2 ティティアのスキル
今日は一日お休みデーという名の、タルトの〈製薬〉デーだ。今後の狩りで使う〈火炎瓶〉や回復アイテムを作るのが目的。
ティティアが楽しそうにタルトの手伝いをしてくれているので、私は素材などが仕入れられていないか買い物に行くことにした。
街を歩きながらも、私の頭はフル回転だ。
ティティアのレベルは順調に上がってきたので、そろそろ次の狩場を視野に入れてもいい頃合いなのだが……いかんせん、〈火炎瓶〉の材料が心許ない。〈オーク〉のいいところは、材料のぼろ布を落とすところだからね。
それに、狩場を上げるとなると、前衛不足も気になってくる。リロイがある程度はカバーできるけれど、もっと先まで見据えると現実的ではなくなってくる。
頭をよぎるのは、ケントとココアだ。あの二人は〈剣士〉と〈魔法使い〉なので、私たちのパーティと相性がよく、効率も上がる。
……でも、でもなぁ……!
二人はいい子だ。ケントは一見、無鉄砲に見えるけれどしっかり考えてモンスターと対峙している。情報収集だってしているみたいだ。ココアは細やかなフォローが得意で、野宿に必要な生活関連の知識も持っている。
レベルは高くなく一次職だけど、そんなのは私たちも同じなので、一緒にレベリングをすればいい。
……二人を巻き込んでしまうのは、よくないと思うんだよね。
ゲーム知識を持った私は、きっとこの世界での生き方が特殊だと思う。大好きだったゲーム世界を堪能して、すべての絶景を見てみたいという野望もある。
でもケントとココアは、すぐ近くに故郷の村があって、両親――家族がいる。そんな二人を、自分の都合で振り回してしまうのはよくない。ずっとそう考えていた。
しかも今は、大聖堂関係がかなりきな臭くなってきているので、なおさら一緒にパーティを! とは誘いづらいのだ。
……親御さんも心配するだろうしね。
以前〈牧場の村〉に行ったとき、二人の母親と知り合い、どんな様子かなど聞かれたことがある。とても心配していたのが印象に残っている。
そんな二人を死んでもおかしくなさそうな私の旅には、誘いづらいんだよ……!
じゃあタルトはどうなの? というところではあるけれど、タルトは自分が病気で近いうちに死ぬと思っていた。けれど生きた。だから世界を旅し、〈錬金術師〉になるのだという夢を応援することにした。
「……まあ、考えても結論なんて出ないよね」
私はため息をついて、到着した冒険者ギルドの扉を開けた。
***
いつものように〈木漏れ日の森〉に〈オーク〉狩りにきた私たちは、さっそくティティアにスキルを使ってみてもらうことにした。ティティア自身もスキルを取得してから使っていなかったみたいなので、検証しなければ!
「――〈奇跡の祈り〉」
ティティアの澄んだ声が響き、ふわりと天使の羽が舞った。神秘的な光景に、思わず見惚れてしまったのも仕方がないだろう。
問題は、ランダムに神の奇跡が起きるというスキル効果だ。いったいどんな効果が得られるのか? 何種類くらいあるのか? マイナス効果もつくのか? などなど、知りたいことはたくさんある。
「どうですか? ティティア様」
「えーっと……三分間、攻撃力が三倍になるみたいです」
「――リロイ様すぐに〈オーク〉を連れて来てください!!」
「はい!」
ティティアの言葉を聞いてすぐ、私たちは動き出した。リロイが連れてくる〈オーク〉だけではもったいないので、私はその辺の石を拾って〈オーク〉に投げつける。攻撃力が三倍になるなんて神強化、倒しまくるしかないでしょう……!!
「遠慮なく投げちゃって!」
「は、はいっ!」
攻撃力が二倍になる〈女神の一撃〉をかけている暇すら惜しい。一応、できるかぎりはかけるけど!
