31 合流
私はリロイと共にツィレの街を出る前に、ゲートを使って一人先にスノウティアへ戻ってきた。この後すぐ、またゲートを使ってツィレに戻りリロイと馬でスノウティアまでくる予定だ。
「お師匠さま……!」
「タルト!? どうしたの、涙目になって……」
しかし宿屋に戻ってみると、タルトが慌てふためいていた。奥のベッドではティティアが寝ているが、少し寝苦しそうに感じる。
私が深呼吸をして落ち着くようにと告げると、タルトは「にゃっにゃ~」と何度か深呼吸を繰り返した。そのまま「にゃふ」と落ち着いたところで、ばっと顔を上げて私をみた。
「大変なのにゃ、お師匠さま! さっき、ティティア様と部屋についてる温泉に入ったのにゃ」
「あー……」
タルトの言葉で、私はすぐに何があったか理解した。一緒にお風呂に入ったということは、ティティアの背中にある嘆きの印を見てしまったのだろう。あれは見ただけでぞわりとするものがあるし、黒紫の魔法陣は気持ちのいいものではない。
私が察したことに気づいたタルトは、「知ってたんですにゃ?」と戸惑いを見せる。
「私も今さっき聞いたところ。ツィレにティティア様の仲間がいてね、偶然知り合えたんだ」
偶然かどうかはちょっと怪しいけど……。
私はもう一度ツィレに戻り、その人を連れてくることをタルトに告げる。馬なので明後日くらいには到着するだろうか。
「その間は私が一緒にいられないから、宿屋から出ないで待っててくれるかな?」
「はいですにゃ。ティティア様の看病もお任せくださいにゃ」
「うん。頼りにしてるね、タルト」
それから〈遅延のポーション〉を作って魔法陣の完成を遅らせるというのも伝えておく。材料は道具屋などで購入できたらすぐ用意できるけれど、無理そうなら取りに行くことも伝えておく。
スノウティアに来たので、せっかくだからぼろ布が売ってないかの確認もしたいところだ。あと〈火のキノコ〉も全部ほしいところだけど……さすがに買い占めたらほかの人の反感を買ってしまうかもしれないしね。
***
私がツィレに到着すると、リロイは準備を終えて建物の影に隠れるように立っていた。ロドニー派の人間に見つからずにすんだみたいだね。
「お待たせしました。準備は大丈夫ですか?」
「ええ。〈聖水〉もいくつか作ってきました」
「あ、それは助かります」
〈遅延のポーション〉を作るのに〈聖水〉は必要なので、何個あってもいいくらいだ。私もスノウティアに行ったら〈聖水〉を作ろう。
「それじゃあ、馬を借りて行きましょう。途中で野宿するので、明後日くらいにスノウティアに着くと思いますよ」
「ありがとうございます」
***
そして二日後、私とリロイは無事スノウティアに到着した。
「ああ……っ、ご無事で何よりです、ティティア様……」
「リロイ……! まさか、スノウティアでこんなに早く会えるとは思っても見ませんでした。シャロン、リロイを連れて来てくれてありがとうございます」
ティティアもリロイも感極まっているのか、うっすら涙を浮かべている。そして互いの無事を心から喜んでいるみたいだ。無事に引き合わせることができてよかった。
「休憩もあんまりしないでずっと馬で駆けてたから、少し休みましょう。部屋は……リロイ様は一人部屋を用意すればいいですか?」
「お気遣いありがとうございます。部屋は……まだ危険が消えたわけではないので、このまま同じ部屋にしていただけると嬉しいのですが」
「え……」
さすがに同じ部屋はどうかと思うんだけど……そう思いながらティティアを見ると、とても安心しているのがわかる。タルトはあまり深く考えていなさそうだ。
……まあ、二人がいるなら大丈夫かな?
「わかりました。受付で部屋を広いところに替えてもらうので、移動しましょう」
「はい」
広い部屋に移るとすぐ、ティティアとリロイは寝てしまった。二人ともよほど疲れていたんだろうね。
私は二人を起こさないように、タルトと部屋の隅に移動すると、〈製薬〉するための道具などを出してもらった。釜とか、そういうやつだね。
「それじゃあ、〈遅延ポーション〉を作ろうか。材料は、〈沈黙の花〉〈聖水〉〈星のマナポーション〉〈空のポーション瓶〉だよ」
「初めて作るポーション……頑張りますにゃ!」
幸い〈沈黙の花〉はスノウティアの道具屋で売っていたので、それを使って〈製薬〉をしてもらう。ただ、本数があまりなかったので、今後のことを考えると取りに行った方がよさそうだとは思う。
今回みたいなイレギュラーが今後も起こることを考えると……〈簡易倉庫〉にある程度の素材のストックを持っておきたいね。ワクワクドキドキ素材ツアー! を開催した方がいいかもしれない。
私が考えごとをしていると、タルトが「できましたにゃ!」と声をあげた。時計をモチーフにしたポーション瓶がお洒落な〈遅延ポーション〉だ。
「タルト、いつの間にか腕を上げたねぇ……」
「〈火炎瓶〉をたくさん作りましたからにゃ。まだ必要でしょうし、材料を集めてもっと作りますにゃ!」
「優秀な弟子を持てて、私は鼻が高いよ~!」
嬉しくて可愛くてタルトをぎゅーっと抱きしめると、「お任せですにゃ」と嬉しそうに笑ってくれた。
感想、誤字脱字報告、ありがとうございます。
いつもあとがきを書こうとして忘れてしまう……。
モンスターの〈スネイル〉に関してもご指摘ありがとうございます。
私の英語力のなさがばれてしまったw
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