24 〈火炎瓶〉事情
「〈身体強化〉〈マナレーション〉! ケント、右前方奥、〈オーク〉が一体いるから注意して!」
「わかった!!」
蛇と蜘蛛一匹ずつと、〈オーク〉一体をまとめたケントは、右にいる〈オーク〉に悟られないよう、左に大きくジャンプする。それを確認してから、タルトとココアが攻撃をする。今回は〈女神の一撃〉をかける余裕がなかったから、タルトの攻撃二回で〈火炎瓶〉も二本消費だ。
……うん、いい調子!
私が想定していたよりも、前衛をしているケントの動きがいい。きちんとモンスターの数を把握しているし、倒し終わったあとは次に行く前にこっちを見て状況確認もしてくれている。無謀なこともせず、堅実に、確実にモンスターを釣って倒す……という感じだ。戦闘に関して、しっかり勉強してるのだろうということがわかる。
「あと一体で、討伐数の一〇になるな」
「うん、頑張ろう!」
ケントとココアはかなり自信がついたみたいで、最初に〈オーク〉を討伐するといったときより元気いっぱいだ。
「よし、〈女神の一撃〉!」
「ありがとうですにゃ、お師匠さま!」
タルトは〈鞄〉から〈火炎瓶〉を取り出して、思いっきり〈オーク〉へ投げつけた。同時にココアも一撃入れたので、あっという間に倒してしまった。
……〈火炎瓶〉、めっちゃ強いね。
おそらくココアの〈ファイアーアロー〉だけしか攻撃手段がなかったら、装備がないことを考えて、軽く二〇発は必要になっていたと思う。それはあんまり、現実的ではないね。
「ふー、なんとか一〇体の討伐完了! とりあえず休憩にするか」
「賛成!」
ケントの提案に頷いて、私たちは切り株がいくつかある開けた場所で休憩することにした。切り株が椅子替わりになってちょうどいい。
お茶を飲みながら、私はドロップアイテムのことを思い出した。今回〈オーク〉を選んだ最大の理由が、〈オークのぼろ布〉がほしかったからだ。
「ねえ、ケント、ココア。二人が問題なければ、ドロップアイテムのぼろ布を売ってもらえないかな?」
「「え?」」
私の言葉に、二人の声がハモった。とても不可解な表情をしているので、こんな布を買ってどうするつもりなんだと思っているんだろう。まあ、〈オーク〉の布がほしい女子なんていないもんね……。
「わたしが〈火炎瓶〉を作る材料に必要なんですにゃ」
「それって、タルトが投げてたやつだよな? こんなのが材料になってるのか……他には何を使ってるんだ?」
「〈火炎瓶〉を一本作るのに、〈火のキノコ〉二つ、〈魔石〉〈油〉〈オークのボロ布〉〈空のポーション瓶〉が一つずつ必要ですにゃ」
タルトが小さい手で指折りながら材料を告げると、ケントとココアが顔を青くした。
「待って、それって……一本作るだけでも、すごく大変なんじゃない!?」
「魔石と油はともかくとして……〈オークのぼろ布〉も〈火のキノコ〉も、高いだろ!? そんな高価なアイテムをばかすか使って狩りをしてたのか!? 俺たちは!!」
「「ぼろ布は全部タルトの取り分!!」」
あまりにも衝撃的だったのか、二人の意見が一致している。確かに必要経費ということを考えれば、〈火炎瓶〉の料金は狩りが終わった後に精算してもいいんだけど、それだとケントたちの取り分が消えちゃうからね……。かといって、何もなしというのも気遣わせてしまうのだろう。
「お言葉に甘えて、ぼろ布だけもらおうか」
「はいですにゃ。ありがとうございますにゃ。ケント、ココア」
タルトがぺこりと頭を下げてお礼を告げると、二人は「よかった~」とあからさまにほっとした。
「むしろ、これくらいしかできなくて申し訳ないって感じだからな……。タルトの〈火炎瓶〉、めちゃくちゃ強いし」
「そんな高価なアイテムなら、納得だねぇ」
反則だと言う二人に、私は笑いながら頷く。この狩りの仕方は、お金がないとできないからね。今はまだ楽に倒しているけど、高レベルモンスターやボスが相手になると、今回のように一~二本で倒すことはまず無理だ。
「でも、〈火炎瓶〉使ってよかったのか……?」
「わたしは〈製薬〉ができる〈錬金術師〉になりたいから、戦う手段が〈ポーション投げ〉だけなんですにゃ」
「なるほど、攻撃スキルがこれだけなのか」
それだと仕方ないなと、ケントが苦笑する。
「今後、アイテムが手に入ったら、ギルドに売る前にタルトに声をかけるよ」
「ありがとうですにゃ、助かりますにゃ!」
ケントの申し出に、タルトがぱああぁっと嬉しそうな顔をした。よき関係を築けそうで、師匠の私も安心だ。
それからしばらく狩りをして、私たちは街に戻った。
狩り終了後の〈火炎瓶〉の残数は五本。緊急事態が起きたら恐ろしいので、全部使うというのは避けたいから、ちょうどいいね。
もちろん、私たちのレベルもアップした! 私はレベル21に、タルトはレベル20に、ケントとココアは27になった。
ちょっと物足りないけど、ゲームではなく現実だと考えるとこんなものだろう。それでも、ケントとココアはレベルの上がりに驚いていた。