ティティアは私が石を投げて釣った〈オーク〉に「えいっ!」と〈火炎瓶〉を投げた。綺麗な山なりで投げられた火炎瓶は、〈オーク〉にぶつかるとすさまじいほどの火柱が立ちあがった。
「うわっ」
「ひゃっ!」
「にゃにゃっ!?」
思わず、私、ティティア、タルトの驚いた声が重なった。威力三倍、すごいね。私が感心していると、「お願いします!」とリロイが〈オーク〉二匹を連れてきた。常に自身に〈女神の守護〉でバリアを張っている。
現時点で二分ほど経ってるから、リロイが連れて来てくれた〈オーク〉を狩って小休止だ。
「ティティア様!」
「はいっ!」
リロイの呼び声に応えてティティアが再び〈火炎瓶〉を投げる。今度は私の〈女神の一撃〉もかけているので、先ほどより威力がえげつないことになった。
……すごすぎだよ、〈教皇〉
〈オーク〉のドロップアイテムを回収し、私はティティアを見る。
「なんていうか、すごいスキルだね……」
「は、はい。わたしも驚きました……」
ティティアはまだ落ち着かないみたいで、両手で自分の胸を押さえている。
そして落ち着いたところでレッツもう一回。再び神秘的な光景を見つつ、ティティアの口から出たのは「速さ+3%です……」というものだった。
……前衛職や物理後衛職なら助かるけど、ティティアの場合は必要ないね。やはり奇跡とはいえ、ほしい効果ばかりがくるわけではないようだ。さらにためした結果、物理攻撃力、防御力、結界、回復、あたりがよく起る奇跡みたいだね。やっぱり最初の攻撃力三倍は、かなりレアな奇跡だったみたい。
ひとまずティティアの奇跡は余裕のあるときに試すことにして、ほかのスキルの検証にいきたいんだけど――本当に〈最後の審判〉を使っていいだろうか? と悩んでいた。
……私みたいな人間ならいいけど、ティティアはモンスターを〈火炎瓶〉で倒しているとはいえ純真無垢な子供……。〈最後の審判〉とかいう、恐ろしい名前のスキルを本当に使わせていいのだろうか……と、思ってしまうのだ。
もちろん、私なら悩む間もなく使うけどね!
私が真剣な顔で悩んでいたら、服の裾をくいくいと引っ張られた。ティティアだ。
「シャロン。そんな不安そうな顔をしないでください。わたしなら大丈夫ですから」
「ティティア様……」
ティティアは私を安心させるように、優しく微笑んでくれている。その後ろではリロイも「お支えいたします」と頷いている。
……ううぅ、ティティアに気遣われてしまった!
「ぐだぐだしてるのは私だけかぁ。……よし! じゃあ、お願いします!」
「はいっ!」
私は気合を入れて頬を叩いて前を見据える。少し先に〈オーク〉がいるのが見えるので、ターゲットにちょうどいいだろう。
……ひとまず、これでスキルの使用感がわかるね。
ということで、肉壁リロイ再びである。
リロイが〈オーク〉を抑え込んだところで、念のため一発だけタルトに〈ポーション投げ〉をしてもらい弱らせてもらっておく。
これで、何か想定外なことが起きても対処できるだろう。
「ティティア様、お願いします」
「はい」
ティティアはゆっくり深呼吸をして、リロイに殴りかかっている〈オーク〉を見据える。その真剣な瞳は、まさに〈教皇〉の名に相応しいと思う。
「――〈最後の審判〉!」
周囲に、ティティアの力強い声が響く。
同時に圧倒的な存在感を受けて、私は息がつまりそうになる。スキルを一つ使っただけで、これほどプレッシャーを感じるとは思いもしなかった。わずかな息苦しさの中、私は〈最後の審判〉を受けた〈オーク〉を見る。
〈オーク〉の上空に翼を持った天使が現れた。耳が翼になっていて、背中にも羽が生えている。まさに神の御使いといえるだろう。
小柄な天使には似合わない大剣を手にし、〈オーク〉の脳天へと投げつけた。
そして〈オーク〉に突き刺さる瞬間、大剣から天使の翼が生え――〈オーク〉が全回復しティティアが気絶しその場に倒れた。
感想ありがとうございます!
連載再開待っていただけていたり、書籍買っていただけたり、温かいコメントたくさんで嬉しいです……!
引き続き楽しんでいただけるよう頑張っていきたいと思います!
本日、書籍2巻が発売です!
発売一週間が勝負どころらしいので、どうぞよろしくお願いいたします~~!
コミカライズも連載中ですので、そちらも一緒に楽しんでください~!(現在2話まで更新中です!)
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_FL00203297010000_68/