32 スノウティアの〈冒険者ギルド〉
外の騒がしさが耳に届いて、私は目を開けた。窓の外を見ると、太陽はとっくに高い位置に昇っているではないか。
……めちゃくちゃ熟睡してしまった。
「最近は移動や狩りばっかりだったし、体も疲れてたのかな~」
まさか一番の寝坊助になってしまうなんて。みんなはご飯を食べに食堂に行ってたりするかな? なんて考えながら部屋を見回すと、みんな、まだ寝ていた。入り口に近いところから、リロイ、ティティア、タルト……そして私の順番だ。
「私が一番の早起きさんかぁ」
気持ちよさそうに眠っちゃって! なんて思ったけれど、リロイだけは泥のように眠っている。
「……大変、だったよね」
路地裏でかいだ血の匂いは、きっと忘れることはないだろうと思う。けれど、これからもこの世界で暮らすことを考えると、同じようなことが起きるかもしれない。
……もっと強くならなくちゃ。
備え付けられていた簡易衝立で着替え、みんなを起こさないように部屋を出る。ここに敵はいないので、今はゆっくり眠ってほしい。
食堂で朝食兼昼食をとった私は、スノウティアの〈冒険者ギルド〉にやってきた。目的はもちろん、タルトが〈製薬〉で使う素材の購入だ。〈火炎瓶〉はいくつあっても足りないからね!
……だけど、同時に金策もしていかなきゃだね。
今はリロイに納品した〈嘆きの宝玉〉のお金があるけど、それもいつかは尽きてしまう。レベル上げをしつつ、金策もできれば一番いいよね。
それから、リロイとティティアにレベルを聞いて、一緒に狩りをした方がいい。これから戦いが始まることを考えると、私たちは早急にレベルを上げるべきだ。でなければ、また襲われて、今度は逃げきれず殺されてしまうかもしれない。味方の聖騎士とも合流できてないのも痛い。
スノウティアのギルドの前には、誰かが作ったのか、私の身長くらいの雪だるまがあった。可愛くてちょっとほっこりするね。
しかしそんな穏やかな気分は、ギルドに入ると一蹴される。中にいる冒険者はツィレのギルドよりもいかつい人が多く、どこかピリッとした空気も感じる。おそらく、ツィレよりもこっちの方がモンスターが強く、ダンジョンの難易度が高いからだろう。
受付が空いたのを見て、私は受付嬢に声をかける。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。みない顔ですね……スノウティアは初めてですか?」
「初めてです」
私は頷いて、〈冒険者カード〉を見せる。これが身分証になって、私の強さや実績などを確認することができるようになっているのだ。
「シャロンさんですね。スノウティアの説明は必要ですか?」
「お願いします!」
「かしこまりました」
元気に返事をしたら、受付嬢にクスっと笑われてしまった……。だって記憶が戻ってからスノウティアに来たのは今回が初めてだもん。ことがことなだけに冷静に努めようとはしているけれど、内心はテンション爆上がりだ。
「見ての通り、スノウティアは一年中冬の街です。日が沈むのが早く、夜中はとても冷え込みます。軒下に氷柱ができて危ないので、街中を歩くときも十分に注意してくださいね。雪かきは住民と、ギルドでも常設依頼として出していますので、もし手伝っていただけるようなら受注をお願いします。ほかの街を繋ぐ街道は冬ではありませんが、それ以外の場所は雪原になっています。雪が多いので、専用の靴の購入をお勧めしております」
雪、私が思ってる以上に大変そうだ。横目で依頼掲示板を見ると、確かに雪かき関連のものがたくさんある。
「雪には不慣れなので、説明助かります」
「いえいえ。それから、街のすぐ北側はモンスターが強く、ダンジョンにもなっています。とても強いモンスターが出るので、不用意に近づかないよう気をつけてください。……何人も冒険者が亡くなっているんです」
「北側の……」
そういえばスノウティアのすぐ北には、〈サンタの家〉というフィールドで、地下へ行くと〈秘密の地下工場〉というダンジョンがある。今は行く予定はないけれど、クリスマス気分を味わえる楽しいところだ。
「それから、街の東にある〈雪の森〉は、非常に迷いやすいです。スノウティアの人間でも迷うことがあるので、入る際は十分に注意してくださいね」
「わかりました」
〈雪の森〉の先には、エルフの住む〈森の村リーフ〉があるんだけど……この様子だと、交流はなさそうだね。道を知らない場合、迷ってしまう森なのだ。私はもちろん知っているけど。
それから、スノウティアの周囲に出るモンスター情報などを教えてもらった。モンスターの配置はゲーム時代と変わっていないようだった。
「スノウティアに関しては、そんなところでしょうか」
「ありがとうございます。とても為になりました」
「どういたしまして。ギルド職員は、冒険者のサポートも仕事のうちですからね。何かあれば、すぐに相談してください」
「はい」
すごく助かりますと、私は頷く。そしてさっそくで申し訳ないけれど、買い取りたい素材の相談をすることにした。
「〈火のキノコ〉と〈オークのぼろ布〉がほしいんですけど、ありますか? それから、〈沈黙の花〉も」
手に入りづらいので、ツィレのギルドと同じように話をする。ほかの材料の〈魔石〉と〈油〉と〈空のポーション瓶〉に関しては、いつでも手に入るので問題ない。ただ、ティティアとリロイのことを考えると、〈沈黙の花〉は可能な限り手元に置いておきたいね。
「そうですね……〈オークのぼろ布〉でしたら、そこそこ在庫があります。生息場所がスノウティアからも近いので……。ただ、〈火のキノコ〉はこの辺だと採取が難しいので、少し在庫があるくらいです」
そういえばここは冬の街だったと思いだす。〈火のキノコ〉は気温が高い場所ほどたくさん生えているので、雪が降っているこの周辺だと手に入りづらいみたいだ。なので、お値段も普通より高いらしい。
……今度、砂漠に行って〈火のキノコ〉を乱獲しよ……。
〈火炎瓶〉はないと戦えないので、ちょっとお高いながらも〈火のキノコ〉四五本を購入し、〈オークのぼろ布〉もあるだけ全部買い取った。こっちはかなり在庫をかかえていたみたいで、なんと四一六枚もあった。これは助かる。受付嬢にも、買い取ったことをめちゃくちゃ感謝された。
「〈沈黙の花〉は、今は一〇本でしたら在庫があります。ただ、これは貴重な花なので、次にいつ手に入るかはわかりません」
「うーん……買取依頼を出してもいいですか?」
「もちろんです」
早めに手に入れたいので、相場よりもちょっと高めで買取依頼を出すことにした。スノウティアのギルドには屈強な冒険者がいっぱいいるし、頑張ってくれることを期待だね。