7 まずは軽く様子見
「後ろから〈ゴロゴロン〉が来たよ!」
「任せろ! 〈挑発〉!!」
ココアの声に、全員が戦闘態勢を取る。ケントはスキルを使って〈ゴロゴロン〉の意識を自分に向けさせ、攻撃を引き受ける。――とはいっても、直線で転がってくるだけの攻撃なので、簡単に避けることが可能だ。
「〈ポーション投げ〉にゃっ!」
「〈ファイアーアロー〉!!」
タルトとココアのスキルが命中し、どんどん攻撃していく。あっという間に倒してしまい、〈ゴロゴロン〉は光の粒子になって消え、その場にはドロップアイテムの〈石〉が残った。その辺に落ちてる石なので価値はない。
「よっし、上手く倒せるようになったな!」
「うん、いい感じ!」
ケントとココアがハイタッチして、〈ゴロゴロン〉を倒せたことを喜ぶ。それを見たタルトとティティアも真似をしていて、これまた可愛い。なお余ったからといって私とリロイがハイタッチをすることはない。
……という感じで、無事に拠点を作った私たちは軽く狩りをしている。本格的な狩りは明日からで、今はパーティの連携などをしっかり確認するための時間だ。
……とはいえ、かなりいい感じなんだよね。
最初は〈深き渓谷〉にビクビクしていたケントたちも肩の力が抜けたようで、今では楽しそうに〈ゴロゴロン〉を倒している。
順調だ順調だと私が頷いていると、不意にタルトの尻尾がぶわっとなった。
「にゃにゃっ!?」
「わっ、可愛い妖精さん!」
声をあげたタルトとティティアの視線の先には、本日初めて目にする〈シルフィル〉がいた。大きさは30センチほど。緑を基調とした服に黄色とピンクの差し色が使われている、キャラデザに力が入ってます! と言わんばかりの可愛い風の妖精モンスターだ。
……これは倒しづらそうだね!
「いくぞ、〈挑発〉!!」
と思ったらケントがめちゃくちゃ通常営業で、〈シルフィル〉に斬りかかっていった。頼りになるぅ……!
「えええぇぇっ、そんな可愛い子を攻撃してしまうんですか……っ!?」
「可愛いから手を緩めたら、やられるのはこっちだ! 敵の姿に惑わされたら、冒険者なんてやってられねぇ!」
ティティアの言葉にケントが答え、「それに普通に強いし襲ってくるし!!」と叫ぶ。〈シルフィル〉が風魔法を使ってケントに攻撃を始めているので、ティティアはハッとして表情を引き締めた。モンスター相手に可愛いと言っている場合ではないと悟ったようだ。
「〈奇跡の祈り〉! やりました、攻撃力アップです!」
そう言うと、ティティアは〈火炎瓶〉を投げつけた。なんともたくましくなったものです。が、残念なことに火炎瓶は〈シルフィル〉に当たらず外れてしまった。ティティアはガガーン! とショックを受けている。
〈シルフィル〉は小さいので、〈ゴロゴロン〉に比べると攻撃の命中率が下がる。……戦闘に慣れるまでは、倒すのに少し時間がかかるかもしれないね。
「ティティア様の攻撃を避けるとは……! 〈鉄槌〉!!」
リロイが〈シルフィル〉に魔法の十字架を落として攻撃している。レベル5なので、実はまあまあ使えるんだよね。ただ、装備を整えないと攻撃力は天と地ほどの差が出る。……リロイが攻撃方面に向かうなら、装備の相談もしていいかもしれない。
私はタルトに〈女神の一撃〉をかけ、全員に支援をかけなおして、ケントには〈リジェネレーション〉も追加しておく。リロイは〈女神の守護〉をかけなおしてくれている。
『キャー!』
耳が痛くなりそうな〈シルフィル〉の高音の叫びとともに、風の刃が飛んでくる。けれど、リロイが〈女神の守護〉をかけてくれているのでへっちゃらだ。
「ココア、とどめをお願い! 〈女神の一撃〉!」
