12 作戦会議
少し歩いた先に、開放されている部屋があった。椅子が並んでいて、女神フローディアの像はあるけれど、先ほどの部屋のものよりは小さい。
「ここでお祈りいただくことができます」
ここはゲーム時代、大聖堂に勤める聖職者たちが祈りを捧げる部屋の一つだった。祈る場所であることに変わりはないが、特別な部屋ではないし、クエストも発生しない。
「案内ありがとうございます。……ちなみに、今までお祈りしていた部屋はもう入れないんですか?」
「そうですね……すべて教皇様からのお達しなので、私たちにはわかりません。フローディア様の像はとても貴重なものなので、安易に開放してはいけない……というお考えのようです」
「……確かに素晴らしい像でしたからね」
巫女の言葉からもわかるように、今回のことはロドニーが主導で行っているようだ。神聖国だというのに、どんどんきな臭くなっていく。
あの女神像の前で祈るということは、のちのちの転職に関わってくる。〈癒し手〉から〈ヒーラー〉になるには、あの像の前で祈らなければいけないからだ。
……ロドニーは、自分の手の者にだけその場を開放するということ? もしくは、莫大な代金を要求する可能性もあるね。
転職までの道のりは地味に長そうだと、私は軽くお祈りをして大聖堂を後にした。
「お待たせ~!」
「にゃっ!」
私は手を振りながら、タルト、ケント、ココアの三人と合流する。合流場所は、中央広場の〈転移ゲート〉だ。タルトはギルドや道具屋でいろいろと買い物ができたらしく、ほくほく顔をしている。
そんなところに水を差すようで申し訳ないけれど、私は大聖堂の状況を説明する。ロドニーの支配下に置かれ、〈ヒーラー〉に転職することができなくなっている……と。ただ、これについては対策も考えてはある。
私の話を聞いた三人は、口を開いて驚いている。まさかそんな事態になっているとは思わなかったのだろう。
「いや、話を聞く限り嫌な奴なんだろうとは思ってたけど……立ち入り禁止にまでするのか」
「困る人がたくさん出てきそうですね」
「お師匠さまは、どうするつもりですにゃ?」
「それは、あとで相談するよ。こんなところで話すようなことじゃないしね」
私たちは頷いて、一度スノウティアへと馬で戻った。
***
「ふー。馬に乗るのも、もう楽勝だ」
道中で一泊し、なんなくスノウティアへ戻ってくることができた。馬は自分たちで勝手に帰ってくれるので、後は宿に戻るだけだ。
私がそう思っていると、ケントたちがゲートに触れてこちらを見た。
「本当にこれで街の移動ができるようになるのか……?」
「信じられない……」
二人の言葉に、それはまぁ確かにと私も思う。ゲートをくぐれば馬で二日かかる道のりが一瞬になってしまうのだから。
「それなら、三人でツィレとスノウティアを行き来してみたらどうかな? なんなら、〈牧場の村〉も登録してきていいよ」
「それは楽しそうですにゃ! でも、そんなに時間の余裕はありますにゃ?」
確かに今は大聖堂がロドニーの支配下に置かれていて、時間的な余裕は少ないだろう。しかし、だからこそ行動範囲を広くしておくことは大事だと思っている。何かあったとき、逃げやすくだってなる。
……それに、〈牧場の村〉はケントとココアの故郷だからね。ゲートの登録ついでに顔を出したら、ご両親も喜んでくれるはずだ。
私がそう説明すると、ケントが「なるほど」と頷いた。
「俺、〈盾騎士〉になることにしたんだ! だから、近いうちに転職場所の〈王都ブルーム〉に行く必要があるだろ? 村のゲートに登録しておいたら、移動が楽だと思う」
「確かに!」
ケントの提案にココアが頷いて、「他の国のゲートも登録したいね」と楽しそうに話している。わかる。私もこの世界すべてのゲートに登録したいと思ってるからね!
