8 自己紹介(お話合い)
「つまり……リロイ様は司祭で」
「ティティア様が、教皇……!?」
ケントとココアが驚きを通り越してガタガタ震えてしまった。リロイはともかくとして、ティティアが教皇――この国のトップだとは思ってもみなかったのだろう。可愛い女の子だし、その気持ちはとてもよくわかるよ。
ティティアがそんなケントとココアの前に行き、膝をついて顔を合わせた。
「黙っていてすみません。……わたしとリロイは、ロドニーに支配されてしまった大聖堂を取り返すため、シャロンと一緒に行動しているんです」
「大聖堂が……」
ケントはぐっと拳を握りしめて、ゆっくり深呼吸をした。わずかに下を向いて、どうするか必死に考えているのだろう。
乗っ取られた大聖堂を取り返すための戦いは、おそらく激しいものになるだろう。今のレベルでは太刀打ちするのは難しいし、最悪――命を落とすことだってあるかもしれない。軽く決断できるものではないのだ。
……レベル上げが終わったら、ケントとココアには他国に避難してもらった方がいいかもしれないね。
ある程度レベルが上がれば、旅だって問題なくできるはずだ。それこそ、隣国に行って剣士系統の二次職に転職するのもいいだろう。私がそう考えていると、ふいにココアがケントの肩にそっと手を置いた。
「そんなに悩むなんて、ケントらしくないよ?」
「ココア、お前な……」
「どうせ答えは出てるんでしょ? 私も、それでいいと思うよ」
クスクス笑いながら告げるココアは、どうやらケントのことはすべてお見通しのようだ。だてに幼馴染みはしていないね。
ケントは「よしっ」と気合を入れて、顔を上げた。
「俺たちもティティア様を手伝う! ……まだ弱くて頼りないけど、そこはシャロンに鍛えてもらおうと思う!!」
「うん。ここは私たちが生まれた国だもん。悪い奴の手に渡るなんて、まっぴらごめんだよ!」
「――!」
二人が出した結論に、ティティアとリロイは目を見開いた。正直に話して、ついてきてくれるとは思わなかったようだ。ティティアがまるで涙を呑み込んだような顔をしてから、胸元で手を組んだ。
「お二人の決意、しかと受け取らせていただきます。……ありがとうございます」
ティティアの言葉に、ケントが首を振って笑顔を見せる。
「いや、俺たちこそ……いつも国を守ってくれてありがとうございます。確かに冒険していろいろ旅してみたいと思うけど、やっぱり俺はこの国が好きだから」
「そう言っていただけると嬉しいです」
改めて正式なパーティになった私たちは、これからのことを話し合うことにした。といっても、することは今までと変わりはしない。
レベルを上げて転職し、大聖堂を取り戻す。そして私はこの世界の景色を堪能する! ということ。ティティアとリロイは一緒に旅は無理だろうけど、ケントとココアは広い世界を見たそうだからね。
――さて。ここで考えるべきことは、ティティア、リロイ、ケント、ココアにどこまで話すか……ということだよね。
私が持つゲーム知識は、簡単に教えていいものではない。今までにない概念をぽんと投げ込むようなものだと思っているからだ。
……とはいえ、少人数で大聖堂を奪還するならスキル調整は必須。
私は考えながら、みんなの顔を見る。
まだ出会ってそんなに経っていないのに、ケントとココアは顔つきがだいぶ凛々しくなったように思う。ティティアとリロイは、自分たちの信念のために戦う決意をしている。つまり信じるに値する仲間だ――と、私は思っている。
私は隣でお茶を飲んでいるタルトを見て、声をかける。
「タルト。私はみんなにも腕輪のクエストをしてもらおうと思ってるよ」
「はいですにゃ。この四人なら、大丈夫だと思いますにゃ!」
「うん。私もそう思う」
タルトも私と同じ答えを出してくれたようだ。私たちは頷きあって、〈冒険の腕輪〉の話と、スキルの取得の仕方を話すことに決めた。