「――! いきます、〈ファイアーアロー〉!!」
攻撃力が二倍になったココアの攻撃が、見事に〈シルフィル〉を倒した。光の粒子となり消えた場所には、ドロップアイテムの〈小さな花〉と〈薬草〉が残る。
「よっし!」
ケントがぐっとガッツポーズをし、勝てた喜びをあらわにする。初めて遭遇したモンスターを無事に倒せたのは嬉しいよね。わかる。
ドロップアイテムは私の鞄にしまって、私たちはもう少しだけ狩りをして過ごした。
***
ジュワアアアァッと小鍋の中でバターが溶けたのを確認して、私はブロッコリーやキノコ、小さめにカットしたお肉などを入れていく。ん~、バターの香りが暴力的。
「シャロン、調味料は何を使いますか?」
「バターの塩分がいい仕事をしてくれるので、このままパンを付けて食べちゃってください」
「へえぇ、お手軽でいいですね。今度、私もやってみます」
私が作ったアヒージョに、リロイが感心している。バターの使用量がえげつないのでカロリーのことを考えるとそっと目を閉じたくなるが、狩りで動いているので全く問題ない! ……と、思うことにして食します。
野菜と肉を刺した串を焚火で焼いて、それぞれパンとアヒージョに、チーズも用意している。焚火をぐるりと囲い円になって、私たちはこれから夕食だ。
「「「いただきますっ!!!」」」
パンにアヒージョをつけて、キノコを乗せて食べる。めちゃくちゃ美味しくて、「んんん~!」と言葉にならない声しか出ない。
向かいではケントが肉にかぶりついて、その隣のココアはパンにチーズを乗せて食べている。ティティアはアヒージョに目をキラキラさせていて、リロイは串から肉を外してティティアが食べやすいようにしてあげている。タルトは私の隣で「美味しいですにゃ~!」とお肉をモグモグしている。
しばし一心不乱で食べて、その後はお茶を淹れつつのんびり食べ進めていく。さすがにお酒はないけれど、いつかみんなで酒盛りができたら楽しそうだ。
ちょうど会話が途切れたところで、ケントが全員に向かって「なあ」と声をかけてきた。
「えーっと……。軽く戦闘もこなしたし、ここらへんでちゃんと自己紹介をしたいんだけどいいか? いや、いいですか……?」
言い直したケントの視線は、ティティアとリロイに向けられている。二人が只者ではないということを察してしまったのだろう。
……いや、私がちゃんと説明すべきだったよね。
「そういえば、結構勢いのまま狩りに来てしまいましたね」
「こっちについてからも、強敵との戦いでいっぱいいっぱいだったもんね」
ティティアとココアは顔を見合わせて、あははと笑っている。
……うん。この二人はあまり深く考えてなさそうだ!!
「少し話が長くなりそうなので、お茶を淹れ直しますにゃ」
「ありがとう、タルト」
「いえいえですにゃ~」
タルトは照れながら新しいお茶を淹れてくれた。〈冒険の腕輪〉を手に入れたタルトの鞄には、実は結構いろいろな食料が入っていたりする。おやつとか。
私がリロイに視線を向けると、静かに頷いた。二人のことを話しても問題ないようだ。私は小さく深呼吸をして、ケントとココアに改めてティティアとリロイのことを話した。
お久しぶりの更新になってしまいました…!
楽しんでいただけていると嬉しいです。
ケントが実は結構しっかりしているんですよね。
次回は自己紹介(お話合い)です。
リクエストとかそういうあれではないのですが、もし誰視点の話を読みたいとか、このときあの人は何をしてたんだ!? みたいなものがあったら感想にそっと添えていただけると嬉しいです~!
いつもSSとか誰がいいか悩んでしまうので……。




