第39話 プリズンブレイク
看守の総数は、八。看守ひとりひとりの練度も士気も高くはない。気づかれずに、ひとりひとり気絶させていくのはそれほど難しくなかった。
『ヒヒッ。楽勝過ぎて潜入物のお芝居だったら、大不評だった』
「あいにくだけど、これは現実。スリル満点の監獄からの脱走なんて、お断り願いたいところね」
そんなことを考えながら、この監獄のなかでも明らかに他よりも頑丈そうな檻へと向かう。そこには……見知った男が閉じ込められていた。
(敵の敵は味方……。とは限らないけど、異常なこの街の監獄に収監されているということは、逆説的にまともな人間の可能性は高い)
「あなた、まだ正気はある?」
「ああ……。君は、確か……エル・ファミルの……あの?」
「そう、冒険者のタニアよ」
この男と直接言葉を交わしたことはなかったが、エル・ファミルの組合のなかでも凄腕の冒険者として扱われていたので、顔は記憶していた。
「……すまない。君が囚えたハイエルフを奪取されてしまった……。私はその足取りを追っていたらこの国にたどり着いて……お恥ずかしながら、ご覧の有り様だ」
「逃げられたって。どういうこと?」
「……組合内部に内通者が居たということだ。……ハイエルフの女の尋問を行っていた男が、この国の内通者だった……。これは完全な失態だ……本当に、すまない……」
脱走されたこと自体は悪いニュースだ。だが、あの凶悪な女の所在が分かったのは収穫と言っていいだろう。放って置いたらまた何をしでかすか分かったものではない。
(……あの女は、竜を倒すついでに今度こそ完膚なきまでに叩き潰す)
それが、せめてもの亡くなったエルフ達への弔い。
「ところで、ここに捕らわれている人たち、何の罪で捕らわれているの?」
「この地下監獄に居るやつが本来のこの街の住人。彼らには何の罪もない」
「……どういうことか聞いてもよいかしら?」
「街を堂々と歩いている奴は、元はこの街と関係のない、どっかの野盗くずれ。ロード・シュタインが引き連れてきた素性の怪しい、前科持ちばかりだ」
「……つまりは、上と下の人間が、まるごと入れ替わっているってことかしら?」
「その通り。この街のもとの住民は奴隷として使役され死ぬか、この地下で人体実験をされて死ぬかのどちらか……どちらにしたって、ロクなことにはならねぇ」
ここに収容されている人間は遅かれ早かれ、機兵用の対人兵器の人体実験のモルモットとして、ただ生かされているだけ。
……酷いことを。怒りがこみ上げてくる。だが、今は我慢。まずはこの状況を打破することを優先しよう。
「謝る必要はないわ。それよりも手伝って欲しいのだけど」
「何だ? 出来ることなら、何でもやるぞ」
見たところ、この男はかなりの練度の冒険者に見える。男の顔に刻まれた無数の古傷が、雄弁にそれを物語る。協力してくれるのならばこれ以上に頼もしいことはない。
(この男なら信用できる)
私は看守から奪った鍵の束を男に委ねる。
「これで、ここに捉えられた囚人を連れて、地下水路から街の外に出て」





