのが楽しいんじゃねえか」
「……あんた、いつかバチが当たるよ」
「て訳でさー、うちの亭主がアホなんだわ。何回言っても聞きゃしない。そのうちお客さんから苦情がくるんじゃないかって、ビクビクしてんのよ。なんかいい魔法陣ないかい?」
「あるよ、あるある」
テルマは『人前で鼻毛抜くとお腹が痛くなる呪い』を広げた。
「お代、この魔導書でもいいかい? ついさっき、亭主が鼻毛植えたヤツなんだけど……」
「あんた……相変わらずいい根性してるよ。……まあこれでいいよ。どこのページかは教えないでくれよ」
◆◆◆
「ふんっ ふんっ フー」
「…………」
「あ、イテテテ。急に腹が痛くなってきた。あたたた」
「ふっ 効くじゃないか」
呪い案、使わせてもらってありがとうございました!
booom さま「鼻毛が1時間に1本は出る呪い」
黒にゃ〜んさま「長年の夫婦にありそうな、鼻毛を奥さんの前で抜きそうだから、人前で抜くとお腹が痛くなる呪い」




