11 〈冒険の腕輪〉大作戦
「やった~! 転職だ~!」
頑張って〈ワイバーン〉と戦った結果、全員転職が可能になった。私はレベル41、タルトは43、ティティアは40、ケントとココアは44。リロイは47のままなので、全員でパーティを組むことができる。
……リロイにはずっと肉壁をさせてしまったので、今度何かいいアイテムがあったらプレゼントしよう。
「まさかこんなに早くレベルが上がるなんて……いや、考えないようにしよう。喜んでおこう」
ケントが悟りを開いたような顔でそう言って、「この後はどうするんだ?」と私を見た。
「転職の前に、まずは〈冒険の腕輪〉を作るよ。材料を各自集めて、ツィレのルミナスおばあちゃんのところに行くんだけど……先にツィレの様子を探ったほうがいいよね」
「おそらく、ロドニーの手の者がティティア様のことを捜しているでしょうね」
「だよね……」
う~~~~ん。
〈冒険の腕輪〉を作れるのは、各国の王都など……メインの街だけだ。ここから一番近いのが〈聖都ツィレ〉。次に近いのは、〈桃源郷〉か〈王都ブルーム〉のどっちかなんだけど……〈桃源郷〉に行くには高難易度のダンジョンを通らないといけないし、〈王都ブルーム〉は私が追放されてるから現時点で行くのはよくない。
「ひとまず、ケントとココアの腕輪を先に作ってもらおう。そのときに、ルミナスおばあちゃんに夜中にこっそりティティアとリロイを連れて来ていいか確認しよう。昼に行くよりはいいと思うんだよね」
私がそう提案すると、みんな頷いてくれた。
***
ティティア、リロイ、ミモザ、ブリッツはスノウティアに残り、私、タルト、ケント、ココアの四人でツィレにやってきた。
今回は情報収集も兼ねているので、なんだかいつもより緊張するね。〈冒険の腕輪〉を作り終えたら、〈フローディア大聖堂〉に行ってみる予定だ。
私はお土産のクッキーを持って、ルミナスおばあちゃんの家のドアをノックした。すると、すぐに笑顔のルミナスおばあちゃんが出てきてくれた。
「おや、シャロンじゃないか。いらっしゃい」
「お久しぶりです。今日はこの二人の腕輪をお願いしたくて」
「ケントです! よろしくお願いします!!」
「ココアです。どうぞよろしくお願いします」
ドキドキしているらしいケントとココアが、ばっと頭を下げた。腕輪を手に入れるのが、かなり楽しみだったみたいだね。
「もちろんさ。さあ、お座り。今、お茶を淹れようね」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますにゃ」
私たちがお茶をいただいている間に、ルミナスおばあちゃんは慣れた手つきで〈冒険の腕輪〉を作ってくれた。
「ほら、これが二人の〈冒険の腕輪〉だよ」
「「ありがとうございます!!」」
ケントとココアは、目をキラキラさせて出来上がった〈冒険の腕輪〉を手に取った。まるで宝物だと、そう言わんばかりに。
二人が腕輪をつけると、タルトが「使い方を説明しますにゃ」と言って、ルミナスおばあちゃんと一緒に説明をしてくれている。私の弟子、とっても気が利いて優秀だ!
