10 合流
「ミモザ、ブリッツ! 無事でよかった」
「「ティティア様!!」」
ティティアとリロイがすぐ二人のところに駆け寄って、「怪我は?」など確認をしている。リロイが〈ヒール〉を使っているので多少の怪我はあったみたいだけど、元気そうだね。よかった。
私は「お疲れ様!」とみんなに声をかけて、支援をかけなおす。当初の予定とは違ったけれど、無事に〈ワイバーン〉を倒すことができてよかった。
〈ワイバーン〉のドロップアイテムは、〈竜の鱗〉と〈破れた竜の翼〉が落ちている。この二つは高確率で落ちるドロップアイテムで、何かの装備かアイテム製作の材料になったはずだ。〈ワイバーン〉は〈咆哮のブローチ〉というアクセサリー装備も落とすので、できればそれは手に入れたかったりする。効果は火系の攻撃力3%アップと駆け出しにはありがたい。ココアにちょうどいいと思うんだよね。
「ひぇー、肝が冷えたさすがに……。でも、俺たちでも本当に〈ワイバーン〉を倒せるんだな……」
ケントは自分の手をじっと見つめてから、ぐっと握りこんでいる。わずかに震えているように見えるけれど、恐怖からではなさそうだ。
「みんな無事でよかったですにゃ」
「タルトの〈火炎瓶〉がなかったら大変なことになってたね……」
「お役に立てて何よりですにゃ~」
みんなが安堵しているところ申し訳ないが、私はパンパンと手を叩く。一度拠点に戻って態勢を整えるのが先だ。ミモザとブリッツの話も聞きたいからね。
「ここにいるとモンスターが来ちゃうから、一回拠点に戻ろう」
「はい。ありがとうございます、シャロン」
リロイが頷き、ミモザとブリッツに「こっちです」と声をかけた。
〈聖騎士〉は、教皇――つまりティティアの直属部隊だ。主な仕事はティティアの護衛だろう。
今は満身創痍の様子だけれど、誇り高い騎士の鎧に身を包む二人は格好良いと思う。ただ、ティティアを守れなかったことを後悔しているようだ。自分たちは不甲斐ない、と。
「私たちはティティア様をお守りできませんでした……。どんな罰でも受け入れます」
「〈聖騎士〉の地位をいただきながら、ティティア様を逃がすことが精いっぱいでした。自分が恥ずかしいです……」
拠点に着くとすぐ、ミモザとブリッツが膝をついてティティアに頭を下げた。しかしティティアはゆっくり首を振った。
「いいえ。二人はわたしを守ってくれました。……ミモザ、ブリッツ、生きてわたしのところに戻ってきてくれてありがとう」
「「ティティア様……!」」
慈悲深い笑みを浮かべるティティアに、ミモザとブリッツが涙目になっている。「ご無事で何よりです」と、何度もティティアに礼を述べていた。
「お師匠さま、お茶が入りましたにゃ」
「ありがとう」
話したいことは山ほどあるだろうけど、まずは一回落ち着くことが大切だからね。私は〈鞄〉からお菓子を取り出し、全員に座るよう促した。まずは軽く自己紹介だね。
「初めまして。私は〈癒し手〉のシャロン。私の隣から順番に――」
「弟子のタルトですにゃ。〈錬金術師〉ですにゃ」
「俺は〈剣士〉のケント」
「私はココア。〈魔法使い〉です」
と、全員が自己紹介をする。
「私はミモザ。〈聖騎士〉です」
「ブリッツです。同じく〈聖騎士〉で、ティティア様にお仕えしています」
どうぞよろしくお願いしますと挨拶を交わし、私はさっそく本題を切り出すことにした。ちんたら話している時間はないからね。
「今、クリスタルの大聖堂にいるのはロドニー・ハーバスだと私たちは認識しています。それは二人とも同じですか?」
私の言葉にミモザが頷いてくれた。