「じゃあ、わたしたちはこのままツィレに戻りますにゃ?」
「そうしよ――あ、一応ギルドで〈火炎瓶〉の材料が入荷してないか確認した方がいいんじゃないか?」
「そうでしたにゃ。ギルドに寄ってからツィレに戻って、そのあとお師匠さまたちと合流するのがいいかもしれませんにゃ」
「決まりだな」
タルトとケントがとんとん拍子にこの後のことを決めてくれた。二人が優秀なので、とても頼もしいね。
ここで解散して、私はティティアたちの待つ宿へ向かった。
宿に到着すると、ティティアとリロイが迎えてくれた。ミモザとブリッツの姿は見えない。出かけているようだ。
「おかえりなさい、シャロン。大事ありませんか?」
「無事に戻られて何よりです」
「ただいま戻りました」
リロイがお茶を用意してくれたので、さっそくツィレでの出来事を二人に報告した。ルミナスおばあちゃんの良い報告、大聖堂の悪い報告だ。
話を聞いたリロイは、こめかみを押さえてため息を吐いた。
「思ったよりも、ロドニーの行動が早いですね。自分の味方か、莫大な金額を積まなければ女神フローディア像の部屋へ入れないつもりでしょうね」
「それは……〈フローディア大聖堂〉の私物化ではありませんか。あそこは女神フローディアに純粋な祈りを捧げる場だというのに……」
ティティアが表情を歪め、ロドニーのしていることに心を痛めている。ティティアのように、純粋に国のことだけを考えられる人がどれほどいるだろうか。早くティティアが教皇の椅子に戻れればいいなと思う。
お茶を飲んで一息つくと、リロイは私を見た。
「このままでは〈ヒーラー〉に転職できませんよ。シャロンはどうするつもりですか?」
「夜中に侵入しようと思ってますよ」
「シャロン!?」
リロイの問いかけに正直に告げると、ティティアが目を見開いて声をあげた。ぷるぷる震えながら、「なんということを考えるのですか……」と言っている。
……不法侵入だからねぇ。
私は苦笑しつつも、やめるつもりはない。二次職になるのはこの後のロドニーとの戦いでは必要になってくるし、これから〈アークビショップ〉や〈聖女〉にだってなるつもりなのだ。それに、リロイだって〈アークビショップ〉になるには女神フローディアの像の元へ行かなければならない。
ティティアとは逆に、リロイは「そうするしかありませんね」と頷いた。
「リロイまで……。しかし、そうするほかないことはわたしにもわかります。ですが、夜の大聖堂に侵入などできるのですか?」
「……以前、街の地下にある下水が大聖堂に繋がっていると聞いたことがあります。そこを通れば、なんとかなるかもしれません」
「そんな道があるのですか」
リロイが告げた下水は、もちろん私も知っている。ゲームでは、実はクエストの一つに夜の大聖堂に侵入するというものがあったのだ。その場所と道順はしっかり覚えているので、今回はそこを使わせてもらおうと思っている。
……問題は、くさそうってことかな……。
私が臭いのことを考えて遠い目をしている間に、リロイが地図を広げていた。
「ここから下水に入ると、大聖堂に繋がっているはずです」
「こんなところから行けるのですね」
臭いのことを考えている場合ではなかった! 私もすぐに地図に目をやって、リロイの説明を聞く。ゲームで一度通ったとはいえ、現実になったこの世界では何か変更があったりするかもしれないからね。
ただ、ぱっと確認した感じ問題はなさそうだ。
「決行はいつにするつもりですか?」
「二人が〈冒険の腕輪〉を作ってる間に、行ってこようと思います」
とりあえず祈りだけ捧げてしまえばいいので、その後すぐに合流して、ティティアとリロイに転移ゲートの登録をしてもらい朝を待ってタルトたちと合流し街を出る。そんな作戦を伝える。
「わかりました。しかし下水はモンスターも出てくるので、ミモザを連れて行ってください。多少の戦力にはなるはずです」
「ありがとうございます。……そういえば、二人はどちらに?」
私が首を傾げて問いかけると、リロイが二人は情報収集に出かけているということを教えてくれた。
「といっても、ほかの〈聖騎士〉から連絡がないかの確認ですが」
「なるほど」
ちなみに〈聖騎士〉の二人も腕輪を作ってもらう予定だ。ティティアとリロイが行く前に作ってもらい、腕輪の安全面などを確認するらしい。
……ティティアがつけるものだから、事前に確認しておきたいっていうことだね。さすがは護衛だ。
ミモザとブリッツが戻り次第、私たちはツィレへ出発することにした。
いつも感想、誤字脱字報告などありがとうございます!
しばらく一日おき朝7時頃に更新予約をしてみました。
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