「は~~、話には聞いてたけど、本当にすげぇな……」
「信じられない、荷物が全部入っちゃった……」
「わたしも最初は驚きすぎて大変だったですにゃ」
タルトが「わかりますにゃ」と二人の驚きに同意している。ルミナスおばあちゃんも、嬉しそうに二人を見て頷いている。
――さて。ここからがある意味本題だ。
「実は、折り入ってご相談があるんです」
「うん? どうかしたのかい?」
「……〈冒険の腕輪〉を作ってほしい仲間がいるんですけど、日中に来るのが難しそうで。ルミナスおばあちゃんには負担になってしまって申し訳ないんですけど、夜中に連れてこられたら……と」
あまり深く事情を話すわけにもいかないので、なんともいえない説明になってしまった。これでオッケーをもらえたら、ルミナスおばあちゃんはかなり懐が深いよい人ではないだろうか……。説明が下手過ぎて泣きたい。
しかしルミナスおばあちゃんは、真剣な表情で私を見た。
「何か理由があるようだね。そうさね、美味いワインで手を打ってやろうじゃないか」
「いいんですかっ!?」
「ああ。シャロンはもう、私の孫みたいなもんだからね。いつでも遊びにおいでと言っただろう?」
仕方ないねぇと、私を甘やかすようにルミナスおばあちゃんは笑顔を見せてくれた。今度は腕輪が必要じゃないときも全力で遊びにくるから……! そうだ、行く先々のお土産を持って遊びに来よう、そうしよう。
ふー。肩の荷が下りたらちょっと気が楽になった。
「ルミナスおばあちゃん、ありがとうですにゃ」
「子供がそんなに気にするもんじゃないよ。……そういえば、シャロンは〈癒し手〉だったね」
「そうですけど、どうかしましたか?」
私が頷くと、ルミナスおばあちゃんは困惑しつつ〈フローディア大聖堂〉のことを教えてくれた。
「実は最近、〈フローディア大聖堂〉へ行くとお祈り金が必要になるんだよ」
「お祈り金!?」
なんじゃそりゃ!!
「え? あそこって、誰でも無料で入れるところ……ですよね?」
私が驚いて声をあげると、ケントも不思議そうに首を傾げている。そう、あそこはケントが言う通り誰でも無料で使うことができる。もちろん、寄付の受付もしてはいるけれど、強制的なものは一切ない。
……間違いなく、ロドニーがやってるんだろうね。
〈癒し手〉から〈ヒーラー〉に、そして〈アークビショップ〉に。その転職はすべて〈フローディア大聖堂〉で行われる。
これは早急に確認する必要があるね。
「私、大聖堂に行ってみる! ケントたちは、タルトも連れて〈冒険者ギルド〉に行ってもらっていい? タルトはギルドでアイテムの買い取りをお願い。あと、いらないアイテムの売却も」
「ああ、わかった」
「了解ですにゃ」
大聖堂とギルド、両方の情報が必要だ。タルトはもうギルドでの売買は完璧だから、任せても問題はない。とりあえず〈火炎瓶〉の材料は絶対に必要だ。
「最近の大聖堂は、どうも信用ならないからね……。シャロン、気をつけていくんだよ」
「はい。教えてくれてありがとうございます、ルミナスおばあちゃん」
「「ありがとうございました」」
「ありがとうございますにゃ」
私たちはルミナスおばあちゃんの家を出て、二手に分かれた。
〈フローディア大聖堂〉は中央広場にある。人通りが多いこともあり、普段は大聖堂に入る人もよく目にするんだけど……明らかに人の出入りが減っている。ルミナスおばあちゃんが言っていた、お祈り金のせいだろうね。
「ひとまず、中に入ってみよう」
掃除が行き届いている大聖堂は、いつも清潔だ。その点は変わっておらず、荘厳な雰囲気も健在だが……働いている人――神官や巫女から笑顔が消えている気がする。
私は受け付けへ行って、巫女に「こんにちは」と声をかけた。
「……ようこそ、〈フローディア大聖堂〉へ。お祈り金は3,000リズです」
「はい」
内心で高ッ! と思いながらもお祈り金を払って中へ入る。ここで何か言って私のことを覚えられてものちのち面倒だからね。ちなみに、3,000リズあれば宿に泊まることができる。
「では、ご案内いたしますね」
「あ、はい……」
どうやら案内してくれるようだ。前に来たときはご自由にという感じだったけど、方針が変わったのかな……?
……まあ、中を見れるなら特に問題はないけど。
――〈ヒーラー〉への転職。
私が〈癒し手〉に転職したときに祈った女神フローディアの像へ祈りを捧げてから司教に声をかけ、クエストを受ける……というものだ。クエストの内容はおつかい。数人のNPCを癒してくる、というものだ。人数は三人~五人のうちのランダムで、居場所はツィレ内に最低一人、ほかの人は〈エレンツィ神聖国〉のどこかにいる。
ついでに転職クエストも受けちゃおう♪ なんて思っていたら、いつもお祈りしているフローディア像がある部屋を通り過ぎた。
………………ん?
「あの、通り過ぎちゃったみたいなんですけど……?」
「その部屋は閉鎖しておりまして、今は違う部屋でお祈りしていただいてるんですよ」
…………なんてこった。