「はい。ロドニーはティティア様の教皇の地位を奪おうと、クリスタルの大聖堂を乗っ取りました。ティティア様に味方する〈聖堂騎士〉たちは、ほとんどが捕えられて地下牢に入れられています」
「なるほど……」
ティティアの味方がほとんど捕まっていることを考えると、救出する必要もあるね。クリスタルの大聖堂を取り返す前か、もしくはすべて終わったあとに解放するかは難しいところだけど……。
私が悩んでいると、ブリッツが「あの……」と口を開いた。
「みなさんは冒険者ですよね? 大聖堂の問題は一筋縄ではいきません。それでも、ティティア様に味方してくれるのですか……?」
「……そりゃあ、私も悩みましたよ。特にケントやココアを巻き込むのはよくないだろう……って。でも、私たちはこの国が、ティティア様が好きですから。協力するって決めたんです」
ブリッツの疑問は尤もだ。ティティアはいうなれば、部下に裏切られたのだから。今までまったく接点のなかった私たちが味方だと言われても、すんなり納得するのは難しいだろう。もしかしたら、私たちがロドニーのスパイという可能性だってあるのだから。
だけど私の言葉だけでは弱いかな? そう思ったら、リロイが口を開いた。
「シャロンは、私が協力をお願いしたんです。信頼できる冒険者ですよ」
「ええ。シャロンもタルトも、ケントもココアも、とても強くて頼りになる冒険者なんですよ」
ティティアもにっこり笑って、私たちの凄さを語ってくれた。オークに〈火炎瓶〉を投げたくだりは顔を青くしていたけれど、二人とも「素敵な方なのですね」と頷いてくれた。……ちょっと恥ずかしいね。
「……まあ、そんなわけで私たちはロドニーから大聖堂を取り戻します!」
「「はい!」」
私の言葉に、ミモザとブリッツが気合を入れて頷いた。
***
そして翌日。
ミモザとブリッツが加わったことにより、狩りが劇的に安定した。
「ケント、もっと腰を落として剣を構えるんだ。足だけで動こうとせず、体全体を使って!」
「はいっ!」
前衛が二人増えたことももちろんだけど、ブリッツがケントに指導してくれているのだ。剣の使い方や、前衛としての立ち回り方。私は大まかな立ち回りを指示することはできるけれど、体の使い方や注意喚起の仕方を教えることは難しい。
……ケントは今回で、かなりスキルアップするんじゃないかな?
そして私たち後衛には、ミモザが前衛から見た立ち回り方を教えてくれる。例えば後ろからモンスターが出てきたらどのように動けば助かる、攻撃のタイミングはいつ、など。タルトとココアは一生懸命で、いろいろなことを質問している。
すると、ミモザが私を見た。
「……シャロンは、立ち回りも支援も、何もかも完璧ですね……。私が教えることは何もなさそうです」
なんてこった。
「というか、本当に〈癒し手〉ですか?」
「本当の本当に〈癒し手〉ですよ! 〈ヒール〉! ほらね?」
「……確かに〈癒し手〉のスキルですね」
それでもあきらめきれないのか、ミモザが「むむ……」と唸る。すると、タルトとココアがクスリと笑った。
「お師匠さまですから、考えても仕方ないですにゃ」
「私も出会ったときから、シャロンには驚かされてばっかりなんです」
「ちょ、二人とも!」
「シャロンはすごいです」
「シャロンのことを言語で説明するのは難しいですね」
「ティティア様にリロイ様まで!?」
私に対する認識がひどい!
……まあ、この世界の知識がゲームよりかなり遅れている、というのはわかってるけどさ。
「って、ほら! 〈ゴロゴロン〉が二体来ますよ!」
「ハッ! そうでしたにゃ!」
「いきます! 〈ファイアーアロー〉!」
こうして私たちはひたすら狩りをして、なんとか全員がレベル40になった。