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回復職の悪役令嬢  作者: ぷにちゃん
エピソード2 錬金術師のプレイヤー的育成方法
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33 〈遅延ポーション〉の効果

 ギルドを後にした私は道具屋を何件かまわり、宿に帰って来た……んだけど、まさかみんなまだ寝ていた。

 ……よっぽど疲れてたんだねぇ。

 部屋でつまめる軽食をお願いした方がいいかもしれないと思い、私は食堂でシチューとサンドイッチを用意してもらった。


「んにゃ……おはようございます、にゃ?」


 タルトが鼻をふんふんさせながら目覚めたので、どうやらお腹が空いているみたいだ。食堂からご飯をもらってきたのは大正解だったね。


「おはよう、タルト。よく眠れた?」

「はいですにゃ。って、もうこんな時間ですにゃ!?」


 窓の外を見たタルトがショックを受けている。昨日は〈製薬〉もしていたし、ティティアの呪いのことを知ったり、いろいろあって疲れもピークだったのだと思う。私が不在にしている間、ティティアのことを見てもらっていたしね。


「顔を洗って着替えて、ご飯にしよう」

「はいですにゃ」


 タルトの準備が終わったくらいに、ティティアが目を覚ました。しばらくベッドの上でぼーっとしていたので、寝起きはあまりよくないみたいだ。

 それからしばらくして、リロイも起きた。こちらはあまりに熟睡してしまったことに驚いて、「すみません」と申し訳なさそうにした。気にすることないですよと言って、簡易衝立を示して着替えを勧める。



 みんながご飯を食べ終わると、私とタルトは顔を見合わせて頷く。タルトが取り出したのは、昨夜二人で用意した〈遅延ポーション〉だ。


「それは……!」


 リロイが大きく目を見開いて、驚いている。まさかこんなに早く用意できるとは思っていなかったのだろう。


「タルトは優秀な〈錬金術師〉ですからね」

「そうでしたか……。ありがとうございます、タルト。これでティティア様を救う光が見えました」


 そう言って、リロイは左胸に手を当て膝をついて感謝を示す。これは上位者などに対して行う恭順のポーズでもある。それを一介の冒険者にすることは、普通ならばありえない。それだけリロイが本気で感謝していることがわかる。


「い、いえっ! わたしは〈錬金術師〉ですし、助けられるならばうれしいですにゃ」

「とても謙虚なお嬢さんですね」


 リロイはタルトを見て頬を緩め、視線をティティアに向ける。一刻も早く〈遅延のポーション〉をティティアに使ってほしいのだろう。

 タルトは「どうぞにゃ」と言って、ティティアとリロイにポーションを渡した。リロイが自分のも? という感じで驚いているが、当たり前でしょ!


「リロイ様とティティア様、二人で同じくらいの進行にした方がいいですよ。呪いが偏って、もう一方に変な作用とかあったら嫌ですから」


 私が理由を告げると、ティティアがこくこくと何度も頷いた。その瞳には心配の色が浮かんでいる。ティティアにとっても、リロイは大切なのだろう。


「リロイも飲まなければ駄目です」

「わかりました」


 リロイとティティアはそれぞれポーションを手に取る。しかし飲む前に、リロイが私を見た。


「? どうかしましたか?」

「飲んだ結果、どうなるか把握していた方がいいと思いまして……。嘆きの印に変化があるか、見てもらっていてもいいですか」

「……わかりました」


 私が頷くと、リロイが法衣の上を脱いで背中を見せた。


「……って、この間よりも魔法陣が完成に近づいてるじゃないですか」


 恐らく完成したら、即死効果が発揮されるのだろうと思う。目に見えて動いているのがわかるわけではないけれど、ゆっくりゆっくり、確実に、この魔方陣は勝手に成長していっているみたいだ。それはティティアも一緒だろう。

 ……こんなのが背中にあったら、怖くてたまらないね……。


「シャロンは博識ですね。魔法陣を覚えていたのですか?」

「そんなに知識があるわけではないですよ。覚えていたのは……まあ、記憶力はいい方なのです」


 ゲーム限定で、とついてしまうのが少し悲しいけどね。

 この世界のことは、忘れていることも多いけれど、大抵は覚えている。地図やダンジョンの仕様に、ボスの倒し方。特殊職業に関しても、一度プレイしたものや、役立つものは記憶している。でも、これは種類が膨大なので、全部覚えるのは無理だと思う。


 私の言葉を聞いたリロイは、「心強いですね」と微笑んだ。


「では、飲ませていただきます」

「いただきます」


 リロイとティティアに、私とタルトは頷く。

 二人がポーションを飲むと、背中にある魔法陣が淡く光った。ポーションの効果がしっかり嘆きの印に届いているみたいだ。

 私はリロイの背中の印に変化がないかしっかり見ていないといけないので、背中をガン見させてもらう。司教という立場だけれど、しっかり鍛えられた背中をしている。


「あ……!」


 嘆きの印の光が弱まってくると、魔法陣が途切れている部分が、蝶々結びの形に変化した。これ以上は魔法陣が広がることはないと、そう示しているようだ。ゲーム時代に使った時は気にしてなかったけど、実際に〈遅延ポーション〉を飲むとこんな変化が現れるんだね。


「魔法陣の途切れた部分が、蝶々結びになりましたよ。おそらく、この結び目があるうちは呪いが進行しないんだと思います」

「そのようになるのですか……ありがとうございます」

「わたしの背中も同じようになっているのでしょうか?」


 ティティアがこてりと首を傾げたので、私とタルトも一緒に首を傾げる。たぶん、同じようになってるんじゃないかな?


「シャロン。ティティア様の背中を確認していただいてもいいですか? 私が肌を見るわけにはいきませんから」

「わかりました」


 リロイからの頼みに頷いて、私はタルトと一緒にティティアを簡易衝立の奥へ連れていく。ティティアが法衣を脱ぐのを手伝い、背中を見る。


「どうですか?」

「リロイ様と同じで、蝶々結びになっていますにゃ」

「魔法陣の形も一緒なので、進行具合も同じですね。しばらくは蝶々結びの変化をこまめに確認して、ほどける前に〈遅延ポーション〉を飲んだ方がいいと思います」

「わかりました。何から何まで、ありがとうございます」


 頭を下げて礼を言うティティアに「大丈夫ですよ」と微笑んで、法衣を整えてあげる。しっかり眠れたこともあって、今は出会ったときより顔色もよくなってるね。


 簡易衝立から出て、私はリロイに全く一緒だった旨を報告する。


「しばらく、リロイ様とティティア様の背中の印を定期的に確認しましょう」

「どうぞよろしくお願いいたします」


 リロイが礼を口にすると、私の〈鞄〉がふわりと光ってウィンドウが目の前に現れた。



【ユニーク職業〈聖女〉への転職】

 わずかに見えた解決の糸口に、教皇の僕は安堵した。

 教皇は従者を救ってくれたことに感謝し、あなたに鍵をくれるでしょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 教皇の僕は安堵した。 「教皇の僕(ぼく)は安堵した」と読んでしまってティティア様、ボクっ娘だっけ?としばらく考えてしまいましたが僕(しもべ)ですねw ここはルビを振ったほうが良いかもしれ…
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