6 拠点地点へ移動
すぐにでもレベル上げ開始! といきたいところだけれど、まずは拠点を作らなければならない。今回は長期戦でレベル上げをするから、きちんとした準備が必要だ。休憩もこまめに取ったら効率もいいからね。
「狩りの前に拠点を作るよ! ということで、拠点にする場所まで移動しよう。場所は当たりをつけてるんだ」
「お、おお、お、おう!」
私の言葉に、ケントがガチガチになりつつ返事をした。空に飛んでる〈ワイバーン〉を見て汗がダラダラだったから、かなり緊張してるんだろう。
……今はパーティメンバーも揃ってるから、そこまで苦戦することはないと思うんだよね。
〈オーク〉のときだってすぐに慣れてくれたから、〈ワイバーン〉もきっと時間の問題だろう。すぐに慣れると思う。ケントは戦闘のセンスもいいからね。
私たちはケントを先頭にして、私、タルト、ココア、ティティア、リロイの順で進んでいく。私が早めに状況を確認し、細かいところをリロイにフォローしてもらうという作戦だ。この中で一番指示を出しやすいのは、私だからね。
少し歩くと、ケントが思わず足を止めた。
「あれ……」
「ああ、〈マンドラゴラ〉だね。引っこ抜くと襲ってくるけど、何もしなければ大丈夫。……あ、戦いたい?」
ドロップアイテムはそこそこいいものを落とすので、戦ってもいい。経験値だって、別に悪いわけじゃない。しかしケントは首を振って、「戦わずに進もう」と告げた。
「ほかのモンスターは問答無用で襲ってくるんだろ? だったら、襲ってこない〈マンドラゴラ〉に関わるのは危険だ。〈マンドラゴラ〉と戦ってるときに、ほかのモンスターがきたら、俺たちじゃまだ対処できない」
「うん、そうだね」
ケントの考えに、私は頷く。ケントは脳筋と見せかけて、実は結構考えているのだ。ケントが頼りになるとなんだか嬉しくなる。初心者の成長を見守っている感じが、なんだか楽しい。
〈マンドラゴラ〉を無視して進み始めるとすぐ、ゴロゴロゴロと、何かが転がる音が耳に届いた。かなりのスピードだ。
……この音は、〈ゴロゴロン〉だね。
「戦闘準備! 〈女神の一撃〉!」
「――はいっ! 〈神の寵愛〉!」
私はタルトに攻撃力が二倍になるスキルを使い、ティティアは自身のステータスが上がるスキルを使う。私とほぼ同時だ。ティティアが戦闘に慣れてきているのがわかる。
そこに一呼吸後、リロイが〈女神の守護〉をケントにかける。少し遅れたのは、周囲に視線を配り状況把握をしていたからだ。敵の攻撃はまだ来ていないので、問題ない。
戦闘準備が整ったところで、ちょうどよく〈ゴロゴロン〉が視界に入った。岩がいくつもくっついてできた球体のモンスターだ。一説では、転がっていくうちに岩が体に引っ付いて大きくなっていくのだとか。
「いくぜ! 〈挑発〉!!」
ケントがスキルを使って前に飛びだした。それを目がけて、〈ゴロゴロン〉が転がってくる。ケントはじっと目を逸らさず、〈ゴロゴロン〉の攻撃を横にジャンプして避けた。
「っふー、怖っ! けど、避けられる!!」
軽く深呼吸をしたケントが、「攻撃だ!」と声をあげる。それに応えるのは、タルトとティティアとココアだ、
「いきますにゃ! 〈ポーション投げ〉!」
「えいっ!」
タルトはスキルで、ティティアはそのまま、〈火炎瓶〉を投げつけた。〈ゴロゴロン〉の体の石がいくつかはがれたが、まだ倒せていない。
「わたしだって! ――〈ファイアーアロー〉!」
詠唱を終えたココアがスキルを使うと、それがちょうどトドメになったようで、〈ゴロゴロン〉が光の粒子となって消えた。
……よし!
思っていた以上に、余裕で倒すことができた。ケントが怖がらずにしっかり前衛を務めあげたというのが大きい。
我らのパーティ、最高では???
