22 〈火炎瓶〉作り
「んにゃああぁぁぁ、臭い、臭いですにゃ〜〜〜〜っ!!」
宿に戻った私とタルトはさっそく〈火炎瓶〉を作ろうとしたのだが、素材の一つ、〈オークのボロ布〉が入った袋を開けたとたんタルトが絶叫した。
……うん。私も臭いがきつくて、鼻をつまんじゃったもん。
「私は我慢できるけど、タルトは辛いよね。とりあえず鼻と口をタオルで覆っておこうか」
「はいですにゃ」
急いでタオルを取り出して鼻を覆うようにタオルを顔に巻いた。まだ匂いは辛いけど、多少はマシになった……と思いたい。とりあえず、これは何か対策を考えた方がいいね。
タルトは道具屋で買った道具を一式机の上に並べていく。〈上級調合鍋〉に、〈よく燃える火種〉と〈リュディアの若芽の混ぜ棒〉の三つ。そして材料は、〈火炎瓶〉一本につき、〈火のキノコ〉二つ、〈魔石〉〈油〉〈オークのボロ布〉〈空のポーション瓶〉が各一つずつ。材料は採取、狩り、どちらも必要になってくるので、〈火炎瓶〉の威力はすさまじいけれど、作るのはちょっと面倒。
「わたしの錬金道具……! 早く〈製薬〉したいですにゃ」
「じゃあ、さっそくやってみようか」
はしゃぐタルトにくすりと笑って、私は「〈製薬〉の手順は覚えてる?」と聞いてみる。すると、タルトは大きく頷いてくれた。
「もちろんですにゃ! お師匠さまに教えてもらったことは、全部覚えてますにゃ!」
「優秀だね」
私が褒めると、タルトはへらりと笑う。可愛い。
「あ、〈火炎瓶〉の作り方は〈中級錬金ブック〉に載ってるよ」
「はいですにゃ」
タルトはブックを取り出して、〈火炎瓶〉のページを開く。簡単なイラストと、材料や使用方法など説明が記載されている。タルトはそれを読んでから、「やってみますにゃ!」と気合を入れた。
錬金術の〈製薬〉は、基本的にレア度の低いものから錬金釜に入れてまぜるだけだ。一見難しそうな雰囲気を醸し出しているけれど、やってみれば単純作業だということがよくわかる。
タルトは錬金釜にアイテムを入れ、ピカッと光ったら次のアイテムを入れ、グルグルかき混ぜるというのを繰り返す。するとあっという間に、〈火炎瓶〉ができあがった。〈火炎瓶〉は、透明の瓶の中に炎が燃えていて、瓶の蓋がドラゴンを形どっている。投げると爆発するのだけれど、スキルの〈ポーション投げ〉があると、その威力は何倍にも膨れ上がる。
「できましたにゃ! どうですにゃ? お師匠さま!」
「うん、バッチリ! よくできてるよ」
私が褒めると、タルトは「やりましたにゃ~!」と、とてもはしゃいでジャンプする。そのまま「もっと作りますにゃ」と言って、材料分の〈火炎瓶〉三二本を作り上げた。
「でも、さすがにちょっと疲れましたにゃ」
「タルトは〈製薬〉回数がまだ少ないからね。集中力も必要だし、無理せず慣らしていこう」
「はいですにゃ」
私の言葉を聞いて、タルトは素直に頷いた。
***
翌日、私とタルトは〈火炎瓶〉を持って宿を出た。今日はこの〈火炎瓶〉を使って狩りをして、レベルを上げるのが目標です!
「ついでに、〈冒険者ギルド〉で討伐依頼を受けるよ。そうしたら、モンスターを倒したお金も貰えるからね」
経験値もドロップアイテムも討伐報酬も、もれなく全部もらうのだ。〈火炎瓶〉という戦闘スタイルを選んだタルトには、お金がたくさん必要だからね。今はまだ金銭的に厳しいけれど、レベルが上がればすぐに材料費より狩りの収入の方が高くなる。
「依頼……初めての依頼、頑張りますにゃ!」
「うん、頑張ろう! ギルドにケントたちがいたらパーティを組めるからちょうどいいんだけど……どうかな?」
ケントは前衛だからいてくれると助かるなと思いながらギルドに入ると、ちょうど依頼掲示板の前に見知った二つの影があった。
「ケント、ココア!」
「「シャロン!!」」
私が名前を呼ぶと、ケントとココアが振り向いて名前を呼んでくれた。「久しぶり!」と大きく手を振ってくれた二人のところにタルトと一緒に行く。
「久しぶり! それと紹介させて。一緒に旅をしてるタルト。一応、私の弟子……ってことになってる」
「初めましてですにゃ。タルトといいますにゃ。お師匠さまに〈錬金術師〉のことをいろいろ教えてもらっているんですにゃ。どうぞよろしくお願いしますにゃ」
タルトが行儀よく挨拶をすると、ケントとココアも頭を下げて挨拶を返している。三人とも笑顔なので、第一印象は悪くはなさそうだ。握手をして、タルトの肉球の柔らかさに感動しているのが微笑ましいね。
「じゃあ、俺たち四人パーティってことでいいのか?」
「うん!」
「はいですにゃ!」
私たちはあっさり四人でパーティを組むことに決めた。あとは今日受ける依頼を決めて、受付で手続きと一緒にパーティ登録をしてもらえば完了だ。
「問題は、どの依頼を受けるかだな」
「はい! オーク討伐はどうでしょうか!?」
私の主張に、ケントとココアが目を大きく見開いた。
「無理に決まってんだろ!?」
「オークなんて無理です!!」




