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回復職の悪役令嬢  作者: ぷにちゃん
エピソード3~4 ユニーク職業〈聖女〉クエスト
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5 〈深き渓谷〉

 私が狩場として提案した〈深き渓谷〉は、ここスノウティアから北西にあるフィールドだ。大型のモンスターが出る場所なので、パーティで狩りをするのにちょうどいい。

 ……まあ、〈ワイバーン〉がいたりするんだけどね。

 きっとケントたちは、〈ワイバーン〉が怖いと思ってるんだろう。でも大丈夫! うちにはタルトがいるから、〈ポーション投げ〉でごんごん倒していく予定だよ。ドロップアイテムもおいしいしね。ちなみにすぐ隣には〈ドラゴンの寝床〉っていうダンジョンがあるんだけど、さすがにそこへ私たちのレベルで行くのは無理だ。


「日帰りでっていうのは難しいから、野宿用のアイテムを買ってこなきゃ。ギルドで依頼が出てたら、それも受けておいた方がいいね」

「ちょ、シャロン……本気か?」

「もちのろんだよ!」


 めちゃくちゃ本気だ。私たちにゆっくりしている時間はない。早くしなければ、ロドニーに国が支配されてしまうかもしれないからね。早急にレベルを上げなければいけないのだ。


「私とタルト、それからティティア様の三人で野宿用のアイテムとかを買ってくるよ。ケントとココアは、ギルドで依頼を受けて来てもらっていい? リロイ様は用事があれば済ませておいてほしいかな」

「了解ですにゃ!」

「はいっ!」


 私が指示を出すと、すぐにタルトとティティアが頷いた。二人とも元気のいい返事で、お姉さんはとても嬉しいですよ。

 ケントとココアは「本当に!?」と驚いているけれど、「シャロンだし……」と微妙な結論を出しつつ了承してくれた。〈ワイバーン〉の討伐依頼はお金になるので、ぜひ受けておきたいところ。


 そしてリロイ。仲間との連絡手段に関しては聞いていないけれど、おそらく何らかの手立てはあるだろうと思う。ただ、その連絡手段が生きているかは私にはわからないけれど。

 ……だって、今まで大聖堂でティティアに仕えていた人たちがロドニー派になったわけだよね?

 以前親しかったからといって、今、敵ではないと判断はできないのだ。リロイはかなり身動きがとりづらいと思う。


「ありがとうございます。伝言場所をもう一度見て、合流します」

「はい」


 連絡手段として、伝言場所を決めてあったようだ。リロイが行くのを見送って、私たちもそれぞれの役割のため別れた。



 ***



 ひゅおおおぉぉ~。

 深い渓谷の間を強風が吹いている音がして、私は思わず「おおぉ~」と感嘆の声をあげてしまった。


「いやいやいやいや、なんでそんなに気楽で嬉しそうなんだ!? 俺なんて緊張で手が――」

「あ、震えてる」

「違う! 武者震いだ!!」


 のんきな私に我慢ならなかったのか、ケントからツッコミが入ってしまった。しかしケントも緊張からくる震えではなく武者震いしているらしいので、私と同じでワクワクしていると判断してもいいのではないだろうか。

 ……よーし、ケントにいっぱい楽しんでもらおう!

 やはり前衛職のだいご味といえば、巨大なモンスターと戦うことだよね。現実世界となった今、なんだかロマンを感じるよ。もちろん命がかかっているので、最大限の警戒はするけどね?



 〈深き渓谷〉は、その名の通り深い渓谷が続いている。ほとんどの時間は強い風が吹いていて、一日中風の音が聞こえてくる。ごつごつした岩肌の地面は草木があまり生えていないけれど、大きな岩がたくさんあるので、見晴らしがいいとは言いづらい。

 まっすぐ伸びた渓谷の先には山があり、その頂にダンジョン〈ドラゴンの寝床〉があるというわけだ。



「お師匠さま、ここでの戦い方はどうすればいいですにゃ? 注意することがあれば教えてほしいですにゃ」

「そうだね。ここで出てくるモンスターは、〈ワイバーン〉〈ゴロゴロン〉〈シルフィル〉〈マンドラゴラ〉だよ」


 〈ワイバーン〉は簡単に言うと小さいドラゴンだ。空を飛んで襲ってくるけど、〈身体強化〉をかければ〈ポーション投げ〉でダメージを与えて落下させることができる。そこを全員で袋叩きにする。

 〈ゴロゴロン〉は岩が集まってできたモンスターで、転がりながら突進してくるのが特徴だ。ただし曲がったりする動作が苦手なので、攻撃はほぼ一直線。当たったらかなりのダメージだけど、ちゃんと見ていれば簡単に避けることができる。

 〈シルフィル〉は一〇〇センチくらいの風の妖精で、可愛い女の子の外見をしている。攻撃手段は風魔法。……可愛いから、倒しづらいかもしれないと、私は今から震えている。

 〈マンドラゴラ〉はファンタジーでよく出てくる、引っこ抜くと叫び声をあげる植物だ。生息数は多くなく、まれに地面に生えている程度。抜かなければ戦闘が始まることもないので、スルーで問題ない。


 私が一気に説明すると、ケントが「詳しいんだな!」とキラキラした目を向けてきた。顔に尊敬してますって書いてあるかのようだ。


「俺も調べたりしたけど、モンスターの種類くらいしかわからなかったんだ。もっと時間があればほかの冒険者に教えてもらえたんだけど、シャロンが知っててよかった」

「シャロンの知識はすごいよね」

「ああ」


 ケントとココアが二人して私を褒め、二人で「頑張ろう!」と気合を入れている。


「わたしはいつも通り、〈ポーション投げ〉しますにゃ!」

「えっと、わたしは……わたしは……」

「うん。タルトはがんがん投げちゃって! ティティア様はスキルで支援をしつつ、周囲の様子を見ててくれると嬉しいな。ここのモンスターは強いから、不意打ちされないよう気を付けないといけないの。メイン支援は私とリロイ様がするから」

「! とても大事なお役目ですね。わかりました!」


 ティティアはふんすと気合を入れて、武器の長杖をぎゅっと握りしめた。その手は少し震えているけれど、決意を秘めた目をしている。

 ……うん。ティティアは大丈夫そうだね。

 後ろに控えているリロイも、ティティアを守るために、いつも以上に神経を張り巡らせているみたいだ。ほどよくいい緊張感だと思う。


「よし、行こうか」


 私の声とともに、〈深き渓谷〉へ足を踏み入れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ごんごん倒していく予定 の ごんごん って、ガンガンの方言なんだろうか?
[良い点] 物語の内容がわかりやすい面白くてもっと早く読みたいです [一言] もっともっと早く読みたいです
[一言] 連日更新お疲れ様です。 シャロンちゃんは、前世の《リアズ》の記憶がありますからね~。しかもトップクラスの廃人・・・ゲフンゲフン、攻略組の支援職でアークビショップだったから、裏技とかも色々知…
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