「四人とも。今から話すことを絶対に口外しないって誓うことはできる?」
「「「「――!?」」」」
真剣みを帯びた私の声に、四人が息を呑んだ。最初に口を開いたのは、リロイだ。
「……シャロンがそこまで言う情報があるというのですか」
「あるんです。きっと、世界が変わりますよ」
私が不敵に微笑んで見せると、リロイがごくりと喉を鳴らす。情報を聞きたくて仕方がないのだろう。
「――わたしは誓います。シャロンから聞いたことは、決して口にはいたしません」
「私も誓いましょう」
最初に誓いの言葉を口にしたのはティティア。そして次に同意したのはリロイだ。すると、すぐにケントとココアも頷いた。
「俺も誓う!」
「私も誓います!」
四人ともが頷いてくれたので、私は腕輪とスキルの話を始めた。最初は「まさか」という表情をしていた四人だったけれど、次第にその顔は真剣みをおびた。
「……いやいやいやいやいや、待ってくれ、無理だろそんなの――いや、だからシャロンは最初から複数のスキルを使えたのか!」
「確かに、それならシャロンの規格外も納得だね……」
ケントとココアが頭を抱えて、「信じるしかない」と告げる。二人は低レベル時の私のスキルを知っているから、すんなり信じてくれた。ティティアは「すごいですね!」と純粋に信じてくれているが、リロイは若干訝しむ目を私に向けている。ふん、後で驚いて〈スキルリセットポーション〉の不味さにのたうち回るといいよ。
「ということなので、まずは全員で二次職になりましょう。その後で大聖堂を取り戻すのがいいと思います。まあ、数日もあればレベルは上がるので大丈夫でしょう」
「いやいやいやいやいやいや? 数日?」
「うん。レベルが40になると二次職になれるでしょ? ケントは〈騎士〉か〈盾騎士〉だね。〈騎士〉の次は〈竜騎士〉に、〈盾騎士〉の次は〈重騎士〉になれるから、それも踏まえて転職先を決めるといいよ」
「いやいやいやいやいやいや? え? 〈竜騎士〉に〈重騎士〉? そんな簡単になれるのか? いや、待ってくれ、理解が追い付かない……」
ケントは「いやいやいや?」と繰り返している。大混乱だ。
「まあ、悩むのも仕方ないよね。パーティをメインにするなら〈重騎士〉がお勧めだけど、〈竜騎士〉は火力が高くてソロでも戦えるよ」
「そうじゃなくて!!」
ただ、〈竜騎士〉などの覚醒職にはレベルが100必要なので、そこそこ大変だ。狩場も考える必要があるし、何より装備もいいものを手に入れなければ話にならない。
私が考え込んでいると、ケントが脱力して「はああぁぁ」と大きく息をはいた。
「もうシャロンのことで驚いても仕方ないな」
「そうだねぇ」
ケントとココアがお茶を飲んで、うんうん頷いている。その横ではタルトとリロイもいい笑顔で頷いている。
「ココアの場合は、〈ウィザード〉になって〈アークメイジ〉になる流れと、〈言霊使い〉になって〈歌魔法師〉になるかのどっちかだね」
「でも、そんな簡単に覚醒職になれるなんて……。各国でも、本当に数人くらいしかいないって聞いた気がするんだけど……」
「それくらいしかいないの……!?」
ココアの言葉に、覚醒職は想像していたよりずっと少ないのだなと実感させられた。でも、ダンジョンだってあまり攻略されていないもんね……。
大聖堂を取り返すことができたら、ティティアたちと〈冒険の腕輪〉の情報共有についてしっかり考える時間を取った方がよさそうだ。そして大勢がダンジョン攻略をしたりして、アイテムや素材の物流がよくなればいいと思う。
とりあえず!
まずはレベル40を目指して頑張るということで話は終わった。ケントから「ひとまず整理する時間をくれ!」と言われたことも大きい。
読んでみたい短編ありがとうございます!
メインキャラじゃない場合は誰がいいか悩むので、とても助かります。
参考にさせていただきますー!