見ると、ケントはガッツポーズをし、タルトとティティアは手を合わせて喜んでいる。
今回の戦闘は、タルトに〈女神の一撃〉をかけた。つまり二撃分。加えて、ティティアが投げた素の〈火炎瓶〉とココアの魔法一発。ココアもレベルが上がってるから、おそらく攻撃力は同じくらいだろう。余裕があれば、〈女神の一撃〉を二人のうちどちらかにかけてもよさそうだ。
とはいえ、レベルが上がればその必要もなくなっちゃうだろうけどね。ここは経験値もおいしいから、どんどんレベルが上がるはずだ。
タルトが〈ゴロゴロン〉のドロップアイテムを拾って、私たちは再び歩き出す。道中何度か〈ゴロゴロン〉が出たけれど、難なく倒すことができた。
しばらく歩くと目的地に到着した。見晴らしのいい開けた場所で、目の前はそびえたつ崖になっていて、壁面には奥行き10メートルほどの浅い洞窟がある。
ここはゲーム時代に休憩スポットとして使われていた場所で、モンスターの出現が少ない。なので、比較的ゆっくりすることができる。
「へええ、いい場所だな! 見晴らしもいいから、モンスターがきたらすぐわかる」
「うん。大きな岩もあるから、見張りもしやすいね」
ケントとココアがさっそく拠点のよさに気づいたようだ。うんうん、そうやって拠点の周囲を確認するのって大事だよね。
全員が荷物を下したのを見て、私は声をかける。
「とりあえず今回の目標は、全員のレベルが40になることかな」
「「「40!?」」」
「にゃっ!?」
私の宣言に、全員が声をあげて驚いた。いやいや、リロイのレベルが47だから、余裕を持つにはそれくらいのレベルが必要だよね?
「ここならレベル40くらいすぐだから、大丈夫、大丈夫!」
「やっぱシャロンは規格外だ……」
「わたしのレベルは28なんですが……」
ケントが呆れ、ティティアが震えているけれど、こればかりは受け入れてもらわなければ仕方がない。私たちは、早急にレベル上げをしないといけないからね。
……ティティアがツィレの大聖堂を取り戻すためにも。そして私が聖女に転職するためにも!
「シャロンの規格外は今更だもんね。よし、野営の準備をしよう!」
「はいですにゃ」
何か悟りを開いたような顔をしたココアが、荷物を下して準備を始めた。それを手伝うため、タルトもテントを取り出して「敵が来る前に終わらせるにゃ!」と気合を入れている。
「そうだな、急いで拠点を作ろう!」
ケントは「考えても仕方ない」と言って、テントの設置をし始めた。力仕事を進んでやってくれるみたいだ。
「わたしはどうすればいいですか?」
「ティティア様は、リロイ様と一緒にここから見える範囲で薪を拾ってもらっていいですか? 数日は滞在するので、何本あってもいいです」
「はい!」
「わかりました」
ココアは食料の確認をしてくれている。料理上手がパーティ内にいてくれるとめちゃくちゃ助かるよね……!
私はというと、拠点の周囲をぐるっと歩いて地形把握などを行っている。高い岩に登って周囲を見たりして、ゲーム時代と違いがあるか確認しているのだ。今までの経験上、問題ないとは思うけど……現実になった分、やっぱり多少の距離感とかは違うからね。実際に確認することは大事だ。
……とはいえ、ひとまず問題はなさそうだね。
空を飛ぶ〈ワイバーン〉も、今のところこっちに下りてくる様子はない。こちらから攻撃しない限りは問題ないだろう。
拠点が整ったら〈ゴロゴロン〉を討伐して、明日以降は〈シルフィル〉と〈ワイバーン〉と戦う予定だ。
「ん~、あっという間にレベル40になりそうだね」
レベル40になったら二次職に転職というイベントも待っている。うーん、やることがたくさんだ! でも楽しい!
私はワクワクする気持ちで拠点へ戻った。
更新が遅くなりましてすみません…。ちょっと、かなり忙しいです。(´・ω・`)
がんばります。
お知らせが二つ。
★次にくるライトノベル大賞
本作がノミネートされました!!!(嬉)
ぜひ投票をお願いいたします〜!(15日の夕方が〆切です)
★コミック発売のお知らせ!
コミカライズの1巻が12月16日に発売です。
とても素敵にコミカライズしていただきました。どうぞよろしくお願いいたします!